第25話サラマンダーと剣士
アニスという名の精霊の少女が今日から洞窟の時間軸で1週間オレの魔導の先生だそうだ。
アニスはちょっとナマイキそうな瞳でニッと笑いオレの目を見た。
「まだ魔導がどんなもんだか全然理解してないって目だな。響木千夜(ひびきせんや)、ここの洞窟の扉どうやって開けた?」
洞窟の扉……
「開けゴマって唱えたら開いたけど?」
するとアニスはクスクス笑い始めた。
「開けゴマね……その呪文はおとぎ話の影響で有名みたいだけどここの洞窟の扉が開いたのはその呪文のせいじゃないよ」
意外な解答だ。
確かに『開けゴマ』と唱えて開けたのに。
「あんたが魔力を込めて扉が開くように念じたから開いたんだ。呪文っていうのは自分の念を信じる暗示の言葉のようなものだ。開けゴマの言葉にチカラがあるわけじゃない。あんたがその言葉を発することによって自分は魔法が使えると信じたから開いたんだ」
自分は魔法が使えると信じたから開いた……つまり魔力というのは暗示のようなものなのか?
オレが戸惑っているとアニスは魔法道具のチェックを始めた。
「魔導のタロットカード、持ってるのにまだ使いこなせてなさそうだな」
監視者メシエから渡されたタロットのことか。
「このタロットただの占いの道具なんじゃ?」
オレは美しいイラストが描かれた22枚の大アルカナタロットカードを眺めた。
しかも占いと言っても【一枚引きの占い】という初歩的な占いしかオレには使いこなせていない。
「本当はそのタロットには戦闘の切り札になるようなチカラが備わっている。あんたがこのタロットにそんなチカラがあるはずないって思い込んでいるから使いこなせないんだ」
確かにごく普通のタロットに戦闘的な期待はしていなかった。
「いいか、魔導っていうのは一般的にはできるはずない、あるはずないと存在自体否定されているものなんだ。だけど魔導師本人まで魔導を否定したら本当に魔法はこの世から消えて無くなるだろう……信じるんだ。自分は魔法が使えると。千夜、オマエに足りないのは自分自身の魔力を信じるココロだよ」
自分自身の魔力?
オレにそんな魔力があるのか?
「千夜、オマエはさっき魂のエレメントの旅をして1番相性のいいエレメントを見つけ出した。千夜のエレメントは【月と水】のエレメントだ。この書物は水系の魔法が載っている本……この本の最初のページに書いてある水の呪文を唱えてごらん」
オレは本の1ページ目に短く書いてある簡単そうな呪文を試しに唱えてみた。
オレの手から水のかたまりが丸い玉になって浮き上がってきた。
ソフトボールくらいのサイズはあるだろうか?
ぷくぷくしながら水のかたまりはカタチを崩すことなく手の上でふわふわ浮いている。
「出来ただろう? さっきエレメントを調べたばかりだからオマエが水の魔法なら使えるという自信がついたんだ。それで簡単にその魔法が使えたんだよ」
なんとなく分かったような……つまり自分は魔法が使えると信じ込まない限り魔法は使えないということなんだろう。
「じゃあ次は本題のタロットカードだ。一枚引きでいいから引いてごらん」
アニスに言われた通り一枚引きでカードを引く……【皇帝のカード】玉座に座る皇帝のカードだ。
「次はそのカードの下の部分に小さく書かれた呪文を唱えるんだ。このタロットカードには偉大なチカラがあることを信じながらね」
アニスに言われた通りタロットカードの下の部分をよく見たが呪文のようなものは何も書かれていない……。
「何も書かれていないけど……」
「違うね千夜。オマエが呪文読もうとしないんだ。信じていないから。信じるんだ。そのタロットカードのもう1つのチカラを」
チカラを信じる……
すると次第に青い光でルーン文字が浮かび上がってきた。
呪文の意味は
【聖なるカードよ。そのチカラにより我に皇帝のチカラを与えよ】
オレが呪文を唱えると、皇帝のイラストに描かれている鎧や剣がいつの間にかオレ自身の装備になっている。まるでオレの今の装備はイラストに描かれている皇帝そのものだ。
「じゃあ……試しに、出でよサラマンダー!」
アニスは突然炎で出来た精霊呪文を唱え、トカゲのようなカタチの炎のかたまりをオレに向かわせた。
「キエエエエエエ!」
サラマンダーがオレに炎を放つ
バシュッ!
反射的に炎で出来たサラマンダーを持っていた剣で斬ってしまった。
ちょっと可哀想だったかな……。
というか剣なんて持つのも初めてなのにまるで自由自在に振ることが出来る……これは一体?
まるでオレ自身が剣士になってしまったようだ。
「出来るじゃないか? それが魔導正装呪文。タロットカードのもう1つのチカラ。引いたカードと同じ装備を見に纏いカードと同じ能力を持つことができる。これから訪れる戦闘に役に立つから覚えておけよ。これ以上はオマエの魔力が持たないだろうから今日はここで終了! 奥に部屋が用意してあるからよく休めよ」
アニスから訓練1日目終了を聞いた瞬間に気が緩んだのかすぐに皇帝の装備品は消えてしまい、オレは夢か何かを見ていたかのような錯覚に襲われた。
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