第17話猫の幻術


「魔導王の玉座に相応しいのはあの子シャルロットなの……あなたにはここで死んでもらうわ」


そう言うとシャルロットの猫は紫色の髪の美しい人間の女性に姿を変えて短剣をオレの首筋に突きつけた。


レストランの中の人達は時間が停止しているのかピクリとも動かない。


オレの首元に突きつけられた刃物から血が滴り落ちる……


「玉座はボウヤには渡さない。大人しくランプの権利をシャルロットに譲るのよ」


ランプの権利を譲る?


「お前一体何者だ? 猫の使い魔じゃなかったのか?」


「あら、気づかなかったの? 私がシャルロットのランプの精霊なの。でも普段は猫に姿を変えて使い魔のフリをしている……」


ランプの精霊……セラと同じランプの精だったのか?


「大昔にね……裏切り者が出たのよ。アイツはランプの精霊のクセに主人を殺して自分が玉座に就こうとしたの。みんな最初はアイツが精霊だということに気づかなかったわ。だってまるで人間であるかのように振舞って魔力を完全に消していたの。初代シャルロットはアイツに殺されたわ……他のランプの持ち主達もね」


「ランプの精霊が主人に成り代わっていたということなのか? 」


「もう大昔のことだから、知っているのはランプの精霊だけよ。そして、再びアイツはやって来た。このままじゃみんなアイツに殺される。私の可愛いシャルロットも……。アイツに対抗するチカラを持つには他のランプのチカラを吸収してアイツのランプのチカラを超えるしかないの。そして玉座につくことだけが私たちの生き残る道……」


シャルロットのランプの精霊は何か考えているようだ。


「ランプの権利をシャルロットに渡すか、ボウヤが死んでランプをシャルロットに譲るかどちらか選んで……どうする?」


「どうするも何もランプの権利の渡し方なんてオレは知らない。オレが死んでも権利がシャルロットに渡るかなんてランプの精霊が決めることだ。それに、死なずに権利を譲る方法があるのか?」


この猫の言うことは少し矛盾していないか?

ランプの権利を譲るか

オレが死んでランプをシャルロットに渡すか


両方同じ意味に感じるが何がどう違うんだ?


「血を引き継ぐのよ。シャルロットを抱いて子供を作り新しいランプの持ち主を作るの……シャルロットが妊娠した時点でランプの権利はその子供に引き継がれるわ。ボウヤのランプとシャルロットのランプの両方の権利はお腹の子供のものになる。その子供が新しい私のご主人サマね。初代ランプのチカラが加わればアイツにも勝てるようになるでしょうね」


そういえば、今朝ランディが一族の偉い人がオレを婿に迎えたいって言っていたと話していたな……。まさか子供を作ってランプの権利を継承したいという意味なのか?


「お前……まさか誰かに頼まれて……」


パチッ


停電が収まるように時間が動き出した。


オレは解放されてガクりと座り込んだ。

切られたハズの首元を触るが傷も何もない。


まさかさっきのは猫の幻術だったのか?


「千夜さん、大丈夫ですか? 貧血ですか?」

セラがオレを支えてくれた。


アティファは何も気づかなかったのか、シャルロットの猫を抱っこしている。猫は何もなかったかのようにポーカーフェースである。


レストランのチャイムが鳴る。


「もう! 心配かけて、迷子になったんですの? 千夜に迷惑かけてないませんこと?」

やって来たのは金髪ポニーテールの美少女シャルロットだ……魔法猫は迷子になったと思い込んでいるらしい。


「ごめんなさい。私の魔法猫、たまに姿を消すんですの。どうしてかしら? 千夜さん何か変わったことはありませんでした?」


変わったことも何も、今さっきまで魔法猫に脅迫されていたんだが……


オレは猫に「シャルロットを抱いて子供を作るか、死んでランプを渡すか迫られた……」なんて話をできるはずもなく、素知らぬ顔でペットセンターに連れて行かれる猫を見送りながら、なるべくポーカーフェースでレストランの席に着いたのであった。

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