第15話令嬢の行方
強制ワープで戻らさせられたのはオレ達の拠点となっているコテージのリビングだった。
精霊王の使いがオレに古びた鍵をひとつ差し出した。
「これはテストをクリアした証拠の鍵です。玉座に繋がる1番目の扉を開けることが出来ます。この鍵を12本全て揃えた人間が魔導王の玉座に座ることが許されます。今日のテストはこれで終了です。全員分のテストが終わるまで待機になります。数日かかる予定ですのでその間自由にしていてください。」
そう言って精霊王の使いはワープして去って行ってしまった。
数日かかるということは、他の人のテストは結構難航しているということだろうか?
「千夜様、助けていただき本当にありがとうございます」
元奴隷の少女アティファに礼を言われる。
助ける……と言っても結局じゅうたん10枚分の金でこの少女を「買う」という方法でしかこの女の子を助けることができなかった。
果たして本当に問題を解決したことになるのだろうか?
「千夜さん、アティファちゃん奴隷服のままでは可哀想です。何かお洋服を用意してあげましょう! アティファちゃん……お風呂に入って準備していて下さいね」
「は、はい!」
アティファの服装は薄汚れた布を巻いただけの奴隷服だ。確かにこのままでは可哀想だし目立つだろう。
「……女の子の洋服ってよく分からないからセラに頼んでいいかな?」
「もちろんです!」
セラはランプの精らしく煙と共に何処かに消えてものの数分で戻ってきた。
アティファは現在風呂を浴びて身支度中だ。
「魔導師用の一般服を用意してきました。これなら街にでても目立ちません」
「ありがとうセラ。なんか楽しそうだね」
世話好きなのか魔導服を準備するセラはウキウキして見える。機嫌が良さそうだ。
「ご主人様の第一関門突破を喜ばない精霊はいません。それに、アティファちゃんの魔力はかなりのものです。他のランプの持ち主たちが皆魔法を使える限り千夜さんは魔導師と契約することで対抗するしかないんです。順調になってきたのが嬉しいんです」
まさかセラがそんなことで喜ぶとは……やっぱりランプの精霊は自分の主人に玉座を取って欲しいものなんだな。
そう言ってセラはシャワールームにいるアティファの様子を見に行ってしまった。
しばらくすると身綺麗になったアティファがセラに連れられて現れた。
アティファの服は一見すると普通のワンピースに見えるが魔導師用のローブだそうだ。真紅の色が茶色の髪とよく似合う。
「千夜様、セラさん。こんな上等の魔導服まで用意していただき嬉しいです。ありがとうございます! 精一杯働きます」
アティファは少し照れているようで恥ずかしそうな表情だ。
セラがアティファの歓迎を兼ねてコーヒーとデーツでお茶の時間にしてくれた。
デーツというのは砂漠地方でよく食べられているドライフルーツだ。ナツメヤシともいう。赤茶色の甘い身でサイズはイチゴくらいだろうか? 中に大きな種が入っている。
栄養価にとても優れていて日本でも輸入食品の置いてある店には入荷している。
甘いデーツとコーヒーはよくあっていて栄養補給をしたせいかオレはホッとした気持ちになった。
ミニドラゴンのルルもデーツが好きなのかパクパク食べている。
「アティファちゃんはどうして捕まってしまったの? その腕につけている魔導アイテムは伝統的な魔導の村に伝わるもののはず」
セラがアティファのブレスレットを指して言う。そういえばこの子は魔導師の村から奴隷船に乗せられて連れてこられたと言ってたな。
「はい、私たちは山間部の小さな村で代々魔導師をしているんです。魔導師と言っても普段は畑を耕したり、絹糸を紡いだり……たまに魔導師貴族の一族に魔導用のアイテムを売買する程度の付き合いしか外の世界との繋がりはありません。そういう静かなところなんです。でも、境界王の使いが村を包囲して村人達のうち何人かが奴隷船に乗せられて」
境界国は現実世界と魔導世界をつなぐ境界線にある国、魔導師なら無理やり連れてこなくても工面できそうだが……
「それに、境界国の王様は以前は奴隷を強制連行したり若い娘を連れて行ったりということはしていなかったそうです。境界ランプを引き継いでから人が変わったと言われています」
境界国王……魔導王の玉座もまるで自分のもののように言っていた。
人が変わってしまうランプ恐ろしいな。
「魔導師の村か……。そういえばランディやシャルロットは魔導師貴族の一族って言っていたな。ランディ達の一族も有名なのかな?」
「魔導師貴族……いくつか名家がありますが、シャルロットさんは代々の魔導師で有名な名前を襲名されている方だと思います。ランディさんという魔導師貴族の方は私は聞いたことないです」
聞いたことがない?
でもランディとシャルロットは縁戚関係だと2人とも言っていたし……
「本家がシャルロットさんの家で分家がランディさんの家なのでは?」
とセラ。
コーヒータイムが終わり落ち着いたところで、リー店長が精霊王の元から帰ってきた。
今夜はコテージエリアで1番大きいレストランでささやかなアティファの歓迎会をしてくれるという。
レストランに向かう途中、紫色の羽を生やした魔法猫がニャアとひと声鳴いて近づいてきた。
確かこの猫はシャルロットの……
猫の首輪に小さいメモがくくりつけられている。
「なんだろう?」
《シャルロット嬢は預かりました。彼女を助けたければランプの権利を差し出すように》
それは同じ境界ランプの持ち主シャルロットの拉致を示唆するものだった。
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