第14話魔導師契約


「もう、言いなりになるのは沢山です。私は……私達は奴隷解放に向けてあなた達と戦います」


少女は栗色の長い髪をなびかせながらそう宣言した。意思の強い眼差しは透き通るような美しい緑色の瞳をさらに美しく見せる。

少女の腕には金と銀で細工された細いバングルタイプのブレスレットがある。どうやらそこから魔力を増幅させて攻撃魔法を使ったようだ。


「このブレスレットは元々私のものです……どこかに売りに出される前に返してもらいました」


「くっ! 魔導師どもめ……だからあの村の連中を奴隷市場に送るのは嫌だったんだ!」

魔導師? この奴隷の人達は元々は魔導師なのか……

少女は続けて呪文を詠唱し、ムチを打っていた男とその仲間達を全員倒してしまった。

強い……これが魔導師というものなのか?


「それに、私の主人は生まれる前から決められています。それ以外の人に仕える気はないわ」


騒動で少し、港がざわついている。奴隷として捕まっていた人達はそれぞれ魔導アイテムを取り返したようでケガ人を回復呪文で癒していた。

これからもう一悶着あるのかと思いきや、港の人々は素知らぬ顔で普通に貿易商の仕事に戻って行った。

もしかしたらこれもよくある話のひとつだから大きな問題として扱わないのだろうか?


「目の前にある問題を解決せよって、オレ何もしていないけどとりあえず解決? しちゃったのかな?」

オレが精霊セラに聞いてみると

「小さく問題を捉えれば、あの魔導師の少女が自力で解決したことになりますし、大きく問題を捉えれば奴隷解放問題はまだ完全解決していません。それも千夜さんがご自身でどう考えるかです」


なんだか難しいな……

すると、奴隷として捕まっていた魔導師の少女がオレの持っている魔法の境界ランプを見てハッとした表情になった。

少女がこちらに近づいてくる。


「あの、境界ランプの持ち主とお見受けします。あなた様の持っているランプは正真正銘、錬金魔導師リー様が作られた伝説のランプではないでしょうか?」

「えっそうだけど」


少女は感極まった表情で涙を流しながらオレにひざまづいてこう言った。

「私の名はアティファと申します。先祖代々、境界ランプの持ち主に仕える魔導師として生きて参りました。ここであなた様にお会いできたのは精霊のお導き……どうか私をあなた様のお付きの魔導師にして下さい」


「オレはそんなたいそうなもんじゃないよ。顔を上げて……オレの名は千夜(せんや)、キミはランプのお付きの魔導師なの?」


「はい、そのランプは玉座にふさわしい資質の持ち主にしか使うことができません。あなたは魔導世界の王になるお方……この身をあなた様に捧げ、あなたの命を狙う敵達からお守りします」


どちらかというとオレがランプそのものの呪いに命を持っていかれそうな気がするんだけどな。


すると様子を見ていた何人かの商人がオレに言った。


「オレ達はこの港の貿易の元締めをしているものでねえ……この港にこの少女がいる限りは奴隷売買の商品として扱われるんだよ」


「キミ境界ランプの持ち主なんだねぇ。つまり境界国王のライバル……というわけだ。もうすぐ境界国王の使いが魔導師の奴隷を1人引き取りに来るという。もし、この娘と契約するなら今のうちだよ。国王といえども魔導契約には逆らえないからね。まあ、ほとんどの魔導師はもうどこかに逃げちゃってるけど……」


それは、オレにこの少女と契約しろという意味だろうか?


「国王の奴隷魔導師とは名ばかり……美しい娘を毎晩連れ込んで楽しんでいるらしいから選ばれるならこの娘だろうねぇ」


つまり愛人か何かにこの少女はされる可能性が高い……ということ?


「そうだなぁ……国王様は若い処女を寝室に招いては翌朝には殺しちまうって噂だし……まあどこかのおとぎ話と噂がごっちゃになっているだけでオレは国王様を信じているけどね」


殺しちまうって物騒すぎるだろ? そもそもその話は有名なおとぎ話の内容なのでは? でも連れていかれた若い娘は死んでいるのか……


まさか目の前の問題を解決せよって、この女の子を引き取れって意味なんじゃ……


「錬金魔導師リー様かあ……あの人ラピス市場でビジネスしているよねえ。よく魔法のじゅうたんを仕入れにきてくれるし……この少女の値段はじゅうたん10枚分くらいかな? リーさんのお店に請求しとくから、それでいいよね?」


じゅうたん10枚分……どのレベルのじゅうたんかよく分からないが、オレはこの少女が不憫で思わず契約書にサインをした。


『国王様の使いが来られたぞ!』

『おお! 頼まれていた魔導アイテムを仕入れておきました、ご覧ください』


全身黒づくめの魔導師風の男達がアティファの元にやってきた。

「娘、国王様の奴隷魔導師としてお前を連れて行ってやる……感謝しろ」


アティファの美しい顔を確認すると、使い達が異国語でひそひそ話し始めた。

「ほお……なかなか美しい娘じゃないか。だが、奴隷船に乗せられていたのだろう? 本当に生娘かどうか確かめないとなあ」

「そんなこと言って、つまみ食いしたいだけなんだろう? まあたまにはオレ達がヤッちまって処女じゃありませんでした……って献上しないのもありだな?」


なんて下品なヤツらなんだ。国王の使い達は自分たちにしか会話が分からないように境界国界隈では使われていないマイナーな言語で会話しているが、この世の言語を全て頭にインストールしているオレには会話が筒抜けだ。


「この女の子はもうオレが契約してるんだ! 国王だからって魔導契約には逆らえないんだろう? お引き取り願いたい!」

オレは思わずアティファを守るように前に出た。


「契約? 証拠を見せて頂かないと……本当に魔導契約されているなら印がある筈だ。ないならまだ魔導契約は済んでいない……娘! 契約の印を見せてみろ!」


印?

まだオレ達は魔導契約までは交わしていない……どうすれば?

「契約は今ちょうどするところです! ここでお見せします」

そう言うと美しい少女アティファはオレの目の前に立ち、少し背伸びをしてこう言った。

「千夜様、このアティファ身も心も全てあなたに捧げます」

アティファはそう言うとオレの頬にキスをした。


アティファの身につけているブレスレットから光が放たれ魔方陣が地面に描かれる……身体の血が熱い。これが契約?


『テスト第一段階クリア。響木千夜(ひびきせんや)達を拠点に強制送還いたします』

何処からともなく声が聞こえ、オレ達は元にいたコテージエリアにワープした。

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