第13話少女って響きにそこはかとなくエロスを感じ始めたら、結構やばいので気を付けて?
「ねえ」
俺が妄想していると、いつの間にか、料理が運ばれていたらしい。
ソーニャはもぐもぐと料理を咀嚼しながらある場所を見ていた。
そこには一人の少女が座っている。
小柄で裾の短い着物のような服を着ている。
腰には一本の刀。この世界にも和風の文化があるんだろうか。
黒髪だが、頭には角が一本生えていた。
おかっぱっぽい髪型だ。
だから前時代的な印象が強いが、顔は非常に整っている。
ソーニャとは違った魅力あふれる美少女という感じだ。
亜人らしい。だが、それ以外は普通の見た目だった。
むしろ犯罪の臭いがする感じだった。
一言で表現するならロリだ。
はあはあ!
薄い身体に幼さ独特の男を狂わせる色香がある。
いや、俺は特別好きじゃないけどね。
まあ? いけなくもないよ? うん。
日本なら、俺の嫁の候補ナンバーワンになりそうな魅力がある。
あ、太腿が出てて最高っす。
白い肌がもっと最高っす。
と、俺は勝手に欲情していたが違和感を持った。
彼女の周辺は不自然に空いていたのだ。
なんだ、あれ?
『あの娘がどうかしたか?』
「ええ、あの子、鬼族っぽいのよね」
『鬼? 怒った時のソーニャじゃなくて?』
「ぶっ叩くわよ?」
『しゅいやせん!』
「……鬼族はイチの国にはほとんどいないのよ。だから目立ってるわね」
『それにしたって、あんなに距離をとらなくてもよさそうなもんだけど』
「ああ、それはね――」
ソーニャが説明しようとした時、鬼族の女の子の近くに大柄の男達数人が立っていた。
まんまゴロツキだ。
「おいおい、亜人の子供がこんなとこに何の用だあ? ああん?」
このシチュエーション。
俺は、はっとした。
そうこれはフラグだ。
もう、今後の展開は誰にでもわかるだろうから先に言っておこう。
こいつら噛ませ犬です。
そして間違いなく、ゴロツキさん達はあの子にやられるか、別の誰かにやられます。
見たところ、誰も助けようとはしない。
ということはあの子が強いというフラグか。
なるほど、刀を差しているし、鬼族は強いとかそういうのか。
はいはい、ありがちね。
小さな女の子が滅茶苦茶強いとかファンタジーなら定番だもんね。
鬼って名前からも強いのはわかるしさ。
あれか、見た目とは違い、ものすごい膂力を持ってるとかか。
ふむ、なら問題はないか。
しかし、大男が小さな女の子、JCくらいの見た目の子を取り囲んでいる図はちょっと嫌悪感があるな。
あの子が強かろうが、見て見ぬふりをするのもちょっとなあ。
でも周りの奴らは無視しているか、囃し立てている。
これは、なんか腹立つよな。
俺は、ソーニャに助けないか、と提案しようかと考える。
俺が人間だったら、肉壁になるくらいはできるけど、剣の身ではなにもできない。
他力本願な感じが我ながらどうも気に入らないが、言うだけは言おうと思った。
「ちょっと、そこのゴロツキ」
おっと、この娘、存外、喧嘩っ早い。
「ああ? なんだあ、てめえは」
ソーニャは俺が言う前に立ち上がり、ビシッとゴロツキ共を指差した。
「幾らなんでも、いい大人が一人の女の子に絡むなんて情けないと思わないの!?」
『よっ、いいぞ! もっと言ってやれ!』
「このソーニャが相手になるわ、どっからでもかかってきなさい!」
『最高だよ! ソーニャ! 最高だよ! 輝いてるよ! 素敵、抱いて!』
「う、うっさいわね、だまってなさいよ!」
『ごめんなさい』
怒られちゃった。
調子に乗り過ぎるのもよくないね。
俺は黙して状況を見守っていた。
周りから、今の声はなんだ? とかざわついていたが気にしない。
ちょっとテンション上がってテレパシーの範囲間違っちゃった♪
さて、これからどうなるか。
ソーニャは多分、素手でも結構強い。
なんせ地面を殴って衝撃波を生み、スライムを破裂させ、周囲の木々をしならせるくらいの力量があるのだ。
人間じゃないね、これ。
他の人間の強さはわからないが、一方的にやられはしないだろう。
いや、待てよ。
負けて、くっころ展開もありえる、か?
負けん気が強い女勇者が、無理やりゴロツキ共に良いようにやられて。
何回も何回も熱い劣情を吐き出されてしまう。
はあはあ、も、もうらめぇ、中に出さないでぇ!
…………ふぅ。
悪くない。
むしろいい。
素敵!
でも、想像ならいいけど、実際やられたら胸糞感が半端ないな。
妄想だからいいんだよ!
実際に起こったら、可哀想すぎて胸が痛いわ!
ってことでやったれ!
なんて俺が心の中で応援していたら、場に変化が起きた。
「ちっ、女に喧嘩売られるとはな、俺様も舐められたもんだ。
この、ザンジイイイイイイイィ様を知らない奴がいたとはな!」
知らん。誰や。
ザンジイイイイイイ様?
イイイの部分で声が裏返っているから必死感が強い。
なんか、可哀想になりそうだった。
だって周りの客がちょっと噴き出してるんだもん。
本人は気づいていないのが救いか。
こんな状況なのに店員は普通に仕事をしている。
慣れているのか、プロなのか。
とにかく、負けるなソーニャ!
「ふん、女も男も関係ないわ。クズはクズ! 許せないものは許せない。
あなたみたいな男をね、器が小さい女々しい男って言うのよ。
どうせ相手してくれる女の子もいないんでしょ。
モテない男のひがみね、なっさけない。さっさと店を出てくれる?
目障りだし……ってか、なんかくっさい。あんたくさいわ。くっさ。
ここまで臭うとか、体臭気にしたことある? 馬小屋ででも寝てるんじゃないの?」
お、おお……すごい言うねソーニャさん。
あまりの迫力に俺まで心にグサッときたよ。
なんか周りの客から「おー」「言うねぇ」「ヒュウ―」「いいぞ、ねえちゃん!」とか言われてる。
そんな中、堂々と腰に手を当てている姿は凛々しく逞しい。
まったく、最高な女だぜ!
「な、なんだと、こ、こここ、この女ぁ! ぶっ殺してやる!」
ゴロツキはソーニャに向かい走った。
腕を振りかぶり、剛腕を振るう。
危ない! と思った時、ソーニャは軽く腕を掲げた。
明らかに対抗できる体格差ではない。
であるのに。
ソーニャの手に、ゴロツキの拳は簡単に止められていた。
「な、なんだと!?」
あーあ、マジか。
ここまで見事なフラグ回収を目の前で見ることになるとは。
ソーニャは自由な片方の手を手前に引き、真っ直ぐ突き出す。
あまりの速度に見えなかったが、ゴロツキに触れたらしく、映画のように綺麗に吹き飛んだ。
が、力加減をしていたのか、ゴロツキは綺麗に何もない場所に落ちた。
床に落ちてちょっと跳ねる。
いったそぅ。
ってか予想以上にソーニャが強い。
今後はもっと優しくしよう、怖いし。
「がああああああああ!?」
「アニキ!?」
三下二名がゴロツキに駆け寄る。
思ったより人望はあるんだろうか。
どうでもいいけど!
「ち、ちくしょう! こ、こんなのまったく効かねえよ!」
情けなく悪態を吐いて立ち上がるゴロツキ。
足がガクガク震えている。
めっちゃ効いとるがな。
めっちゃ汗掻いてますがな。
ゴロツキはソーニャを睨み、そしてニヤッと笑みを浮かべた。
おお、今の顔、三流映画の悪役みたいな表情だったよ!
奴は仲間に視線を向け、首を振る。
すると仲間の一人が鬼の少女の後ろに回る。
そしてナイフを首に当てる。
「動くな。反抗したら、手元が狂っちまうぜ」
おおおおお、すげええええ!
こんなバカなセリフ本当に言う奴いるのか!?
俺は感動と共に憐れみをゴロツキに送った。
その台詞もさ、完全にフラグなのよ。
でもソーニャはそんなことに気づかない。
「くっ、卑怯よ!」
うんうん、そうだね、卑怯だね。
でも、間違いないね。
このゴロツキは最終的に酷い目に合うからね。
安心してね!
ゴロツキの卑劣な行動に店内で「卑怯だぞ!」「正々堂々と戦え!」「ソーニャちゃん可愛い、ぺろぺろ」「店員さあん、おかわり頂戴!」などと聞こえる。
おまえらマイペース過ぎんだろ。
ちょっとは焦ろうよ。
そんな中、件の少女が突如として立ち上がった。
ついに、沈黙を守っていた少女が動く!
一体、どうするんだ。
俺の予想では、実は鬼の少女は滅茶苦茶強くて、ゴロツキ共は一瞬でぶっ飛ばされる。
んで、ソーニャが呆気にとられている中、一応礼を言われるみたいな終わりだ。
その後、きっと仲間になるフラグが立って、勇者候補テストの前か後辺りに行動を共にする。
そしてソーニャと共に俺を取り合って、イチャイチャして、ハーレム築いて、俺が擬人化して、俺の息子が休む暇もなく、アンアン、スパンスパンな状況の中で、白濁のめくるめく淫猥な日常が訪れる。
最高だろうが!
そういう世界が一番だろうが!
来い来い来い!
優しい世界!
エロい世界!
少女は手には刀を握り、正面に持ち上げる。
よっし、ここまでは予想通り!
刀を抜くのか、と思った瞬間、
「ひ、ひひひひひひひひっひひひひひひひひっひひひ」
………………うん?
なんか聞こえたような……?
なんだこの声、動物の鳴き声かな?
その割には店内に響くなぁ。
あ、幻聴か!
「ひぃひひっひ、こ、今宵はぁ、妖刀斬魔が哭いているぅ。
ち、ちちち、ちぃ……血が飲みたい、飲みたいぃ、滴る赤い血があああああああっ!
ふ、ふぇ、ひひっ、こ、ここ、こ、ころ、こころ、殺すぅうぅう」
あ、違うわ、これ現実だわ。
受け入れたくないけど、聞こえてるわ。
少女は血走った目をゴロツキ共に向けて、一息に刀を抜いた。
遅れてフォンと風音が広がり消える。
ほぼ同時にキンと納刀した音が響く。
その瞬間、ゴロツキ共の髪が綺麗に剃り上がる。
数瞬の内に、頭皮に沿い刀を流したのか!
ぱらっと頭髪が地面に落ちた。
静寂。
そして、
「いやああああああああああああああああああ」
悲鳴が上がった。
あ、ちなみに今の悲鳴はゴロツキの悲鳴ね。
他の人はぽかんとしているから。
ゴロツキ共は頭を抑えて店を出て行った。
あんなの怖すぎて漏らしてもおかしくないわ。
……少女は口角を上げ、ひくひくと頬を痙攣させていたが、やがて場が落ち着いたと見るや席に座った。
えぇ……なにこれ……。
なんか思ったのと違ったんだけど。
もっと、こう、あるじゃん?
助けてくれてありがとう、こっちこそ余計なことしちゃったみたいね、ふふふ、みたいな。
仲良くなってこれから一緒に旅しましょうみたいな。
そういう流れだったじゃん!
なに、あの狂気的な反応。
まんま、辻斬りじゃん!
殺すの大好き、つい殺しちゃうんだ♪
もう、そんなこと言ってたら斬り刻んじゃうぞ♪
的な!?
お兄ちゃん、他の女と話してたよね? どうして? 私がこんなに愛してるのにぃぃぃぃ! そっか、その口が悪いんだ。すぐ女を口説いちゃうんだ。だったらいらないよね?
みたいなヤンデレ的な怖さじゃなくてガチじゃん!
ガッチガチの異常者じゃん!
ひひひ、とか、もう完全に殺したくてウズウズしちゃってるじゃん!
怖いよぉ、本物だよぉ。
俺は見てはいけないものを見た気がして、まだ呆然としたままのソーニャに声をかける。
『と、とにかく何事もなくてよかったな』
「え、ええ、そうね」
ソーニャは脱力し、そのまま席に座った。
異常事態が起きたとはいえ、時間が経てば平時に戻る。
店内にはやがて喧噪が帰ってきた。
少女に声をかける店員が可哀想だったが、助けられそうにはない。
ってか関わりたくない、アレは俺とは違う種類の変人さんだわ。
なんか、店員と話しながら、ひひひひ、とかまだ言ってるけど聞いてはダメだ。
アレは呪いの言葉なのだ。
『もしかして鬼族ってみんなああなのか?』
「いえ……多分、あれはあの子特有のもの、だと思う。
た、単にもの凄く強くて気性が荒い種族だって言いたかったのよ。
だから、みんな怖がって近づかないはずなんだけど……。
多分、さっきの奴らは知らなかったのね。バカっぽそうだったし」
『なんか……いろんな奴がいるな』
「そうね、うん、そうよね。いろんな人がいるもんね」
ソーニャはぶつぶつと呟き自分に言い聞かせているようだった。
そりゃ、あんなもの目の前で見せつけられて平静を保てる人はいないだろ。
だって、殺し屋だよ、あれ。
いきなり刀抜いて誰か殺しそうじゃん!
くわばらくわばら。
客達も一応は普通を装っているが少女の動向が気になっている様子だ。
みんなちらちらと少女を見ている。
当事者は一人、隔離された場所で黙々と食事をしている。
なんかちょっと可哀想だけど、あの後じゃな……。
さすがのソーニャも見ないようにしているし。
関わりたくないよね、うん。
俺は少女のことは忘れて、ソーニャの気を紛らわせるために会話を続けた。
視線を何度も感じた気がしたが、きっと気のせいだ。
そうに違いない。
俺は直感を意識外にぶん投げて、会話に勤しんだ。
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