第9話普通、こんな露出の激しい格好していたら危険だし目立つからやめた方がいいと考えると思うんだけど、ファンタジーではそれは通用しないものなの


 無言の中、俺達は進んだ。

 夜、野営をしている時も無言。

 そして俺は縄やら布でグルグル巻きにされ、何も見えなかった。

 こ、こんな目隠しされるなんて。

 これはこれで中々悪くないプレイだ。

 だが、それはそれ。

 これはこれ。

 状況が、芳しくない。

 うーん、やはり俺が悪いよな、これ。

 もっと真剣に謝るべきだろう。

 これからずっとこんな風だったら、胃に穴が開きそうだ。

 内臓はないけど。

 ……ダジャレを言いかけたがやめておいた、自分を褒めたい。

 揺れからして、ソーニャは黙々と歩いている感じがする。

 俺はおずおずと声をかける。


『あの、ですね、ソーニャさん』

「………………」


 無視である。

 放置プレイかー。

 いいけどなぁ、なんか本気で怒っているから楽しめないな。

 俺は再び声をかけた。


『ソーニャさん? おーい、聞こえるかー、き、聞こえ。聞こえる?

 俺の声、聞こえる? きっきっきっきっ聞こえるかい、俺の、この声聞こえるかい。

 ヨー、俺の名前はオレ、今飲みたいのはカフェオレ、アーイ?』

「うっさいわね! 何がアーイよ! ぶっ潰すわよ!」


 あ、やっと返事した。

 まあ、見えないけど。


『俺が悪かったよ、黙っていたのは謝るし、さっきの姿勢も悪かったと思う。

 ごめんなさい』


 俺は素直に謝った。

 かなり年下の少女相手にでも素直に謝罪できる。

 そう、俺にはプライドはない。

 だからこうして素直になれるのだ! 

 しかし、返答はない。

 これは本格的に怒り心頭に発しておられるご様子ですな。

 ふむ、こういう場合は謝り続けるしかないと思う。

 あまり深く関わるような人間がいなかったからよくわからん。

 友人も恋人もいなかったし、知り合いも俺が一方的に知っているだけだったりするし。

 考えてみれば、こうして誰かと一緒に二人で時間を過ごすのは、初めてかも。

 会社とか学校とか、集団の中で、というのはあったけど。

 もっと仲良くなりたいものだが、俺が欲望に走っちゃったからな。

 許してくれるまで謝るしかあるまい。

 俺はそう決意し、再び謝罪を口にしようとした。

 その時、視界が広がる。


「しょうがないわね、許してあげるわ」


 突如として、光が目を射した。

 同時に、ソーニャの呆れたような笑みが見えた。

 まるで女神だ。

 おお、なんと美しい。

 性格は最低最悪だが……ごめんなさい。

 容姿は完璧なんだよな。 

 それにもしかしたら、この娘、案外いい子なのかもな。

 普通、もっと怒ってもいいようなものを。

 ガンガン殴りつけて、その後数日無視して、ずっと目隠しして、時々チッとか舌打ちして、また発作のように殴る、それで許してくれるんだから。

 …………いい子、なのか?

 いや、俺が悪いのはわかっているよ、うん。

 よし、もう忘れよう。

 今後は、ちょっとは抑えよう、せめてバレないようにね!

 反省していない俺だったが、素直に思ったことは口にした。


『ありがとう、ソーニャ、俺、嬉しい、これから、心、入れ替える、所存』

「なんでちょっと片言なのよ……」

『とにかく、これから改めてよろしく。これからはもっと正直に話すよ』


 エロいこと以外はね!


「……一応、信じてあげるわ。今のところはね」


 これ、信じてないわ。

 口ではこう言ってるけど、間違いなく警戒されている。

 でも好都合なことに、俺は肉体がない。

 そのため、言葉に気を付ければ、エロい光景を存分に見ることはできるのだ。

 そう例えば、現段階でもソーニャの下乳と尻は見える。

 共に柔らかな曲線と弾力、見事なまでの色香に俺は多幸感を得ている。

 ふふ、今はこれでよかろう。

 その内、ソーニャの警戒が緩まる時を待って行動に移す!

 それまでに、自分の意思で何かできるようになっておかなければ。 

 俺ならばできる!

 そう信じるのだ!


「さあ行きましょう。もう少しでイチの都市に着くわ」


 頭の中にはエロいことばかりな俺だったが、ファンタジー世界に興味がないわけではない。

 人が多い場所、栄えた都市と聞けば胸躍る。

 魔法的な?

 幻想生物的な?

 亜人的な?

 奴隷的な?

 中世的な制度的な王族的な城的な貴族的なファンタジー的な?

 あ、やっべ、なんかウキウキしてきた。

 俺は期待に花を咲かせながら、ソーニャと共に先を進んだ。


   ●▽●▽●▽


 俺達はイチの都市に到着していた。

 見上げる程に巨大な門。

 そこかしこに人だらけだ。

 ぶっちゃけ邪魔臭い。

 こういう人ごみは嫌いだ。

 ちょっと近くに来てしまった女の子が「マジ最悪、キモッ」とか小さく呟かれたりしたトラウマが刺激されちゃう!

 いや、マジであるから。

 人が多い場所ではみんなも気を付けるんだぞ。

 それにしても、なんか馬車とか大きなカバンとか背負った人が多いな。

 行商人という奴だろうか。

 いいね、いいね、こういう雰囲気好きだよぉ。

 顔立ちが全員外国人風だからちょっと気後れしちゃうけどね。

 まあ、俺は剣だしどうでもいいよね。

 ソーニャは慣れた様子で、人波に紛れ、列に並んだ。

 都市に入るには門兵の審査みたいなものを受けないとならないみたいだ。

 ふむ、見た感じ袖の下的なことをしている人間はいなさそうだ。

 案外、クリーンな感じなんだろうか。

 俺達の順番が来た。


「…………っ!」


 おい。

 おい!

 そこの門兵。

 ちょっとイケメンの門兵!

 今、ソーニャの胸見たよね!?

 二度見したよね?

 思った以上に豊満! って感じな顔したね!?

 確かに露出が激しいし、胸とか臀部とか太腿とか見たくなるけどさ。

 ちょっと嫉妬しちゃうよね。

 まあ、ソーニャは俺のものでもなんでもないけれど。

 でも、この乳を凝視していいのは俺だけだから、おまえはお呼びでないから。

 主人公の俺だけの特権だから、モブはちょっと下がってて?


「勇者村のソーニャです。村長から連絡が行っているはずですが」


 ここで初めて村の名前を聞いた。

 勇者村とか、まんまやないか。

 門兵は俺を見ると、ハッと表情を変えた。

 ……そんな真剣な顔で見られるとちょっと恥ずかしいじゃない。

 やだ、なんだかドキドキしてきちゃう。


「はっ! き、聞き及んでおります。どうぞ、お通り下さい」


 ズビシッ! と敬礼した門兵。

 俺達を見て、周囲の人間がにわかにざわついた。

 何、あの人、有名な人なのかしらん、ってとこか

 門兵の審査が終わると俺達は街に入った。

 おお、これは。

 人ばっかりじゃないか!

 もう、なんでこう人が多いの、こういう場所は。

 なんか、背中に羽が生えてたり、尻尾があったり、角があったり、ネコ耳、犬耳があったり、肌の色が違ったり、鱗があったりと色んな種族がいるな。

 亜人って奴か。

 なぜか、亜人達は露出が激しい姿が多い。

 なんか勝手なイメージで亜人は奴隷とかになっている感じがしたんだけど。

 そういうのはないみたいだな。

 普通に人間とも話しているし、一緒に行動している。

 険悪な感じはない。

 うんうん、いいよぉ、いいんだよぉ。

 俺はそういうのもいけるからね。

 もふもふ系から爬虫類系までいけるから。

 ちょっとグロイ系もいける口よ。

 まあ、見たところ、人型ばかりで見目がきついのはいないな。

 それはそれでちょっと悲しい。

 なんて言ったら理解出来ない人が多そうだから、これくらいにしておこう。

 ここが王都イチかぁ。

 石畳、木造石造建築、活気のある店舗、行き交う人達。

 なるほど、俺の想像しているファンタジー世界そのものって感じだな。

 嬉しい反面、ちょっと残念な気もする。

 もっと奇抜なデザインとか期待もしてたし。

 いや、これはこれで受け入れやすいからいいけどね!


『城に直行するのか?』

「そうね。一度、話を通しておいて、王様のご都合に合わせる感じになるわね」


 そりゃそうか。

 こっちがいつ来るかもわからないのに、いきなり会うなんて無理だもんな。

 王となれば忙しいだろうし。


「それに、宿代とか出そうだし」

『し、しっかりしているな、おまえ』

「旅にはお金が必要でしょ。

 一応、村長とか村の人達に餞別でいくらか貰ったし、貯金もあったから多少は懐が温かいけれど、節約は必要だもの」

『冒険者ギルドみたいなのはないのか?

 魔物の素材を売ったりとか、依頼を受けてお金貰ったり』

「そんなのあるわけないでしょ」

『ねえの!? ファンタジーの基本だろ!?』


 俺は思わず叫んだ。

 無意識の内にかなりの声量を出していたらしく、ソーニャが顔を顰める。


「あー、もう! うっさい!」

『ごめんなさい!』

「もう! はぁ……とにかく、そういう依頼を受ける場所はないわ。

 旅の人間は、自分で売り込んで傭兵になったり、街のどこかで雇ってもらって稼ぐしかないわね。

 交易には専門知識や経験が必要だし。私達には馬車もないわけだし」

『馬とか買わないのか? 移動には必要だろ?』

「あのね、簡単に言うけど。馬は高いし、餌代も馬鹿にならないし、世話も大変なのよ。

 馬で行ける場所も限られるし、そうホイホイ買えるわけないでしょ。

 常に収入のある行商人か貴族とか騎士とかのお金持ちしか買えないわよ」


 おぉ……正論過ぎて何も言えん。

 くそぉ! だってそういうのって必要だった思うじゃん!


『まさか、あれか。奴隷なんていない?』

「いるわよ。けど一般人はまず買えないわね」

『高いから?』

「それもあるけれど、数が少なくて回ってこないから。

 昔と違って、法整備が行われて、誘拐されて奴隷になるって経緯がなくなったのよ。

 自ら、もしくは仕方なく奴隷になっても貴族の使用人か、公共事業に回されるし。

 一昔前では、コロセウムとか流行ったけど、下火になってからは奴隷商は廃れたのよ。

 だから、今は下働きが主になってるってわけ。

 結構、お給金良いから自らなる人もいるわ。

 まあ、色々と制約があるから普通はやらないわね」


 おい! 確かに、なんか納得出来るけど!

 ちょっと名前とか適当なのに、奴隷関係だけ説明が多いのはなんでですかね?

 もしかしてソーニャさん、奴隷にお詳しい?

 と問いかけかけてやめた。

 地雷を踏みそうな気がしたからだ。

 ってか、ギルドないのか。

 そこで、俺は気づく。

 じゃあ、ないの? 定番のやつは?

 依頼受けて、最高ランクになって周りからすげぇとか言われる展開は?

 奴隷娘を買ってハーレム展開は?

 テーブルで一緒に食べようからのご主人様優しい、アへ顔展開は?

 いただきます、ごちそうさまテンプレは?

 痩せ細ってた奴隷を太らせようと一杯美味しいもの食べさせて、なつかれて、正妻に昇格するルートは?

 あるよね? あるよねぇ!?

 ないの? なんで?

 異世界転生と来たら、チーレムだろ!

 むしろ、それが目的で転生しているくらいあるだろ!

 なのに、俺は剣で、何もなく、モテもせず、ギルドもなく、心躍るひゃっはーもなく、もぅマジ無理、擬人化しょ展開もないの?

 うっそだぁ、擬人化はするよね?


 ………………え?

 しない?

 ほんとに?

 いやだあああああああ、イケメン、いや中性的な男の娘になりたいよぉ!

 擬人化したいよおぉ!

 奴隷ちゃんとイチャイチャしたいよ!

 こんな生意気自己中心的ドS身体だけは最高な女勇者(仮)はイヤだよぉ!

 見た目はいいけど、中身が致命的なんだよ!

 え? 確かに、転生する前には中身なんてどうでもいいから美少女と致したいとか思ったけどさ。

 実際会ってみると、これが破壊力抜群なんだわ。

 もう、後悔している感じなんだわ。

 だが、俺はソーニャの下乳を凝視しながら思った。

 この乳を見ていると、どうしても俺は負けそうになる。

 反骨精神が折られそうになるのだ。

 もういいかな、って思いそうになるのだ。

 …………でへへ、いい乳してやがんな、こいつ。

 おっと、妄想も大概にしないとな。

 また口に出してしまう。

 どうやら俺は、集中し過ぎると無意識の内に声に出してしまうらしいからな。

 そうか!

 合点がいったぜ。

 今まで、何か周囲の人間が突然ドン引きすることがあったのだ。

 これが原因だったんだね!

 しかし、それを誰一人教えてくれなかったという過去がもの悲しいけど。


「着いたわ」


 色んなことを考えていると、城前に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る