第10話なんじゃ、そりゃあ!?
城門は凄まじく広く高い。
都市入口にいた門兵とは雰囲気の違う兵が凛と立っている。
なんかめっちゃ怖いね、顔。
「勇者村から来た、ソーニャです」
「はっ、お待ちしておりました。王がお待ちです。どうぞ中へ」
あら、もう準備していたのね。
王様って結構暇人?
口に出したら不敬罪で殺されちゃいそうなので閉口しておく。
ま、俺は剣だから殺されないだろうけど。
聖剣だしね。
ソーニャは城内に入って行く衛兵の後に続いた。
城って感じだなぁ。
なんか、昔、海外かぶれになって、ちょっと意識高い系に一人で染まった時に、フランスに旅行したんだけど、その時に見たモン・サン・ミッシェルを思い出した。
いや、なんかもっと中世的なのかと思ったら、入ってすぐ普通の土産屋とかあって、現代人の色が強くって、人も多いしでちょっと残念な気分になったけどさ。
え? 誰と行ったのかって?
あはは、一人に決まってるじゃん。
べ、別に、寂しくないんだから! 勘違いしないでよね!
それはそれとして、だ。
やっぱり本物は違うな。
しかも時間が経っていない分、老朽化していない。
だからか、かなり芸術的というよりは、生活感があるというか。
あ、真面目に話しちゃった、てへ♪
でも、厳粛な感じがして好きだわ、こういうの。
なんか雰囲気に浸れる感じ?
心躍る感じというか。
衛兵はぐいぐい進んで行く。
途中遭遇した兵達は、ソーニャに敬礼するのだ。
おい、まさか勇者って結構すごい?
まあ、魔王を倒せる唯一の存在なわけだし、当然なのか。
あ、やっべ。
なんかシリアスムードに突入しそうな感じがしてきた。
よし、俺もちょっと空気に従って、真面目になろう。
俺は表情を引き締めた。
だが、俺には顔がなかった。
気づけば、俺達は大広間に通された。
なんか、長い机があって椅子が並んでいる。
人はいない。
滅茶苦茶でかい会議室みたいな感じか。
ありゃ? 謁見の間じゃないの?
「こちらでしばしお待ちください」
と、衛兵は出て行った。
おい、就職活動で求人広告を見て応募して、面接の為に会社訪問してからしばらく待たされた時を思い出すんでやめてください。
内定貰うまで200社受けたのは伊達じゃないぜ!
剣として永久就職したけどさ。
『なんか、思ったのと違ったな』
「そうね……私もよ」
ソーニャも疑問が湧いたらしく、首を傾げていた。
ふむ、この世界の常識というわけではないようだ。
ここに王様とやらが来るんだろうか。
しかし、なんでこんな会議室に。
そう思っていたら、奥の扉が開いた。
ソーニャは反射的に立ち上がり、頭を垂れる。
普通は机とかない場所で、跪くんじゃないだろうか。
ただ、家具が多いからか、ソーニャは腰を曲げただけだった。
おお、なんか王様っぽい人が入って来たぞ。
白髪、長いヒゲ、煌びやかな衣服。
キリッとしていて、威厳がある。
雰囲気あるよ、こういうのを待ってたんだよ!
俺は事を見守った。
王様と近衛兵らしき男が数人、側近も数人いた。
中央、上座の席に王様は座る。
鋭い眼光をソーニャに向ける。
おお、すごいなこの迫力。
さすが一国のトップ。
ここにきて、ようやくまともな人間の登場か。
王はソーニャを真っ直ぐ見据え。
そして。
言った。
「ちょっ、ダリっ! そゆっのいっからさぁ、顔あげちゃって」
……時が。
止まった。
俺は王を見た。
ソーニャもゆっくりと顔を上げて王を見た。
今の声はどこから聞こえた?
俺達は二人して声の主を探した。
なんせ、先ほどの言葉、そこら辺のDQNのような口調だけでなく、声も若かった。
これが王の言葉であるはずがない。
あるはずが……頼む、違うと言って!
必死で探したが、わからない。
「ま、てきとっに、すぁって」
もぅマジ無理……。
王様が話してた。
顔は超王様。
典型的、見事、王以上の王、テンプレ、まさに王様って感じな見た目なのに。
うっそだぁ。
俺は自分の耳(?)を信じられず、疑心暗鬼になりながら王を見た。
表情を引き締めている。
真面目だ。
格好いい。
なんか「よくぞ来た、勇者ソーニャよ」とか言いそう。むしろそうしろ。
いつも強気のソーニャは呆気にとられ、何も言えない。
「貴様、王の御前なるぞ! 答えぬか!」
「あ、えと、し、失礼します?」
ソーニャは現実を受け入れられぬまま、椅子に座った。
なんだよぉ、これ。
もっと普通でいいんだよ、普通で。
なんでこんな状況なんだよ。
ってか、さっき叱った隣に立っている側近の方が王っぽいじゃんか。
インテリ系でちょっと気難しそうだけど、この王様よりはいいよ。
そっちが話を進めてよ。
「ま、きんちょ、しなくていっから。てか、そゆのダリっし?
あれ、聖剣っての? 抜いたってマジ?」
「え、ええ。ここに」
ソーニャは俺を手にして正面に掲げた。
王は俺を見て、ほーん、へぇ、とか言いながら何度もうなずいていた。
「マッジか。はんぱねぇな、こりゃ」
「そ、そうですか」
悲報、ソーニャ何も言えない。
頬をひくつかせて、俺に助けを求めている。
剣に縋るな。
俺は今だけは剣になりたい。
喋らん、俺は喋らんぞおおおおお!
「ってか、マァジ、ソーニャちゃんには悪っけどさ、それほんとに聖剣なわけ?」
「え、ええ、そうですが」
ソーニャの言葉に、王は首を傾げていた。
なんだ?
何か問題か?
やっぱり俺は聖剣じゃなかったとか?
おいおい、怖いんですけど。
考えてみれば、人間の時、最低スペックの俺が、いきなり剣の最高位の聖剣っておかしくね?
ってことは、俺は偽物説ここに浮上ってか。
偽証罪?
王様に?
殺される!?
ソーニャ逃げて!
俺は内心で戦々恐々とした。
でも喋らない。
なんだか、沈黙が流れてそんな空気ではなくなったからだ。
「なんていうか、あー、説明難しいんだわ。まっ、いっか。
とね、いまんとこ、聖剣を抜いたって人間が世界中で千人くらいいるんだわ。
イチの国だけで二百人いた、みたいな?」
「…………えーと? どういうことでしょう?」
「っからね、世界中で勇者の伝承って結構あってさ。
聖剣も実は、いっくつもあったわけ。って、俺も知ったの最近だけどっさ。
んっで、その聖剣を持った人間が、最近結構出て来ちゃってもう大変って感じ?
っが、今のじょっきょ、おっけ?」
呆気にとられるソーニャ。
呆気にとられる俺。
『うっそぉ……マジか』
呆気にとられる王様。
やっべ、思わず喋っちゃった。
しかしもうどうしようもない。
王様どころか、周辺の人達にも発信してしまった。
「なっか、今、聞こえたような、気がすっけど?」
「ええ、オレは喋るので」
「オレ?」
「この剣の名前です」
全員の視線が俺に集まる。
そ、そんなに見られたら恥ずかしいですぅ。
俺はもじもじして沈黙した。
無言だった。
ソーニャがイラつき始める。
だが、俺は敢えて声を出さない。
俺の目論み通り、王達は落胆したようにソーニャを見て、訝しげな色を濃くする。
くふふ、そのまま詐欺罪で捕まるといい!
俺をここまで虐げた罪、悔い改め――ソーニャが俺を振り上げた――即座に俺は叫んだ。
『オレです、俺がオレで聖剣です! やめて! 叩かないで!』
俺の悲痛な叫びが会議室に響いた。
どうやらソーニャさんは怒りを納めてくれたようで、俺を机の上に置いてくれた。
危ない危ない。
ソーニャの眼が本気だったわ。
あんまり悪ふざけするのはよそうね。
「今、喋った?」
『一応、喋ったっす』
「……本当に喋る剣? なんか別の人間が喋ってるとかっさ?」
『今、俺の位置からはソーニャの下乳が見えます。ちょっと汗ばんでますね。
そしてそこに乳房の下部にホクロがあります。エロいですね。
ささ、ソーニャさん、今すぐみなさんに下乳をお見せなさい。
そうすれば君の嫌疑は晴れ……ちょ、ソーニャさん? 落ちついて?』
ソーニャは俺を持ち上げた。
「ちょっと耳を塞いでください」
鬼はニコッと笑った。
王様の前、ここは城内。
なのに、この生意気娘、俺を壁に叩きつけやがった。
ギャアアアン!
『ギャアアアン!』
あまりの痛みに俺は絶叫。
でも慣れてきたこの痛み。
きっとこうやって人は成長するんだと思う。
だって人間ってそういうものなのさ。
「本物じゃん!」
王様は興奮したように、立ち上がり叫んだ。
気色ばんでいるところ悪いけど、どこで本物と思ったんだい?
「耳を塞いでも声聞こえっし、叩いた時に声出してたしさ、マジっぱねぇわ」
説明ありがとう。
「王、喋るからといって聖剣と断定するのは些か性急かと」
「つってもな、喋る剣なんてほかにねぇっしょ?」
「ですが、伝承にはございませんし」
すげぇなあの側近。
すんごい強面で仕事できそうな雰囲気もあるし、言葉遣いも丁寧なのに、あの王様と普通に話してるぞ。
つまり、あれが平常なのか。
この国、大丈夫かよ。
叩きつけ終えて、満足したソーニャはホクホク顔で椅子に座った。
この娘も大概である。
「まっ、一応、候補に挙げてもいっしょ。本人は、信じて来てるみたいだし?
近場の勇者村っていったら、あの変態村っしょ? ってことは詐欺じゃないみたいだし」
変態は周知の事実だったのか。
村長たちを見れば、嘘を吐くような感じではないことはわかる。
いやいや、性格がいいとかじゃないよ。
だってあの人達、ものすごく満たされてたじゃない。
あんな人達がさ、地位とか名声とか目的で勇者を仕立てあげないでしょ。
そういう意味で王様も納得してくれたんじゃないかなぁ。
だって、みんな変態だし。
ふ……逆によかったな!
『ちなみに、候補じゃなかったらどうなってたんでしょ……?』
「ま、処刑はねっけどさ、怪しい奴は、っあえず牢にぶちこんでたね。
それで結構、捕縛してっし。っま、それでも候補者は二十人くらいいっけど」
二百人中二十人は候補になったのか。
もう、わけわかんないよぉ……。
「あ、あの、それで私達はどうすれば」
このソーニャの言葉を受けて、俺はちょっとドキッとしたね。
私達って言ったんだよ、この娘。
俺は剣なのにさ、ちょっと嬉しいじゃない。
くっ、こういうたまに優しいこという娘に魅力を感じたらだめだ。
まさに、手の上で転がされているんだからな。
危ない危ない、気を付けよう。
「っま、とりあっず、数日は滞在してくれっかな。
いまんとこ、報告上がってる聖剣抜いた勇者候補をあつめっから。
で、審査してから決めるってことで」
「審査、ですか」
「全員、勇者として認めることはできねぇっしょ?
ある程度のテストは必要だからっさ、まっ、勘弁してよ、ソーニャちゃん。
見た目はかなり上位なんだけどねぇ、あっ、俺の側室候補ならいつでも」
「結構です」
おい、王様の提案を即座に断って大丈夫なのかよ!?
俺は心配になり、ソーニャを見上げる。
何を、ちょっと言ってやった、みたいなドヤ顔してるの、こいつ。
王様はちょっと泣きそうになってるけど?
この人、メンタル弱そうだな……。
「……ま、まぁ、そ、そっか。うん、そ、そゆことも、あ、あるか」
めっちゃ動揺してるし。
ここで逆ギレしないだけいい人なんだろうな。
まあ、それはそれとして、いきなり口説く方が悪いわ。
王は、側近に「ほら、また、すぐ告白する癖止めた方がいいって言いましたよね。口説くならもっとまじめに真剣に!」とか言われてる。
この国、ほんと大丈夫だろうか。
「と、とにかくっ、連絡あるまで待機しといて、おっけ?」
「わかりました」
「あとは、側近に任せっから、お、俺はここで」
王は精神的ダメージを引きずったまま、退場した。
……なんかちょっと可哀想なような、メシウマなような。
複雑な心境で、俺は王を見送った。
残った側近と衛兵数人が、ソーニャに近づく。
同時に、ソーニャは立ち上がる。
「近場に宿をとってある、そちらに泊まるように。
外出の際には言伝を残して置くようにな。
それ以外であれば自由にしてよい。恐らく二、三日程度だろう」
ソーニャは、王様にアドバイスしていた側近に宿の住所を聞いた。
彼は宰相のような存在なのだろうか。
それとも食客的な?
まあ、よくわからんし興味もないからどうでもいいか!
そして退室し、衛兵に連れられ外に出る。
城外では人が行き交い、まったくの別世界だ。
俺はソーニャを見上げ、ソーニャは俺を見下ろす。
そのまま、スタスタと人通りの少ない裏路地に入る。
再び俺はソーニャを見上げ、ソーニャは俺を見下ろす。
そして同時に言った。
「「何よ、それ(なんじゃ、そりゃあ)!?」」
と。
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