第5話アレの最中に、母親っていきなり部屋に入ってくるのはなんでなんだろうね?


 時間的に遅いので、今日は村で一日を過ごすことになった。

 俺は一人、ずっと部屋にいた。置かれていた。放置されていた。

 くっそぉ、俺は聖剣だぞ!

 もっと大切に扱えよ!

 死ぬ前に、道具になりたいとは言ったよ?

 でも大切に扱われたいとも言ったよね?

 そっちは全然叶ってないじゃん!

 はあ、暇だ。

 部屋にはベッドとタンスしかない。

 俺はタンスの横に立てかけられている。

 ここはソーニャの部屋なんだろうか。


『くんくん』


 匂いはしないな。

 くっ、嗅覚がなくなってやがる。

 この部屋絶対良い匂いがするのに!

 簡素だけど、間違いなくソーニャの香りがするのに!

 息もしないでいいし、身体も動かない。

 五感の内、触覚と聴覚と視覚は健在、か。

 でも全部受動的なんだよな。

 自分で動けないから暇だ。

 月夜を眺めて、今宵も風流じゃのとか呟いたら虚しくなってきた。

 時間つぶしのため、何となく声を出していると気づく。

 あれ、俺の声、もしかしていけるんじゃね?

 前の俺はドブ声で気持ち悪かった。

 だが、今の俺は中世的で声をちょっと高くすれば女の子に聞こえなくもない。

 むしろちょっと美声?


『あ、あー、テス、テス』


 ふむ、いけるな。

 よし。


『え、お兄ちゃん、何するの。ひゃっ、な、なんでそんなに硬くしてるの……?』


 ほう。


『だ、だめだよ。そんなことしたら。あ、脱がさないでよぉ』


 ほう?


『あ、すご、すごいよぉ、お兄ちゃんのおっきいぃよぉ』


 ほう……?


『そんなの入らないよぉ、ひうぅっ! あ、あん』


 ほほう?

 しかしその瞬間、なぜか村長の顔が浮かんできた。


『ヘイ、ワンツーワンツー! もっと腰振って!』


 ちっくしょー!

 フィニッシュの時に、なぜか男の顔が浮かんで、最低の賢者タイムを迎える時みたいになっちゃっただろ!

 だ、だが声自体は女の子に聞こえなくもない。

 後は俺の妄想力にかかっている。

 行くぜ!

 あ、でもやっぱりシチュエーション変えよう。


『お兄ちゃん、やっぱり変態さんだったんだね。うん、いいよ。私が虐めてあげるんだから!』


 はーん。


『これが欲しいんでしょ! こ、この豚さんめ! えい!』


 ははーん。


『こ、こんなにして、変態変態変態お兄ちゃん! もう、そんなダメなお兄ちゃんにはこうなんだから!』


 はっはーん。はーん。


『最低! こんなにおっきくして、脚で踏みつけてもっと硬くするなんて! キモイ!』


 ばぁ、ばっばー、ばふーん!


『しょうがないなぁ。お情けをかけてあげるよ。ほら、私の足を舐め――』


 バーンと、ドアが開いた。

 無意識の内に、いいよ、いいよ、すごくいいよと言っていた時の出来事であった。

 ドアの前にはソーニャが立っていた。

 不機嫌だった。

 めちゃくちゃ睨まれた。

 殺されると思った。

 ノックくらいしてよね!

 いや、それよりも、だ。

 聞かれた。

 今の絶対聞かれたわ。

 俺の声って、ソーニャには結構簡単に聞かれてしまう。

 他の人間には強い意思がないと声が届かないけど。

 つまり、間違いなく聞かれたのだ。

 血の繋がらないちょっと気弱な妹だけど、実はお兄ちゃんに恋していて、実はサドっ気があると兄は見抜いていて、いつの日か共に思いを交わし、最終的に上下関係が生まれ、ついに結ばれるというシチュエーションを聞かれてしまった。

 ……まあ、色々おかしいことは自覚しているけれど。

 とにかく、俺の地位が危うい。

 マジで折られる!

 俺は戦々恐々としながらソーニャを凝視した。

 目が合うがそれは一方的だ。

 ソーニャには俺の目が見えないはず。

 じっと見守っていると、ソーニャはスタスタとベッドに行き、倒れ込んだ。

 そしてそのまま寝息を立てる。

 っぶな、っぶな!

 バレてはいなかったようだ。

 見ると、ソーニャは顔を赤くしている。

 酒飲んできたみたいだな。

 異世界だもんな……。

 俺の位置からではソーニャの横顔とみだらな太腿しか見えない。

 しかし、もう少し動けば見える。中が!


「んっ……」


 身動ぎしたソーニャ。

 艶めかしい肢体が、俺のリビドーを刺激する。

 ほう、これはこれは。

 だが、下着は見えない。

 昼間散々見たが、だからなんですかってんだ。

 何度でも見たいの!

 むしろ、就寝中という無防備の最中に見るからまた違った味があるの!

 はあはあ。

 俺は必死で視界を動かそうとした。

 くそ、なんでこの身体は動かないんだ!

 そりゃ剣だからか。

 って、どうでもいいわ!

 とにかく、動け、動け!

 俺はソーニャが寝返りを打つように意識した。

 集中!

 集中!!

 諦めるな、俺。

 やれる、俺なら、俺ならばやれるはずだ!

 根拠のない自信と性の律動に俺の興奮は昂進している。

 来い!

 来い!!

 死さえ乗り越え聖剣となりてなおも望むは性の情動。

 来たれ来たれマイロード。

 今、ここに、正に、顕現セリ。

 来い!

 来るんだ!

 俺のパトス!


『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 中二まっしぐらの昔を思い出し、よくわからない呪文さえ呟いて、俺は恥もかなぐり捨てた。

 知ったことではない。

 美少女のパンツを見ることに比べれば些末なこと!

 いっけえええええええええええええええええええええ!

 だめだったわ。


『ですよねぇ』


 いやいや、さすがにそれは無理っすわ。

 なんか勢いでやれる気がしたんだけどさ。

 ほら、ちょっと前までいけそうな気がしたじゃん?

 誰しもそう思うじゃん?

 でも無理なんだな。

 この下り、なんの意味もないんだな。

 はっはっは、イライラしたらいけないぞぉ?

 はぁ……動きたい。


「んっ、はぁ……」


 ああ、エロい。

 その吐息もその上気した顔もエロい。

 でも見ることしかできないんだな。

 剣は剣でやっぱり不満が出るもんなんだな。

 いや、そもそも人間の時のままだったら、俺がこの部屋にいること自体奇跡じゃないか。

 だったら、まだマシか。

 ……やっぱり剣より下の格だったんだな。

 うえへへ、俺って何?

 ちっきしょ!

 もうこうなったら剣生を存分に楽しんでやるんだから!

 そうと決まったら、触れずとも動かせる能力を開花させてやる!

 無理だって?

 馬鹿だって?

 死ねだって?

 ばっきゃろ、諦めたら可能性はなくなるだろうが!

 だったら聖剣という存在を信じるしかないのだ。

 意思で物を動かせれば、あんなことやこんなことができる!

 諦めるな!

 やればできる子だよ、俺は。

 ……子とか、三十代で……ごほっ、えほっ!

 いい大人が自分のこと女子とか男子とか言っている痛い人みたいになってるぞ♪

 よし、年齢忘れよう。

 俺は、今聖剣なのだ。

 歳とか関係ないじゃん。

 そう思い、俺は再びソーニャの太腿を目に焼き付けた。

 ふぅ……いい脚だ。

 観察し、時折、勢いのままに叫んだり、動け動けと念を送ったりしたが、結局朝まで何の変化もなかった。

 ちなみに、俺は剣なので眠らなくてもいいみたいだ。

 食事も排泄も必要ない。

 ……便利だけど、ちょっとむなしい。

 そんな一日だった。

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