第6話性欲聖剣と暴力女勇者って組み合わせ、もう無茶苦茶だよね


 朝、俺達は村の入り口に立っていた


「元気での。無理するでないぞ。城には連絡がいっておる。

 まずは王様に謁見し、通行証を頂くのだ。わかったな」

「う、うるさいわね、わかってるわよ」


 またしても不機嫌そうにソーニャが答える。

 村長は変態でキモイし死ねばいいって思うけどさ。

 もっと愛想良くしてもいいんじゃないの?

 別れのシーンだしさ。

 あ、でも、後ろの方にいる半裸の男を踏みつけて笑顔の女の子とか見てたらどうでもよくなったわ。

 この村、早く出た方がいいね!


「行ってくるわ」


 ソーニャは冷たく言うと、さっさと村を出た。


「達者でなぁ!」

「元気でねぇ!」

「辛くなったら帰っておいでぇ!」

「はぁ、はぁ、い、いつでも踏んで、踏んでぇぇっ!」

「ああ、ソーニャの顔面パンチがぁ」

「けけけ、これで村内ナンバーワンの座は頂きよ!」


 半分くらい別れを惜しんでないけど、俺は無視した。

 だって、剣の俺には関係ないもんね!

 ソーニャは大きめの鞄を背負い、無言で道を進む。

 俺は鞘に入れられているが、刀身全体を覆う形じゃないので見える。

 絶妙に臀部が見えるので絶景だ。

 ふふふ、これは眼福じゃわい。

 後ろから聞こえていた声も聞こえなくなった。

 しばらく歩く。

 と、立ち止まった。


『おい、どうした?』


 声をかけたが反応がない。

 突然、俺を抜いたと思ったら、木に叩きつけられた。


『ギャアアアアアアアアアア!』


 痛い痛い気持ちいい痛い痛い!

 何突然!

 この娘、癇癪持ち!?

 怖い、怖いけど、こう覚悟ができないからドキドキする。

 ふわあああああ、いたいよおおぉ。

 ガンガン、と金属音が俺から生まれる。

 あふん、痛い。


「はあはあはあ」

『お、おま、目が血走って、ギャアアア! こ、こわ、ギャアアア! やめ、ギャアアア!』

「うるさいうるさい!」


 もうなんなのこの娘。

 やりたい放題すぎるぞ♪

 しばらく俺を叩きつけていたソーニャだったが、やがて腕を降ろした。


「はあはあ」


 声をかけるのが怖かったので無言でいた。

 なんなんだ、こいつは。

 いい加減、ちょっと腹が立っていた。

 何かするなら『ちょっとぶん殴っていいかな?』とか言えよ!

 オッケーなんだからさ!

 いつでもウエルカムなんだからさ!

 いきなりやられたら気分悪いわ!

 さすがに何か言おうとした時。


「うぇ」


 うぇ?


「うぇうぇ……」


 うぇうぇ?


「あうぅ、うぇ、ぐすっ」


 え? え?


「うわあああん、ざびじいよぉぉっ!」


 号泣であった。

 眼から放物線を描く涙を始めて見た。

 アニメでしかないと思っていたのに……!

 その場に座り込み、次々から涙を流す、いや噴き出すソーニャを前に、俺は狼狽えてしまう。

 え、えぇ……なんで泣くの……。

 さっきまで滅茶苦茶機嫌悪かったじゃん。

 生意気で、強気だったじゃん。

 いきなり泣くって、なんなの。

 寂しいって、ことは村を出るのが嫌なのか?


『お、おい大丈夫か?』

「うぇ」


 うぇ?


「うぇうぇ」


 うぇうぇ?


「だいじょうばないぃいぃ!」


 超泣いてる!?

 もう、何なんだよこいつ。

 わがままで仕草も反応も立ち振る舞いもそうなのに。

 なんでこんな泣いてんだよ。

 ちょっとおじさん胸が締め付けられちゃうじゃないの。

 かといって?

 泣いてる女の子を慰めた経験なんてないし?

 しかも身体がないし?

 どうしようもないし?

 なんて言えばいいのかわかんないんだけど。

 俺はおろおろしながら、困っていた。

 だが、このままではどうしようもないので思い切って声をかける。


『お、俺が一緒にいるからさ。げ、元気出せよ、な?』

「……一緒に?」

『あ、ああ。ほら、これから俺はずっと一緒なわけだろ?

 だからさ、ちょっとは寂しさも紛らわせるというか。

 たまには叩いてもいいしさ、ほら。元気出して』

「……うっさい、ばか」


 うほっ、こいつぅ、慰めてるのに馬鹿って失礼なやつぅ。

 でも、俺にはそれがご褒美なのだ。

 しかし次の言葉が浮かばない。

 どうしたものかと思っていたが、ソーニャはぐすぐすと鼻を鳴らしながら立ち上がった。

 そしてガンと俺を木に叩きつける。


『ギャアアアアア!』

「うっさい!」

『理不尽すぎる……』

「たまには叩いて良いとか生意気。私が叩きたい時に叩くから!」

「ひゃ、ひゃい!」


 内心ではちょっと嬉しいけどね。

 ソーニャは唇を尖らせて、俺を鞘に納めると、鞄を抱えて歩き始めた。

 あれ? もう大丈夫なんだろうか?

 ソーニャはまだ泣いているが、さっきまでと違い静かなものだった。

 よくわからんな。女心は。

 まあ、結果オーライ、だよな?

 

   ●▽●▽●▽


 進みながら俺達は会話をぽつぽつとしていた。

 昨日に比べると、少しは返答してくれている。

 昨日は「あの」「死ね」「えと」「砕けろ」みたいな勢いだったからな。

 なんか、ソーニャは自分が話すのはいいけど、俺が話すのはムカつくみたいなんだ。

 考えてみれば、剣に話しかけられるのって微妙だよな。

 なんかちょっと面倒臭いと思う気持ちもわかるかもしれん。

 ただ、無視はいかんよ、無視は!


『で、これからどこに行くんだっけ?』

「あんた頭悪いんじゃないの? 村長が城に行けって言ってたでしょ」


 あはは、ソーニャさん、絶好調だね。

 俺に向けられるその蔑視、破壊力あるよぉ。

 俺は、ぐぬぬと言いつつも何も言い返さない。

 ちなみに下から見上げるアングルが中々に素晴らしい。

 歩くたびに、下乳が見えるのだ。

 尻も見えるのだ。

 え? アングルおかしい?

 だって人間の視界とはちょっと違うんだもの。

 なんというか視界が広いんだよな。

 それに、なんだろう俯瞰的な視界?

 顔を塞がれても結構見えるんだ、よくわからんけど、事実なのだから仕方がない。

 とにかく、なんと不埒な服装だ。

 け、けけ、けしからん。

 と、煩悩はそれくらいに抑えておいて、っと。


『土地名が聞きたいんだけど』

「なら、そう言いなさいよ。面倒くさい」


 こ、こいつぅ、ちょっと言葉が過ぎるんじゃありませんこと?

 さすがの俺もお冠ですよ?

 ここはビシッと言ってやらんと気が済まん!


『すいやせん、勇者様、えへえへ』


 よし完璧だ。

 絶妙にへりくだった。

 これならソーニャも悪い気分じゃないだろう。


「キモイ」


 そう言いつつ、俺は岩に叩きつけられた。


『ウギャアアアアアアア!』

「ああもう、うっさいうっさい!」

『ちっ! 暴力系ヒロインめ……』

「何か言った?」

『いいえ、何も!』


 思わず悪態を吐いてしまった。

 危ない危ない。


「ここはイチの国よ。それで今から行くのはイチの王都、わかった?」


 イチってなんと安直な。

 まあ、設定に凝る必要ないからね、そこは適当でいいね!


『ははぁ、ありがたき幸せ!』

「その口調ウザい」

『んじゃ、普通に話すわ』

「……そっちもウザい」

『申し訳ございません!』

「敬語もキモイ」

『ごめぇんなさぁい、ゆるしてぇん』

「ぶっ叩くわよ」

『もう! だったらどう話したらいいんだよ!?』

「そうね……あんたって男なの?」

『……サア? キオクガナイナー』


 ここは女と言っても男と言ってもデメリットがある。

 ならば中途半端が一番いい!

 そう思い、わたくし嘘を吐いてしまいました!


「ふーーーーん」


 おっと勘繰られてしまったか。

 だが、俺の身体は剣。

 性別を調べる方法などないのだよ。

 くくく、完璧な作戦ではないか!


「まあ、いいわ」


 っし!

 ソーニャは思案し、カッと目を見開いた。


「ボクっ子でいきましょう」

『やだ』


 俺は即答した。

 三十超えたおっさんがボクっ子なんて気持ち悪いにも程があるだろ。

 何言ってんだよ。

 無理無理かたつむり無理。

 俺の反応に、ソーニャは呆気にとられ、また不機嫌になった。


「あんた、私の言うことが聞けないの!?」

『俺にも剣権があるんだ! やだ! やだ!

 絶対にお断りだ! ボクは無理!』

「あんたね、普通に女性でも男性でも僕って言う人いるでしょ!?」

『それでもイヤだ! 今更俺がボクなんて使ったら、俺の中では中性的な可愛いショタかボーイッシュな女の子しか浮かばないんだ!

 絶対イヤだ! お断りだ! 断固として拒否する!』

「……な、なんなのよ、そこまでイヤなの?」

『やだね!』

「はぁ、じゃあそのままでいいわよ」


 勝った。

 所詮は小娘よ。

 俺の意思の強さの前では赤子も当然。

 くくく、跪けビッチ!


「でも、叩くのはやっておくわ。ムカつくから」


 ガンガン、とまた俺は岩に叩きつけられた。


『ウギャアアアアアアア!』

「だからうるさい!」

『いたいんだってば!』

「そんなの知らないわよ!」


 と、刀身が折れちゃう!


『聖剣なんだからもっと優しくして!』

「聖剣なんだから折れないでしょ!」

『聖剣も折れる! 心は折れる!』

「折れない! 折れたら聖剣じゃない!」


 ああ言えばこういう。

 くそぉ、なんだこの娘は!

 せっかく慰めてあげたりしたのに!

 もう我慢ならん。

 こうなったらアレを使うしかない。

 必殺ッッッ!

 エロアーイ!

 説明しよう。

 エロアイとは、エロい目で相手を見るという、名前そのままの技なのだ。

 俺は痛みの中でソーニャの横乳、上乳、下乳を存分に堪能した。

 うえへへ、プルンプルン揺れてやがるぜ。


「な、なんか寒気が」


 この娘、敏感だ。

 まさか凝視するだけで感じとるとは。

 間違いない。

 こいつ、感度高いわ。

 くふふ、覚えておれ。

 その内、あふんな、おふんで、おっふぁんなことをしてやるからな。

 俺は壮大な野望を抱きつつ、岩に叩きつけられ続けた。

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