第13話 HCF殲滅
軍事アンドロイドの主な役目はテロリスト集団の殲滅だった。激動の時代、怨みを持つ者、居場所のない者らはテロリスト集団に身を投じた。
その結果、世界のあらゆる地域でテロが頻発し、大勢の人間が犠牲になった。
金のない彼らが何故テロに必要な銃や手榴弾を手に入れることができたかというと、ライバル国、敵国の支援があったからだ。
つまり、各国はテロリストを使って代理戦争をしているのと同じだった。
日本もまた例外ではなく、その渦中にいた。
毎日どこかでテロが起こる。軍事アンドロイドはそのなかで驚異的な力を発揮した。
軍事アンドロイドは首謀者を突き止め、事態の収集のために排除すべき人間を予測し、陸から空から彼らを殺害していった。
邪魔する者もまた排除対象となり、容赦なく殺害した。
そのため、場合によっては国境なき医師団、国境なき記者団が犠牲になることもあった。
しかし、首謀者が死んでも彼らは新たなテロリスト集団に参加し、テロはなくならない。いたちごっこだった。
政府は、事態の収集を図るため、テロリスト集団を殲滅する作戦に出た。これにより、一度でもテロ行為に加担した者は軍事アンドロイドがどこまでも追いかけて殺害することになった。
事は、そんな中起こった。
新入社員を迎える桜の季節の朝、桜並木の入り口に一人の男が立ちはだかった。身体中に手榴弾を装備して。
そして男は手榴弾と共に粉砕したー
龍崎アンドロイド研究所の前で自爆テロが起こったのだ。
さらに驚くべきことに、犯行後、声明を出したのはHCFの人間だった。龍崎は言葉を失った。
HCFは元々新庄が職探しのために創設した団体だった。しかし、新庄が面倒を見ることができずにいるうちに、半数以上が暴徒化し、過激派となり、今回のテロに至った。
龍崎はこの事件に言葉にできない憤りを覚えた。優秀な社員、未来ある者が8人も犠牲になった。しかも生産的でない人間の、卑劣な行為によって。
こんなことが許されていいはずがないー
龍崎は初めて新庄の活動に疑問を持った。
新庄が援助している人間たちは、本当に生きる価値があるのか?
生きていても、また未来を担う人材の邪魔をするんじゃないか?
龍崎は電話を鳴らした。
新庄に話してどうにかなるわけではなかったが、一言言わずにはいられなかった。
しかし、新庄が電話に出ることはなかった。
新庄はこの日既に出社していた。たまたま事務所にいたところ、事務所のテレビでこの事件が速報で流れたのだ。
「おやっさん、すまない。ちょっと出てくる」
事務作業をしているおやっさんの返事も聞かず、新庄は職場を飛び出した。
新庄の頭には、龍崎のことなどなかった。一度でもテロに加担した者は助からないー
新庄は暴徒化していたHCFに気づかなかった自分を責めつつ、HCFの本部に向かった。
HCFの本部に着くと、新庄は目を見張った。
ただのプレハブ小屋だったそこには、バリケードが張られている。入口には二人の男が銃を片手に立っていた。
ーいつの間にこんなふうにー
「俺だ」
新庄が男らに声を掛けると、
「新庄さん…!来てくれたんですね!」
男らは銃を下げ新庄を迎え入れた。
新庄がプレハブ小屋に入ると、数百人の見知った顔があった。
ある者は興奮気味に、またある者は鬼の形相で、テレビを直視している。
新庄は彼らがテロの実行犯だと確信した。
「新庄さん…!」
ひとりが新庄に気づくと、新庄さん、新庄さん、と皆が一斉に新庄を見た。
「お前ら、早く逃げろ!ここは危ない!」
新庄は皆に訴えた。
「…新庄さん、僕らは逃げません」
中心にいた男が静かに言った。
「中條…お前が…」
新庄は驚きを隠せなかった。
中條は、HCF発足当初からボランティアとして参画していた人物だった。
だが、当初の柔和な顔立ちとは打って変わって、頬は痩せこけ、瞳は怒りでギラギラと光っている。全く別人だった。
「中條、お前どうしてこんなことを…」
言葉を失っている新庄に中條は続けた。
「どんなにがんばっても、仕事は減る一方で、探すのは不可能です。それならば安楽死するしかない。だけど悔しいじゃないですか、せめて一矢報いたい、僕らから仕事を奪ったアンドロイドと、それを量産している龍崎に…!」
「だったら生きろ!なんで死ぬ選択を…」
言いかけた新庄に、
パンッ、パンッ
二発の銃声が響いた。
「みんな奥へ行け!俺が話をする!」
入り口にいた二人はもう殺されたのだろう。
このプレハブには出入口は一ヶ所しかない。
もうどうにもならないことはわかっていたが、新庄には皆を見捨てることはできなかった。
ほどなくして軍事アンドロイド数十体が入ってきた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、
次々と軍事アンドロイドがHCFのメンバーを殺害していく。
あっという間に、残りは新庄と、その奥にいる仲間だけになった。
「ちょっと待ってくれ!」
新庄は軍事アンドロイドに訴えた。
「新庄優也、あなたは殺してはいけないことになっている。どきなさい」
軍事アンドロイドは事務的に言った。
「新庄さん、あんたやっぱり政府と繋がって…」
中條が新庄の前に出た。
「前に出るな!」
その言葉と同時に、
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、
軍事アンドロイドが一斉に銃を向けた。
たった数分で、新庄以外の全ての人間を殺害し、軍事アンドロイドは去っていった。
新庄は呆然として動けぬまま、そこに立ち尽くした。
安楽死法案可決 京 桜 @papipapi125
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