第16話 神官騎士セリノ
「セリノさん。この依頼も受けてみませんか?」
ギルドの受付の女性が、今ひとつ依頼引き受けたばかりの私を呼び止める。
「何です?」
呼び止めに成功した受付女性は、目をキラキラさせて依頼書を見せつける。
「礼拝施設の浄化です」
「浄化依頼ですか…」
「こういった依頼ばかりはお嫌でしょうが、今引き受けて頂いた依頼の隣村ですし、テオ君も付き添いやすい内容ですしね。……どうですか?」
まるで、商売人のような勢いです。
ちなみに、今引き受けた依頼は「行方不明少女らの調査」。
最近、10代の少女が突然行方不明になり、何日か後に記憶を失われ発見される。
発見された少女のほとんどは身体は問題なかったが、発見された場所が最悪であった。
ほとんどが、奴隷市場なのである。
直ちに調査が行われた。
市場に出ていると言うことは、商人に売りに来た者がいるはずだからだ。
しかし、少女を売りに出した商人から有益な情報を得られなかった。
各地で人材を売買して旅する商人たちの前に、少女はいつの間にか現れたのだという。
良心があれば少女の保護に協力を求めようが、ほとんどの商人は商品がタダで手に入ったと囲いこんでしまったのである。
捜索の手を逃れ、売られてしまった少女は、残念ながら無事にとは言いがたい状態であった。
セリノが受けた依頼は、そんな事件の新しい事案であった。
「どうした?セリノ」
受付に留まったままのセリノに、クライブが近づいてきた。
「クライブ。追加依頼です」
「追加?」
クライブも、受付が見せる依頼書に目を通す。
「浄化依頼か」
「そうです。どうでしょうかね?」
「……いいんじゃねぇのか?調査依頼はあくまで情報収集だ。内容的にテオを連れていく事が出来ない場所にも行く事になる。テオを一人には出来ないなら、お前と仕事をさせていた方がいいだろう」
「そうですね」
セリノは依頼を受ける事にした。
そろそろ、ヨナ村につくはず。
魔法〈探査〉を使用しながら進むセリノとテオ。
その〈探査〉に数人の気配が引っ掛かった。
「テオ、注意です」
うなづいたテオを連れ、気配を消しながらその場所に近づく。
そして見えたのは、花畑だった。
少年少女達が花を摘み、花を編んでいる。
その集団から外れて、守るように青年が周りを警戒していた。
しかしひとつ、変なところがある。
花を摘む少年の中に人ではない者がいるのだ。
花一杯の篭を背負ったあれは……。
「ゴブリン……!」
セリノは、横でギリリと引き絞る弓弦の音にはっとした。
いけない、感付かれてしまう!
「ー警戒しろ!」
セリノは策を巡らせつつ、自分から姿を出すことに決めた。
依頼書がテーブルに置かれる。
「正式な依頼書のようですな」
村長の家の客間。
顔を上げた村長の視線を、セリノは真っ直ぐに受け止めた。
テオは不安そうに下を向いて隣に座っている。
「まずは行き違いが起こらなくて良かったですな」
村長は、穏やかにそう告げた。
「ありがとうございます」
「ある意味、本当に幸運でした。あのゴブリンはオルザム邸の使用人です」
ガタっと驚いたように、テオが顔を上げた。
「ゴブリンが、使用人だって……?」
村長は苦笑いをする。
「まあ、多くの人がそう言いますよね」
「申し訳ありません」
「ゴブリンの主人は元冒険者の召喚士である事は聞きましたか」
「はい」
セリノはテオの肩を抱いて落ち着かせつつ、村長の話を聞く。
「召喚士は元々獣や魔物に好かれやすく、それらと主従契約をする能力も備えているらしいのですよ。あの子はその契約を受け入れているのです」
「あ、あの、それでも魔物です!危険ではないのですか!」
「テオ」
セリノはテオの頬を両手で挟んで、自分と向き合わせる。
「召喚士の力は特異です。その契約を受け入れたと言うことは、命を預けたという事です。逆らった瞬間、契約が命を摘み取ります」
ぽふん、と両手で頬を優しく叩く。
「村の人と一緒にいたでしょう?と言うことは、人を害する事は命じられていません」
「あのゴブリンへ命令は、館の奥さまの為の花摘みなのですよ」
「花摘み……?」
村長も口添えをする。
「テオさんと言いましたか。あなたにも感謝を。今、なるべく騒ぎは起こしたくないのですよ。この近くに貴族のお館もありますので」
セリノは先程の集団に、一人だけ身なりの良い子供がいたことを思い出す。
あれですか。
確かに、あそこで攻撃していれば、要らぬ問題にも巻き込まれてしまう可能性もありますね。
なにより。
ここに、テオがいるのですから。
セリノはテオをちらりと見た。
「テオ。早く依頼をこなして、さっさとここを去りましょう」
「……うん」
「村長。本当に色々教えて頂き有難うございます。これ以上ご迷惑をかけぬよう、速やかに、依頼をすませましょう」
「……有難うございました」
ふたりは立ち上がり、頭を下げた。
「無事に終えられましょうが、一応、お気をつけて」
ふたりはもう一度頭をさげ、村長の家を出た。
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