第10話 特別訓練②

「さあ。坊や達もお食べ!」


周りの保護者達が、騎士団から振る舞われた料理や自分達の差し入れた料理を、俺と少年とリーシェにとりわけてくれた。


「ありがとう、おばちゃん!いただきます!」

「ありがとうございます」

「ありがとうございますぅ」


特別訓練の最終行事。

参加者達との交流食事会に入っていた。


あの後、3回にわたるシミュレーションバトルを経て、戦った2組合同でそれぞれ考察会を行った。

立ち会った騎士が中心となり、勝ち負けや班分け関係なく良い動きを誉め、反省点の改善と次回に繋がる目標を各々立ててもらうように導くのだ。

座学から考察会までで、子ども達は一つの事をやり遂げた達成感を得る。


そして最後に、ずっとその様子を見守っていたアルバンも交えて、皆で食事し交流を深めるのであった。


「おいしーな!」

「もっと、普通に食べれないのかい」


パンや肉を頬張ってもぐもぐしながら横を見ると、パンを小さくちぎりながら、少年は呆れたような視線を向けていた。


「お前こそ、ちまちま食べてて味わかんのかよ」

「ちまちま?」

「男ならガツンと行け!ガツンと!」

「君は何を……ふぐっ!」


フォークでぶっ刺した肉の塊を、少年の喋りかけた口へ突っ込む。

もごもご抗っていたが、俺が引かず周りも止めず、少年の更に隣に座っているリーシェが微笑ましく見守っているのに気づくと素直に咀嚼し始めた。


「やっぱうまいもんはガンガンいかないとな!」

「まあ。人生初のあーんですね。相手が男っていうのも、実にテオらしいですけどね」

「もぐもぐ……ごくん!……リーシェ!おかしな事を言わないでくれないかい!」

「お前。こんなに美人のおねーさんがそばにいたのに、あーんしてもらってなかったのか?……馬鹿じゃねぇ?」

「あら。じゃ、今度は私があーんしてあげましょうか?」

「…君たちはっ!…僕に何をしたいんだい!」


両側から追い詰められる少年テオの慌てぶりに、周りの皆がわらった。

テオは顔を真っ赤にして膨れている。


その様子をみていたリーシェは、ふと身を屈め声を落として俺にささやいた。


「ねぇ坊や?」

「うん?」

「お姉さんとテオの名前はわかったわよね」

「おう」

「…坊やの名前を教えてくれないかしら」

「…………ショウ」


リーシェに合わせて、俺も声を落とす。

アキラ、と言いそうになって思いとどまった。

お忍び状態である事を思い出したのだ。

やっべ。

美人が興味を持ってくれるのは嬉しいけど、今はヤバイ。

俺は慌てていたが、逆にニシシシッと笑った。


「俺、この城で働いてんの。でも、1回特別訓練見たくってさぁ。自主的に休み時間とっちゃった!」

「……それは、仕事を放り出して来たと言うのじゃないかい?」

「そう言う表現もできるかな?……てへっ」

「そんな仕草をしても全然可愛くないよ……っ!」

「…ああ、テオにも感謝だなぁ」

「感謝?えっ?えっ?」

「テオが声をかけてくれたおかげで、美人お姉さんと喋れたし。美味しい飯も食べれたし、おばちゃん達優しいし、お前面白いし!」

「……っ!」

「俺はこっそりみてこっそり帰るつもりだったんだよーう?今ここに俺がいるのは、テオのせいでテオのお蔭だよーう?」

「き、君って子は……っ!」


にこにこしてみる。


3人で固まって、こそこそしている図は変かも知れないが、周りもそれぞれ盛り上がってるし、聞きやすいように身を寄せあってるだけに……見えるだろう。

多分。


名前を聞いて来たって事は、他の事も聞いてくる可能性はある。

予想できる質問の答えを先にこっちから流して、違うことにすり替えてみる。

さあ、どうなる?


「……うふふ。テオ。どうします?すっかり巻き込まれてますけど?」


リーシェは俺を見る視線の強さを幾分和らげながらテオに訪ねる。

まだ何か探りたいような、でも面白がっているような不思議な表情だ。


「僕は君と初めてあったんだよ!?」

「やだなぁ、テオ。あんなに盛り上がって一緒に見たのに?」

「うふふ……」

「な、何を言い出すんだい?」

「もう、友達だよな?俺達」

「ふっ……あはははっ」


リーシェは堪らず吹き出す。

テオは叩き込まれる俺の攻撃に唖然としている。


よし。

次は俺のターン!


「そう言えば、テオ達は誰かの連れなんだろ?飯一緒にならなくて良いのか?」


俺はずっと、このふたりを姉弟と認識したふりをしていた。

会うのも今日限りだろうし、他の保護者達との雰囲気が違うのもあえて知らないふりしてたんだ。


「リ、リーシェ…」

「あらあら」


テオは明らかに動揺したが、リーシェは笑顔を崩さない。


「ねぇ。ショウ?」

「おおうっ?」

「ショウは、うちのテオと友達になったのよねぇ」


いきなり、坊やからショウになった。

俺でもわかる。

リーシェは仕掛けてきた、よな?


「うん」

「うふふ。じゃ、テオの友達として教えるわね。ー私達。冒険者なのよ」


キター!

異世界転移話のテンプレは、やっぱりあったー!


「ふわあああっ!」


俺のテンションが急激に上がり、思わずテオの両肩を掴んだ。


「うわっ!」

「テオ!」


危機を感じたのか、リーシェはテオに伸びた俺の腕をつかもうとする。


「お前、カッケェ!」

「……へっ?」


リーシェの手が止まり、ふたりともポカンとする。

俺は遠慮なくテオを揺さぶった。


「冒険者ってアレだろ?依頼を受けて、探検や討伐に行くってやつだろ!やっべぇ!超カッケェ!」

「ま、まあ、そうなんだけど。あの、ちょっと、揺らすの止めてくれないかい……?」

「お前、俺と同じ年くらいじゃん。すっげぇなぁ!」


俺はテオの要望通り揺するのを止めて、次にガシッと肩を組んでやった。


「ちょ…」

「じゃ、お姉さんはテオの仲間ってやつ?」

「坊やの反応はさっきから予想外ばかりねぇ。まあそうよ、今はね」


ホールドされたテオが抗っているが、今はお姉さんとの話が先だ。

おとなしくしてろ、テオ。


「話を続けるわね?私達は冒険者なの。これは変だって事はわかるかしら」

「参加者と同行者だけがこの会場にいるはずなんだよな?」

「そうよ。私達も坊やと同じであんまりおおっぴらに出来ないの。冒険者としてギルドは身元を保証してくれるけれど、特別訓練の参加規則を破ってる事は間違いないしねぇ」

「どうやってここに来たの」

「坊やと同じよ」

「?」

「……騎士に連れて来てもらったわよねぇ」


さすがにひやりとした。

あの時から見られてたのかっ!

お姉さん、こえぇっ!


「あの騎士については聞かないわ。私達をここに入れてくれたこっちの方にも迷惑かけたくないしね」

「うーん。それはありがたいけど、お姉さん、聞いていいかな?そこまでして来たのは何のため?お城に何か起きるなら、さすがに俺も色々考えなきゃならないんだけど」


一応ここは俺の本拠地だ。

守ってもらってるし、それなりに俺も応えなきゃ。


「あら警戒させたかしら。でも、それは杞憂よ。テオにこの国を知って貰いたかっただけなの。男の子ならこういうの興味があるでしょ?」

「お姉さん、この国の生まれとか?」

「まあね。で、信じてもらえるかしら」

「んー」


本当なら、もっと警戒しないといけないかもしれない。

冒険者ってのも鵜呑みにしちゃいけないのかもしれない。

だけどなぁ。


腕の中のテオの顔をじっと見つめる。

俺とリーシェのやりとりの終わりを待ってたテオは急に視線を向けられて驚く。


「なんだい?」

「テオが声をかけてきたんだよなぁ」

「そうなのよぅ」

「お姉さんの名前もポロっと言ってたし」

「もう、偽名を使う余地ないわよねぇ」

「テオって……可愛すぎだろ」

「可愛いいわよねぇ」

「ちょ、待って何の話なのだい?」


疑わなくてはいけないと思うのだが、テオを見てるとなぜかそうはいかない。

あーもう。

めんどくさい。


「いーぜ。なんかめんどくさい。テオが面白いからもういいや」

「あらぁ。ありがとう」

「ありがたいんだけと、ちょっとさっきから何か失礼な事ばかり言ってないかい?」

「でも、この後何かあったら俺はテオ達の事言うしかないから、そこは覚えていてくれよな」

「ま、仕方ないわね」



3人のこそこそ話は終了だ。

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