第11話 反省会(テオ&リーシェ)

ライザール王国城下パナシュ。

各国主要な都市には必ずある冒険者ギルドの休憩スペースで、テオは仲間達と共にテーブルの席についていた。

椅子は4脚。

サービスで提供された飲み物を手に取りなが、うつむきがちになるテオとリーシェ。

その反対側には、全身黒い衣装を纏い腕を組んだ狼人の男が無表情で座っている。


「お前ら、馬鹿だろう」

「……すみません」

「リーシェがついていながら」

「ごめんねぇ、クライブ」


「まあまあ。とりあえす、無事に戻って来れたのですから」


金の入った袋と自分の分の飲み物をテーブルに置いて、残った1脚の椅子に座った神官騎士の青年。


「セリノ。済んだか」

「ええ。ついでに薬草も売って来ましたからそこそこのお金になりましたよ」


テオの仲間はこれで全てだ。




4人がこの国へ仕事を求めて流れ着いたのは、自然な事だった。


最近の騒動の中心はこのライザール王国。

戦争になるかという最悪な事態を脱したものの、この国への関心はなくならない。

王族が外交に力を入れざる得ない為、普通なら王国騎士団が処理する国内のトラブルへの全てに、手が回らなくなるのではと考えたのだった。

解決できるのであれば騎士団でなくても良いという案件を、冒険者ギルドに依頼する事はよくある事だし、リーシェがこの国の出身で、国の気質というものを知っていたからと言うのも理由の一つである。

思った以上に国中が平穏であったのは残念だが、事情を抱え最年少のテオを育成するには充分な依頼量があったため、予定通りとどまる事にしたのだった。




今日の依頼は廃教会の浄化。

仕事は神官騎士のセリノで充分で、念のための護衛として軽騎士のクライブがついていった。

その間、リーシェが特別訓練の話を知り、テオを連れて潜入していたのである。


「いくら、国民に開かれている行事だとしても浅はかすぎる」

「一応は、お城の外だから大丈夫じゃないかなぁって思っちゃったのよ」

「だとしても、自分達から声をかけるとは…!」

「それはテオがしたのよ」

「…………!」


話をふられたテオは、青くなってリーシェをみる。

クライブは怒っている。

とりなすようにセリノは少し話をずらしてあげた


「その、ショウ君という少年は大丈夫なのですか?」

「んー、大丈夫だと思うわよぅ」

「下働きと言えど、城の者なのだろう?」

「これがまた、少年って感じでねぇ」


出合いから、訓練を見学するまでのショウの様子を語るリーシェ。


「素直に感情を爆発させちゃう子なのよ。テオが振り回されて、本当に面白かったわぁ」

「リーシェ!」


思わず反論しようとテオは声をあげたが、クライブにじろりと睨まれ口をつぐむ。


「その素直さが禍にならないのか」

「大丈夫よ。賢い子ではないけど、聡い子だわ」

「……リーシェさんが言いきるのなら、信じてみてもいいんじゃないですか?」

「良いだろう。しかし、何かあったら、全力で逃げるぞ」

「「了解」」


テオは年長者組のやりとりを聞き頭を下げた。


「みなさん。すみませんでした」


返事の代わりにセリノは微笑み、クライブは腕を解き、リーシェはテオの頭を撫でた。


「リーシェ。お前も反省しろ」

「はぁい」


少し冷めてしまった飲み物に、ようやく口をつける。


「で、どうでした?お城の様子は」

「とりあえず、ぴりぴりとした感じはなかったわねぇ」

「恒例行事とやらの特別訓練が実施できるんだから、まあそうだろうな」

「あの婚約発表は、起死回生の一手でしたですもんねぇ」


年長者3人は数日前に行われた花嫁披露の市街イベントを思い出す。

町に入ったばかりで、そのイベント会場に寄ってみたものの大勢の人でほとんど見えなかった。

わかったのは、婚約者の乙女が小さい体と太陽の光で輝く銀色の髪であった事だけ。


「王子の花嫁はまだ13でしたか?」

「テオと1歳しか変わらないわね」

「さすがに、嫁にするには早いな」

「夜のお相手も、あの王子の体の大きさじゃ大変よぅ……あいたっ」


クライブの軽い1打が、リーシェの頭に入る。


「リーシェさん。ここにもまだ早い子がいること忘れないでくださいね」


テオは聞かなかったふりをして、飲み物を口に含んだ。





ショウという少年。

テオにとっても不思議な存在だった。

彼は自分と同じくらいの年と言っていたが、そのわりには小さい体だった。

話しかけたテオに目もくれず、リーシェの胸に釘付けになってる顔。

テオの腕を引っ張り、興奮しながら観戦している顔。

テオにちょっかいをだして笑っている顔。

冒険者と知って目を輝かせながら近づく顔。

あれほど、感情をくるくる変えながら素直に出す同世代の子供にテオは会ったことがなかった。


本当にそうかどうかわからないが、ショウは言ったのだ。

テオと「友達」だと。

リーシェが探って、お互いにやましいところがあったのだが、ショウは言外にテオ達を信じると言ってくれた。

なんだかじんわりした。

だから、テオも信じたいと思った。




テオはあの時の事を思い出している内に、最後の方のやりとりも思い出した。


3人のこそこそ話が終わった後、ちょっとほっとしたように笑ってショウは食事を再開した。

周りに勧められるままに、ガツガツと頬張るショウの姿はテオにも微笑ましく見えたのだが。


「ショウ。君は少し勢いよく食べ過ぎだよ」

「ん?」


頬を膨らませてこっちをみるショウの口回りには、いっぱいソースがついている。


「まったく、君は口以外で食べてるんじゃないかい?」


テオは、自然に胸元から布をだして、ショウの口回りを拭き始めた。


「いいよ……っ」


抗うショウに、テオは顎をつかんで強引に拭こうとする。


「そもそも、顔が汚れたままなんだよ。せっかくだからこっちも…」


ショウはぎょっとした表情を浮かべる。

それには事情があったのだが、テオは仕返しのチャンスと布を持ち変えて拭き始めた。


「やっべっ…」


ショウが何かを呟き、ガシッとテオの手をつかんで止めた。


「あ、ありがとな。でも、変に綺麗だと、後でばれちゃうから」


拭った箇所をショウは煤がついた手の甲で擦ってしまい再び汚れてしまったが、テオは見てしまった。

隠されたショウの艶やかな肌を。

そして、整ったショウの素顔の一部を。





どくんっと胸が鼓動した。


「あれ…?」

「テオ。どうした?」


雰囲気を察して、クライブは声をかける。

顔をあげれば、3人とも心配そうな顔をしていた。


「なんでもないよ」


なんでもない。

なんでもない。

ショウと出会って、すごく楽しかったのだ。

思い返して気づく。

だけど、きっともう会わないんだから



テオは笑った。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★

クライブ(狼人)28歳ー軽戦士

セリノ (人間)19歳ー神官騎士

リーシェ(人間)23歳ー魔法使い&薬師

テオ (人間)14歳ーレンジャー&???

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