第9話 特別訓練①

「やあ!やあ!やあ!」


カン、カンカン!


「こら、こんなところで振り回してはダメよ!」

「きゃーはははははっ!」


王城内訓練場。

その入口前に兵が整列できるだけの広場があった。

今日はそこを特別に解放して、20数名の少年ら(少女もいるな)が保護者連れで集まっている。

まだ、始まっていないが余程この訓練が楽しみだったようで、あちこちで子ども達は打ち合いごっこ、保護者達はお喋りに花が咲いている。


俺は顔を墨で汚し、雑用係の少年の服と髪を完全に隠した帽子を着けて、広場からは死角になる隅でネイトと様子を見ていた。


「特別訓練……?」

「交流を兼ねて、と言ったでしょう」


まあ、どちらかと言えばお遊びみたいなものですけど。

ネイトは興奮している子ども達をみて笑った。


「我々は王を守り、国を守るのが使命です。そのために強くあるのは当然ですが、更に国民の理解と協力は必要不可欠です。その為の特別訓練なんですよ」

「どんな事すんの」

「我が隊の新人たちが、剣を扱う時の基本の座学、剣術基本の型を指導し、最後に実践体験をやるんです。我が隊にも利点はあるんですよ。教える側にまわるのは、己を見返すきっかけになりますからね」

「なんか、皆すっげぇはしゃいでるな!」

「これから、実践体験です。自分も体験しましたが、公認の騎士ごっこですからね」


ネイトのいう新人騎士とやらが現れ、子ども達へ集合するように声をかけた。

少年達は歓声をあげながら集まっていく。


「さて、自分も本当に戻らないいけません。で、姫さん、お願いなんですが」


振り向くと、さっきまでの笑顔を消してネイトは俺を見ていた。


「いいですか。目立たずおとなしくしていて下さいね。あくまでも見学だけですよ」

「おう」

「……なんか男前だし。今の姿にぴったりだし。……でも、姫さんなんだよなぁ……なんでなのかなぁ」


ネイトはブツブツ言いながら戻っていく。

いい加減、慣れろ。


きゃいきゃいはしゃぐ子ども達を、新人騎士がようやく整列させる。

ネイトが少し立派な椅子を運んできて、整列した子ども達の前に置いた。


「アルバン王子がおいでです」


言葉に合わせて騎士服を身に纏ったアルバンが現れる。

子ども達がよろこび、その後ろで見学していた保護者達が前に詰め寄った。


ちょ、見えない!


「今日の訓練によく参加してくれた。未来の騎士達よ……」


アルバンが話始めていたが、保護者達の壁が出来てしまって姿が見えない。

目立つな、と言われていたけどどうしよう。

壁の後ろをうろうろしていたら声をかけられた。


「君……見えないのかい?」


振り向くと、同い年くらいの茶髪の少年と保護者と見られる若い女性。

茶髪の少年は参加している子ども達や見学している兄弟達より身綺麗な服を着ているようだ。

しかし。そんな事よりも、隣の保護者の女性だろう!

赤毛に少しつり上がった石の強い茶色の目。

町娘の装いでありながら隠しきれない女らしい体つき。

何より、少年と並んで晶の顔を覗きこむようにかがんだ女性の胸は、たゆんたゆんと揺れている。


巨乳っ娘、キター!


少年は動きが止まった俺に話しかける。


「君も見学?」

たゆんたゆん。

「人で見えないんだろう?」

たゆんたゆん。

「…えっと…」


少年は困ったように女性を見た。


「言葉がわからないんだろうか」

「そんな感じには見えませんが……。坊や?」


女性が俺に触れようと腕を伸ばす。

それに合わせて胸も揺れる。

たゆゆんっ!


「ふあっ!最高!」


少年は晶が動かなかった理由に気づいて、わなわな震えだした。


「君はまさか……っ!リーシェの体を見ていて僕を無視していたのかい……!」

「まあ。素直な子ねぇ」

「リーシェ!」

「まあまあ」


リーシェと呼ばれた女性は、大人の余裕で微笑み、少年の頭をグリグリ撫でてなだめている。


「この人、お前の姉ちゃんなの?美人で巨乳で羨ましいなぁ!」

「女性になんて事を言うんだ!」

「え?お前、巨乳派じゃないの?もったいねぇ」

「きょ……っ!そういう事ではない!」

「なんだ。姉ちゃんの前だから恥ずかしがってるのか。そっか。ごめんな」


口をパクパクさせている少年の肩をぽんと叩く俺。

そんな俺達をみてますます笑うリーシェ。


「それでは、実践訓練を始める。4~5人で班を作りなさい。同行者は安全な位置まで下がるように」


いつの間にかアルバンの話は終わっていて、実践訓練に移ろうとしていた。

俺は少年の腕をつかんで引っ張った。


「お前も身内かなんかなんだろ?せっかくだから前の方で見ようぜ」

「おい!君!」


運動会の場所取りのように、グイグイと人をかき分け前に出る。

少年同士?の微笑ましいやり取りは、他の保護者らをも和ませ、皆場所を譲った。

二人は無事に最前列に陣取る事が出来た。

巨乳のリーシェは、少年の後ろにぴったりついている。


「うしっ!よく見れるぜ」

「……君は人の話を聞かないと言われないのかい」

「うふふ。坊やは可愛いですねぇ」


子ども達が別れて、全部で6組になった。

そして2組ずつ実践訓練をする。


最初のバトルは「姫を取り返せ!」

姫をめぐって2組が戦い合うというシミュレーションバトルだ。

子供達は各々布製の防具をつけ、布を巻いた棒に木盾を装備している。

班事にリーダーや作戦を決め、制限時間内いっぱい戦うということらしい。

決まり手や禁じ手が定まっており、立ち会いの騎士が判定する。

負けと判断された子どもは速やかに退場し、最後まで残った人数で勝敗を決める。


ちなみに2戦目は「財宝を手にいれろ!」

3戦目は「海賊と戦おう!」だった。

テーマを決めるのは子ども達のモチベーションをあげる為とともに、戦いの場の条件をつける意味もあった。

草原やダンジョン、海上などで戦略が変わるからだ。


「それでは、第1戦開始!」

「「「わあああっ!」」」


生き生きとした表情で子ども達がぶつかっていく。

前半の座学や型をきっちりこなそうとする子。逆にすっかり忘れたように暴れる子。全体を把握するため動かない子。様々である。


「うわぁ。面白そう!」

「確かに。子ども達が楽しそうだね」

「あ、アイツ!なんか動き早くねぇ?」

「む?早いが振りが大きいな。その右の奴をみてごらん」

「あの目立たないやつ?」

「ああ、その分確実に相手の動きを封じてるよ」

「へえっ!お前、詳しいんだなぁ!」


俺達は、いつのまにか興奮しながらシミュレーションバトルを見学していた。


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