第8話 中庭にて
目覚めてからの出来事。
初日。
起きたら、アルバンに襲われてた。
なので、きっちり教育をした。
その後和解。
友達になる。
2日目。
寝ている間の担当だったメイドさんが専属侍女に決定する。
目覚めたのが王さまに知れて、面会することに。
山男の王さまが仕留めた獲物をごちそうになる。
アルバンと三人で作戦会議。
3日目。
国内外に、正式にアルバンとの婚約を公表。
4日目。
昼。国民へのお披露目イベント開催。
夜。城内で披露宴を開催。
打ち合わせ通り、ラブラブっぷりを周囲に振りまくる。
直後から祝報の使者が殺到し、縁談話のあった国の使者の前ではアルバンといちゃついてやる。
それは3日ほど続き、ようやく落ち着いた。
ふう。
「疲れたのか?アキラ」
城の中庭。
後ろから、アルバンが覗きこんでくる。
遠くできゃあっと侍女達の声が聞こえて来るが、それには理由があった。
今は初夏。
爽やかな風が緑鮮やかな草木を揺らし、日向ぼっこをするには最高だ。
クッションを背もたれにし草の上に敷かれたラグに座るアルバンに、後ろから抱き締められるように懐におさまってる俺は、ただいまこちらの言語の勉強中なのである。
俺とアルバンは「仲良し婚約者」期間。
アルバンの後ろからまわされた腕が持ってるテキストもこちらの言語で書かれた絵本だし、気分は「絵本を読み聞かせているお兄ちゃんと妹」なんだけど、いちゃついてるとしか見えないんだろう。
「この数日、アルバンといちゃいちゃしかしてないしなぁ」
「待て。その表現は何かおかしい」
「……なんか、飽きたなぁ」
「やはり、話は聞いてくれないか……」
俺は身を起こして、アルバンの体にもたれた。
侍女達がざわめく。
こちらの話してる内容は聞こえてないようで、「アキラさま、アルバンさまに甘えてらっしゃるわ」「アルバンさまも嬉しそうで、本当に仲良しでらっしゃいますわね」とか、囁きあってるようである。
もともとラブラブっぷりをわざとすると決めていたのだから、俺はもう慣れたが、アルバンはまだまだらしい。
そういう声が耳に入る度に照れてしまうのか、触れている体が熱くなるのを感じた。
ほら、今も。
ピクッと震わせて、体が熱くなる。
頭にかかる息もちょっと荒くなってる気がする。
王子さまなんだから、女と密着することなんて何度でもあっただろうに。
事情を知る専属侍女ラウニ(名前覚えた)に愚痴ったところ、目を丸くして聞いていたが最後にはため息をついていた。
「お気の毒な、アルバンさま……」
「なんだよ。二人で相談した時、アンタもいただろ」
「もちろん承知しておりますが……。お二人とも、仲良く、の何かかが違います…」
「?」
「まあ、アルバンさまがアキラさまに夢中、と見える事は間違いございませんが……」
「だろ?作戦は成功だよな!」
「………………アルバンさま、忍耐でございます……………」
よく分からないが、ラウニも疲れた様子だったのでその時は聞かない事にした。
「王子!王子はこちらにおいでですか!」
突然、ガチャガチャと金属音を響かせながら、若い騎士が中庭に飛び込んでくる!
「何事でございます!」
「手続きもなしに中庭に踏み込むなどと無礼でありましょう!」
さっきまで好奇心丸出しで待機していた侍女達が、素早く晶達を隠すように横並びになった。
おお。
プロフェッショナル。
思わずぼんやり成り行きをみていると、そのラインを突破しようとして反撃にあっている騎士の顔がちらりと見えた。
あれ?披露宴でアルバンを呼んだ騎士じゃね?
「ネイトか?」
「王子ぃ~!いらっしゃるんですか?ここを通る許可を下さいよ!」
「構わん。通してやれ」
ざざっと命令に従い身を引いた侍女達の間から、ネイトは姿を現した。
「本当に、融通きかないったら」
ぶつぶつ言いながら、侍女達から晶達へと視線を巡らせたところで、ネイトは体をガチンと固まらせた。
「相変わらず騒々しいな。で、どうしたのだ」
気づいていなかったが、アルバンはネイトが飛び込んで来た時、守るように俺の腰に手を伸ばしてぎゅっと抱き締めていたのである。
しかしネイトにとっては、侍女の壁を越えて目に飛び込んできたのは、戯れ真っ最中の王子と俺だった。
「王子……こんな昼間から堂々と……しかも野外で……」
「ネイト?」
「くっそ羨ましい……こっちは訓練なり任務なりあんのに……ちくしょう」
おいおい。
出てる出てるよ!
色んなものが!
身動きすると、アルバンは察して腕を解く。
俺はアルバンの懐を抜け出し、まだブツブツ呟いているネイトに近寄った。
「おーい。戻ってこい。」
ブツブツ。
アルバンも近寄って来たが、まだ固まっている。
「どうしたのだ」
「しかたねーな」
俺は数回軽くジャンプして勢いをつけると、身長差で高みにあるネイトの顔面に思い切りこぶしを叩きつけた。
「うらぁっ!」
「ぶげっ」
「……アキラ……」
ネイトは崩れ落ち、アルバンは何かを思い出したように頭を抱えた。そして呻いて身を起こし始めたネイトの肩を慰めるように置く。
「王子。何か光が見えました」
「考えるな」
「んで?ネイトだっけ?アルバンに用事があるんだろ?」
「王子!?姫さんに一体何が!」
「誰が姫だ!」
披露宴で隠されていた俺の素に、ネイトは真っ青になる。
話が進まない状況にイライラして軽くふくらはぎを蹴っ飛ばしてやったら、ネイトの中で何かが崩れていくようにがっくりとした表情に変わっていった。
「いいから、早く言えよ」
「アキラ。お前が言うことじゃないだろう」
「仲良しは仲良しなんですね…。って、王子!今日は特別訓練の日ですよ!」
アルバンはハッとした。
「すまぬ!そうであった!すぐに用意して向かう!」
「特別訓練?」
「ネイト、戻ってくれ。アキラ、先に行く。お前達、アキラを部屋へ!」
アルバンはネイト、晶、侍女達へ順番に言いながら中庭から出ていく。
「訓練場で待ってますからね!」
「畏まりました」
アルバンの指示に動こうとするネイトの腕を、がっつり掴んだ。
「え!え?姫さん?」
「ネイト。特別訓練ってなんだ」
「えっと。我々親衛隊が国民との交流を兼ねて、少年らに剣術の基本を指導する訓練です」
「へえ」
「あ、なんか予感がしますよ」
ネイトはピクリと眉を動かした。
「よし。俺も連れてけ」
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