第7話 密談

おっさん。

じゃなく、ライザール王国の王とあったのは次の日の晩餐だった。

とは言っても、おっさんとアルバンと俺の三人なんだが。


謁見は、王と神の遣いの俺との身分との差が定義つけられず、却下。

息子の花嫁候補と面会という形でととのえられた。


しかし、ライザール王国は主に山の民。

鉱石が有名だが狩猟も盛んで、王も相当な腕前をもち、「息子の嫁に食わす獲物を仕留めたぞ!」と意気揚々と鹿や野鳥を持ち帰ってきた。

ということで、ジビエ料理を振る舞うべく身内だけの晩餐が開かれたのだった。


「救世主よ。改めて言わせていただく。我が国を選んでくれ、本当に感謝している」


上座に国王。

国王の右にアルバン。左に俺が座っている。

おっさんは酒杯を掲げ、謝意を示した。


頭を下げないんだな。

王さまだし。日本人じゃないからなぁ。


ぼんやり思いながら、俺も杯を上げた。

アルバンも杯を上げる。

そして乾杯。


「願いを叶えることを選んだのは神さまだよ」

「それでも、言いたいのじゃ」

「別に構わないけど、俺は神さまじゃないから出来る事に協力するだけ」


「アキラ」


おっさんは国王だから、一応失礼にならないように気をつけているつもりなんだけど、アルバンは咎めるように俺を呼ぶ。


仕方ないだろ。

先輩後輩あっても、VIP待遇当然の相手なんかに会った事ないんだから。


おっさんは目を丸くして、すぐに笑った。


「よいよい。……しかし、救世主。そのなりで、何とも面白い言葉を紡ぐのぅ。ふつうなら無礼じゃが、なんぞしっくりくるわ」

「サンキュ…。ありがとう」


挨拶が終わったところを見計らって料理が運ばれてくる。

通常はコースのように一品ずつ出てくるらしいが、王自慢の獲物を早く披露したいと前菜からメインまで一気に並べられていく。

料理も煮込みとか家庭的だし、食事をしながら話すとかマナーも今はなくして無礼講とおっさんが決めてくれた。


おっさんは俺を見て柔軟に対応してくれてるのかもしんない。

堅苦しいのは厄介だから、こっちも助かる。


食事をしながら、おっさんとアルバンから改めて国の事情を聞かせてもらう。

王子の縁談話だ。


「一番力をもつ帝国には、妙齢の女性皇族がおらぬゆえ、話はまだ来ておらぬ。それも、一番の朗報であり一番の悲報じゃ」

「どういう事?」

「帝国からの申し出があれば、選ばざる得ない。他の国は押さえられようが、はっきり言ってこの国は帝国に支配されてしまうじゃろう。それほどに帝国の権威は強力なのじゃ」

「じゃ逆に、申し出がないのは助かるけど、他の国のちょっかいが多くてうざったいのか」

「そういう事じゃ」

「皆、良くアルバンと似合う王女とか揃えられたなぁ」

「無論、全てがそうではない。笑ってしまうくらい細い繋がりの者を薦める国もおる」

「へえ。仮にも世継ぎの王子さまに、そんな相手でいいの」

「アルバン自身が気に入れば、そんな問題は関係ないじゃろう?」


俺はアルバンを見る。


「好みの女の人いた?」

「面倒になるのをわかっていて、会うはずもない!」


不機嫌そうに、酒を飲むアルバン。

おっさんは、そんなアルバンに笑う。


「興味がないわけではないであろうが、まだまだ同世代の若者達と騒ぐ方が楽しいようじゃ。ま、それも救世主がおれば心配いらぬ話じゃな」

「父上!」

「あー。その、話なんだけど、ちょっと待ってくれる?」


父子のじゃれあいは微笑ましいところもあるが、言っておかなくちゃ。


「どうしたのじゃ」

「俺。花嫁にはなるけど、奥さんにはなりたくないんだ」

「……アルバンと子をもうけるつもりはない、ということかの?」

「そういう事。言ったろ?出来る事だけ協力するって。大体会ったばっかりだし、アルバンだって好みがあるだろ?」

「救世主ではその気になれぬのか…?」

「父上!お止め下さい!」


おっさんに視線を向けられた、アルバンは顔を真っ赤にする。


「俺の国じゃ、恋愛結婚が基本なんで、気持ちがないのに夫婦とか考えられないんだ」

「……理想じゃな」

「だよなぁ。でも、アルバンにもそういう相手が出来たら、結ばれても良いじゃん?」

「救世主はその相手にはならぬのか?」

「ない」


オイ、コラ。

おっさんはともかく、なんでアルバンまでショックを受けたような顔をしてるんだ。


「アルバンだって言ったろ。そもそも俺は子どもに見えるって。子ども相手にそんな気はならないって」


まあ、ちゅーかましてくれたがな。


「だから、期待しないで」


アルバンはまだショックを受けていたが、おっさんは少し考えるような顔になった。


「確かに、願ったのは花嫁ではなく、回避する策じゃ。救世主を見て、花嫁にするのが良いと判断したのは我じゃ。その先を望んだのは、我の勝手じゃの」

「王さまの策は悪くない。俺とアルバンが本当に夫婦になって子どもをって考えちゃった事も悪くないと思う。けど、出来ないんだから最初に言っておかなきゃな。それに、ここは一夫多妻制なんだって?次の奥さんに期待して」


おっさんは俺の言葉に何か反応した。


「次の……か。我も少し浮かれていたようじゃの」

「父上?」

「救世主をアルバンの妃にすれば解決と思うておったが、そうじゃ、次のという手があるの」

「「あ」」


アルバンも俺も気づいた。


「確かに。今回がダメでも、第2の奥さんという手はあるか」

「私はどこまで振り回されねばならないんだ!」

「でも、とりあえず、俺との結婚で少しは時間かせげるだろ?どのくらい?」

「……救世主が子どもを生まぬのなら、早くて1年かの?」

「1年かよ!その間に、なんか対策できる?」

「……………難しいのう」


3人で考えこむ。

沈黙が続いたタイミングで、執事が伺いをたててくる。


「お食事はお下げして、飲み物をおもちいたしましょうか」

「……そうじゃな。一息入れよう。救世主になんぞお菓子も添えてやれ」

「畏まりました」


執事が下がり、給仕がテーブルを整えていく。

おっさんとアルバンには酒。

俺にはお茶と焼き菓子が用意された。

手でとって、ぱくりと食べる。

もぐもぐ味わってる俺に、アルバンは笑った。


「そういうところが子どもなのだ」

「うるせぇ」


「それじゃ!」


おっさんは笑顔になった


「救世主はまだ幼い!神に遣わされた花嫁と言えど、妻になるにはまだ早い。婚約の期間をもうけよう!」

「あ!それいい!更に時間稼げんじゃん!」

「名案です!父上!」

「救世主はいくつなのじゃ?」

「……アルバンには13くらいに見えるらしいけど」


本当は16だけどね。


「ならば、13としよう。婚約は2年、婚姻後は1年で計3年。これくらいならば、動きも変わろうて」


とりあえず方向は定まり、三人は酒とお茶で再び乾杯した。

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