第6話 王子アルバンと晶

ドガッ!


腹に強い衝撃。

痛さが体を巡ったが、お陰で意識を取り戻した。


しかし、なんだって私は気を失っていたんだったか……。

確か、召喚された乙女を見に行って……。

乙女は眠っていたな。

まだ幼さが残る美しい乙女だった。


「オイ、コラ」


最初から無体をするつもりはなかった。

様子を見るつもりが、あまりにも可愛らしくー


「いつまで、寝てんだ。コラ!」

「アキラさま!」


侍女と、かなり不機嫌でしかし涼やかな少女の声。

同時にズン、と胸に衝撃。


「う…」

「よーやく、起きたかよ。オウジサマ」


目を開けると腕を組み、横たわる私の胸を片足で踏みつけながら、黒い笑顔の乙女が立っていた。


「乙女……?」

「おう、おはよーさん。情況を把握できたかぁ?」


信じられなかった。

まるで天使のように眠っていた乙女が、今王子たる私を踏みつけ、その愛らしい口からはならず者のような言葉を吐いている。


胸の上の乙女の足に力がこもるのがわかる。


「呆けてる場合じゃねーよ?ああ?この変態野郎」

「あ、アキラさまぁ……」


後ろで侍女が顔を青くさせている。

何をしているのだ。

乙女を止めないか。


私の視線の先に気づいたのか、再びズンと胸を踏みつけた。


「メイドさんには、何もさせねーよ?あんたが王子さまだろうが、男してやっちゃいけねぇ事したんだからな。そこはあんたがちゃんとケツふけよ?」


聞くに耐えない。

しかし、相手は所詮少女。

体重をかけて踏みつけているが、私の体を押さえ込むまでにはいたらない。


王子はぐぐっと身を起こそうとする。

晶は足で押さえつけるのを無理と判断するや、素早く王子の胸の上にまたぐようにして座った。

王子はまた床に押さえ込まれた。


「うぐっ!」

「まずは、ちゃんと言うべき事があるだろ?ほら、ごめんなさいって」

「く…」

「ごめんなさいは?」


王子は苦しそうに晶に顔を向けたが、急に顔を赤くしてあわてて横を向き視線をそらした。


「た、確かに、人として最低な事をした!その……すまぬ!」

「こっち見て言え!」

「そ、それは、今できない!とりあえず、退いてくれないか!」

「ああ?ふざけ……」

「アキラさま!足!」


ラウニの声が飛ぶ。

晶は王子の胸の上に座り、両足を王子の首を挟んで左右に置いている。

晶から見えるのは足の間の王子の首。

そして今は晶は女で、ワンピースを着ていてー。


「ーこっのっ!変態野郎!」


2発目の拳が王子の左頬にきまった。


「さ、さすがにそれは理不尽です……」


ラウニが小さい声で訴えた。







晶はベッドに腰かけて、いまだに床に座りこむ王子を見た。

王子は頬を押さえながらうなだれている。

ラウニは部屋の隅でおろおろしながら立っていた。


やっちまった、かもしれない。

元はあっちに非があるんだし、相手が王子だろうと、最初にガツンとしとけば、後々なめられずにすむかなぁと思っただけなんだけどなぁ。

しかたない。


「そろそろ、復活してくんない?」


晶は王子のそばに歩み寄って、しゃがんだ。

もちろん、今度は足とワンピースの裾を意識して。


「さっき、殴ったのは悪かったよ。ごめんな?」

「……乙女……?」

「俺はね。ごめんなさいとありがとうはちゃんと言える人でいたい。だから、さっきの分はちゃんと謝るよ

「……こちらこそ、すまなかった……っ!」


座ったまま頭を下げた晶に、王子は表情をとり戻していく。

王子は身を正し頭を下げた。

沈黙するふたりと、安堵するラウニ。


「……よしっ! 」


晶は、王子の腕を掴んで立ち上がった。


「とりあえず、これで終わりだ。王子、こっちこいよ」

「え、あ、乙女?」

「いいから座れよ。話、しよーぜ」


ベッドの上で座って、王子を見上げた。

まるで若者が「へんなことしないから」と女の子を誘っているかのような光景になっているのに、晶は気づいていない。

この場合は男女逆だが、だからこそ王子は複雑な気持ちになる。


王子がためらってるので、シーツをパンパン叩いて促してやったらようやく座った。


「メイドさんから、ライザール王国?の話は聞いたよ。あんたが第一王子の」

「……アルバンだ」

「アルバン。うん、覚えた。俺は晶だ。よろしくな」


晶はバンバンと王子の肩をたたいた。


「乙…アキラか」

「おう。俺がここにいるのって、あんたの結婚が関係あるんだって?正直、俺は男と結婚なんてありえないんだよ。でも、あんたらも大変そうだからなぁ。だから、話し合おうぜ」

「話し合う?」

「あんたも王子サマなら、なんか考えてる事はあるだろ?王さまとか神さまの言うまんまに結婚とかいいのかよ」

「そんな事はない!」

「だろ?だから、話そうぜ。俺もあんたも何が協力できて何が譲れないのか知っとくだけでも、後々役立つだろ」


晶はまるでいたずらを企むかのように目を輝かせた。

王子もそれを受けて目を輝かせる。


「よかろう。ーラウニ。飲み物を!」


ラウニは、笑顔でお辞儀をし用意する為に部屋を出た。



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