第5話 救世主の役目

あの時。

メイドさんが持ってきた姿見が写したものを信じる事ができなかった。

銀髪黒眼、中学生くらいの美少女が、短い丈のワンピースを着て白い足を向きだしにしてあぐらをかいている。

裾がめくり上がり、その奥が見えそうになっている。


これはヤバイ。

これはダメだろ!


注意しようと腰を浮かせると、肩からさらりと自分の髪が落ちた。

胸まで届く、銀髪が。

そして、姿見の少女も腰をうかせて、髪を胸までおろしている。


「俺……?」


髪に触る。白い腕に触る。白い足に触る。

もちろん、姿見の少女も同じ動きをする。


「え、じゃあ…………」


晶はゴクリと喉をならして、立ち膝体勢になった。

そして、おもむろにワンピースのその奥にー。


「だめですぅぅ~!」


メイドさんが飛び付いて晶の手を押さえた。


「な、なにしようとしてるんですかぁ!事情はわかりませんけど、そんなはしたないことダメですぅ~!」


ちっ!


「何を舌打ちしてるんですかぁっ!」


ちょっとメイドさんと攻防してみたが、さすがに女に乱暴な事はできない。

晶はため息をついて、腰をおろした。

女の子座りになる。

メイドさんは晶の太ももをしっかりとワンピースで隠して、安心したように微笑んだ。


「…で?」

「はひっ!?」


晶の冷たい声に、メイドさんがぴっと姿勢を正す。


「一応、聞くけど。ここどこ。あんた誰、んで、更にアイツなんなの」


最後にひっくり返ってる男を指差す。


「は、はい!ここはライザール王国の王宮です。わ、わたくしはラウニと申します。それで……その」


男に目を向けたラウニは、情況を思いだし再びひざまずいた。


「この方は……第一王子、アルバン様です……」


ラウニはうなだれた。


「…………クソ王子で、イイワケね?」


指をパキパキ鳴らしながら、ベッドから降りた晶はからだ全体から黒い気配を発していた。


「お待ち下さい!お待ち下さい!」

「ああ?」

「じ、事情をお聞きくださいぃ~」


そのまま、王子の元へ行ことする晶の腰にしがみついて必死に止めるラウニ。


「うおっ」


ぐいぐい後ろに押されて、ベッドに押し戻されてしまう。

ボスンとベッドに腰かけてしまった。


このメイドさん、ある意味つえーかも。


「おねがいしますぅ~」

「わーったっ!わーった!」


ぐずぐず泣きながら、ラウニはしゃんと正座に座り直し、ライザール王国の現状を説明しだした。



………………


………………



「…このクソ王子の結婚が危機?」


クソ王子呼ばわりに、ラウニは眉をひそめるも話は続く。


「はい。各国から、結婚の申し込みが殺到しているのです」

「……めでてぇじゃん」

「水晶が出る前でしたら素直に喜ばしい事、もっと後でしたら他国情勢にも変化あり、最善への対策をたてることが出来たでしょう」

「つまり?」

「今は、ほとんどの国が表面上和解の手を取りつつ、こちらの様子を探っているのです。何もかも情報不足ですから。ですが、不可侵の契約がある以上、奪う事はできません。なので、取り込もうとしているのでしょう」


晶の頭に、後ろに卵を隠しながら踏ん張る小鳥を、数匹の蛇が威嚇しながらこっちを見ている図が思い浮かんだ。

互いに牽制しながら、踏ん張る小鳥にエサをちらつかせて引っ張りこもうとしているようなもんか。


「結局、隙あらばくってやろうとしてるって事か」

「王子が適齢期になった途端に一斉に話が参りましたので、逆にあからさま過ぎて困ってしまいました。どの国の姫君を迎えても、何らかの波紋は起こります。ですので、国王さまは神に願いました」


この窮地を救う術を与えて下さいと。


「ーそうして、あなたさまがおいで下さったのです」

「俺?俺が解決策なの?」


ラウニは目をキラキラさせて晶を見た。


「はい!さすが、神さまです!どの国の姫君を選んでも争いが起きるなら、どの国でもない方を選べばよい。更に、神さま自身が選び呼び寄せた方なら、どの国からももの申す事ができないのです!」


あ、急に寒気がしてきた。

逆に心臓がばくばくしてきたぞ!


「もしかして、俺は……」


ラウニは興奮に頬を赤くさせて言葉を紡いだ。





「はい!救世主さまは、神に選ばれた花嫁なのですっ」




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