第4話 花嫁披露
「ライザール王国万歳!」
「国王万歳!」
「王子万歳!」
宴会が盛り上がっている。
なんか知らんが、かなり盛り上がっている。
その主役はー。
「「「花嫁万歳!」」」
ー俺である。
友利晶のこれまでは普通だ。
中学までは地元で一校しかなかったから、生徒は顔見知りばかりだった。
長い付き合いで互いの距離間は身に付いていたから、ぶつかったところで「元気」とか「やんちゃ」ですんでいた。
しかし、県外の高校へ進んだからには、一から自分の位置というものを探る必要がある。
そこは思春期ってやつで。
駆け引きが苦手な俺は、手っ取り早い方法を選んだ。
だから、ちょーっと手が出る経験が多くなっちまったんだな。
お陰で自分の立ち位置は確保。
手が出る奴ランキングの上位になったのは計算違いだ。
でも、普通だ。普通だよな?
それなのに、なんでこんな事になってるんだ。
城の宴会場。
主役をとり囲むようにテーブルが置かれ、貴族や騎士っぽい人々が料理や酒を楽しんでいる。
上座で髭を蓄えたぽっちゃりおっさんが、満面の笑みを浮かべて万歳コールに応えて、参加者達に手を振っている。
ちなみにこのおっさんが国王だ。
コールがおさまると、おっさんは高々と酒の杯を掲げた。
「神は、我が国の願いに応えてくれた!」
「「「うおおおおっ!」」」
「見よ!この救世主の美しさよ!」
「「「うおおおおっ!」」」
「この国の未来は約束されたも同然よ!」
「「「うおおおおっ!」」」
「それでは、この国に!救世主に!花嫁に!今一度乾杯をしようぞ!」
「「「乾杯!」」」
「「「うおおおおおおおおっ!」」」
ーうるせぇよ。
おっさんから一段下がった右側に備えられた席で、この国の王子と並んで座っている晶は心の中で舌打ちした。
「アキラさま。お顔が崩れていますよ」
後ろに立つメイドさんが耳打ちする。
目覚めてから初めて会ったあのメイドさんが、色々あって今は晶の専属メイドとなっている。
名前はランだかラフだか…。
どうでもいいや。
晶は気を取り直して微笑んだ。
乾杯して気持ちを高揚させている宴の出席者に、美少女の微笑みを振り撒いてやる。
馬鹿馬鹿しくてどこかやっぱり他人事みたいな気分になっている晶の心の内は見えない。
この場にいる人々が見るのは、白いドレスと未来の花嫁を表す虹色のベールを身に付け、衣装に最低限施された刺繍や宝石類よりも輝く銀髪と潤んだ黒瞳と白い肌をもつ、まだ大人になりきれていない儚げな美少女の微笑み。
一瞬、全体が静まりかえり、ざわざわどよめきが走る。
「美少女、美少女ッスよ!」
「くわぁっ!良いもん見たぁ!」
「花嫁じゃなかったらなぁ」
「いやいや。無理でしょ」
「うらやましいなぁ」
「美貌の無駄遣いです……」
「やり過ぎだ……」
後ろでメイドさんがため息をつく。
左隣の王子も呆れたような気配がする。
「うるせぇ」
ちらりと、隣の王子に目を見やる。
3日前につけてやった左頬のアザはもうない。
いい声なのに無礼を働いた金髪野郎は、この国の第一王子アルバンだった。
こいつもなぁ。
普通に見れば、いい男なんだよなぁ。
背は180くらいはありそうだし、剣とか弓とか強いらしいし、それなりにガタイはいいし。
金髪碧眼のイケメンだし。
ザ・王子さま、だよなぁ。
「アキラさま。アルバンさま」
メイドさんが、ささやく。
つい王子を観察してしまっていたが、他の人からみたら、見つめあってるように見えるかもしれない。
メイドさんに促されて、晶とアルバンは約束通り親しげに微笑みあった。
「仲睦ましいですねぇ」
「美少女ッスよ!美少女!」
「うらやましすぎる……」
「ううっ!王子にも、ようやく春がっ!」
「ちょっと、殺意がわきますねぇ」
……こいつら。駄々漏れしすぎだろ。
「王子!王子!こっちに来てくださいよぅ!花嫁さんの事!教えて下さいよぅ!」
「あ、馬鹿っ!」
若い騎士が、顔を真っ赤にさせて立ち上がってさけんだ。
どうやら、酔っ払っているらしい。
周りが注意しているが、止まらないようだ。
ライザール王国は小国。
王子自らが騎士団を率いて任務に赴く事もあるようだ。
そうして長い間苦楽を共にすれば、相手が王子とあっても強い仲間意識が生まれてくるんだろう。
王子は苦笑しながらも、そんな騎士たちが可愛いような顔をして席をたった。
「悪いな。行ってくる」
「…おう」
王子は騎士団の輪に加わる。
騎士団の連中はわっと歓声をあげ、王子を取り囲んで乾杯をしはじめた。
王子も一人の青年の顔に戻って、仲間たちの祝福を受けている。
「いいなぁ……」
俺も本来ならあんな感じなんだよなぁ。
喧嘩ばっかしてたけど、気の合うやつらもいて、あんな風に盛り上がってたんだよなぁ。
宴会場をざっとみる。
ライザール王国てのは、いい国なんだと思う。
おっさんも王子も気さくで、身分の低いだろうやつらもわきまえつつ自然に溶け込んでいる。
暖かいんだよなぁ。
なんか、アットホームだ。
まだ、城の中しか見てないけど、外も期待できそうだ。
はっきり言って、俺が求められた役目ってのは納得いかないが、召喚された先がこの国ってのはラッキーだったのかもしれない。
まだ、見慣れない自分の小さな手をにぎにぎしながら、3日前の事を思い返したー。
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