第3話 ライザール王国の事情
わたくしの名前はラウニ。
ライザール王国の王宮に務めさせて頂く侍女でござます。
今、ライザール国には危機が迫っておりました。
この王国は、今や覇権を握るレニオール帝国の建国者の出身地という、古い歴史があるだけのほぼ山岳地帯の国でした。
豊かでない国土は、王を含め全ての国民の日々の生活を困らない程度にするので精一杯。
建国して間もない時のレニオール帝国と各国との小競り合いに関わってる暇はございませんでした。
建国者の出身地。小競り合いどころでない国事情。
ライザール王国の立ち位置と姿勢は、各国に不可侵と暗黙に認めさせていったのでした。
帝国建国から百年ほど経ちましたでしょうか。
小競り合いもほぼなくなり、帝国が覇権を確実に握った頃、ライザール王国で驚くべきモノが発見されたのです。
そもそも、レニオール帝国の建国者は勇者でありました。
勇者が必要とされる事情とすれば、それは人を遥かに越えた力を持つものの存在と恐怖。
そう、魔王による支配の危機でした。
勇者と魔王との闘い。
わたしもおとぎ話程度しか知りませんが、勇者は幾人かの協力者を得て魔王と闘ったと伝えられています。
その最初の協力者はドラゴン。
このライザール王国で出逢い、契約を交わしたと伝説が残っております。
そして魔王との闘いの後、幾人かの協力者は建国に力を貸し勇者のそばに残ったようですが、ドラゴンはこのライザール王国に戻ったようです。
ドラゴンは人の前に現れる事はまれ。それ以後、ドラゴンがどうなったかは知るよしもありません。
しかし、数年前から、このドラゴンが世界を騒がせています。
山岳地帯が多い国となれば、農業に特化するのは難しく、食料を輸入するため代わりに輸出できるものといったら鉱物に期待するしかありません。
ありがたい事に鉄や鋼、金や銀に宝石に加工できる石など、人々の腹を満たす程度には発掘できたのです。
そんな中で、驚天動地の大事件です!
何と、ドラゴンの足の化石が発見されたのです!
先ほども申しましたように、ドラゴンは人の前に現れません。
ですから、その生態はよくわかってはいないのです。
どのように産まれ、どのように死ぬのかももちろんわかっておりません。
死体など発見された事はございませんでした。
ですので、今回の発見がどれ程驚くべき事なのかお分かり頂けましたでしょうか。
まさに、世紀の大発見でございます。
瞬く間に情報が世界中に広がりました。
帝国を筆頭に調査員が多数集まりました。
そこでわかった事と言えば、化石は正確には化石でなく、水晶に足を封じ込めているものだということ。
そして、何らかの意志が込められているということでした。
何らかの意志。
これはやっかいでした。
水晶ごと掘り出す事は可能でした。
しかし、破壊や精密調査、王国外に運び出そうとするとあらゆる災難が降りかかるのです。
災難を振り撒いて、気づけば発見場所に戻っているのです。
まるで、この王国を守護するように。
ここでやっと人々は思い出しました。
ライザール王国は勇者の出身地。
勇者のドラゴンが戻った地であると。
武力で奪おうと考える国もありました。
ですが、今まで各国の小競り合いに関わらなかった歴史も幸を招きました。
どんな理由をたてようとも、ライザール王国に攻めいる正当な理由にはならなかったのです。
何より。
一番の強国であるレニオール帝国が許しませんでした。
建国者の出身地は長い歴史を経て、不可侵という聖地となりました。
その子孫たる皇帝が自ら汚す訳にはいきません。
といって、他国がしようとするのを見逃すはずはありません。
またまた、小競り合いが活発化しはじめました。
完全にライザール王国の意思はかやの外に置かれていますが、ここで王宮に吉報がもたらされました。
水晶があった周りの鉱石には、とても高い魔力が含まれていたのです。
しかも、普通の鉱石であっても一年間近くに置いて置けば、一定量分だけ魔力が含まれるのです。
つまり、ドラゴンの魔鉱石が安定量確保できるのです。
国王さまは動きました。
要するに、この未知なる水晶の恩恵を皆が受けたいのです。
水晶そのものは現在の所有者であるライザール王国ですらもて余すほどなので何もできませんが、その副産物はこの騒動を沈静化させる薬になるであろうと。
そして、帝国を通じ各国と不可侵の永続を条件に、ドラゴンの魔鉱石を毎年同量輸出するという取引を持ちかけたのです。
出来た魔鉱石を分配すれば、各国に渡る量は微々たるものですが、その希少価値は何事にも変えがたく、紆余曲折ありながら契約が交わされました。
騒動はおさまったのです。
一応。
しかし、人の欲はつきぬもの。
外から奪えないなら、中から奪えばいいのです。
ライザール王国の第一王子。
アルバン様が結婚適齢期になりました時から、再び闘いは始まったのです。
それこそが、今、王国に迫る危機なのです。
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