第2話 目覚めたら

いてーよ。

からだがズキズキしやがる。



友利晶ともりあきらの意識が戻った時、自身を振り回したあの風は感じなかった。


っつーかむしろ、何か触れてるものがサラサラして気持ちいい。

花のいい匂いするし。

体の上に乗っかってる何かの重みも気持ちいい。

体全体を包む感触。これ、布団じゃね?

何だか知んないけど、布団で寝てんじゃね?


状況がさっきと変わってるのは確実だけど、まだ体は重いし動かねーし、実は目も開けれてない。

意識だけがあるって状態だ。


仕方ないから、それだけで辺りを探ってみる。


静寂。

ひとの気配がない。

とりあえず、警戒しながらまってみたが変化がない。

うーん。

どうする。


体は動かない。

念のため、自分の身体に意識を向けてみるが、アクセサリーとか拘束具がつけられている感触はない。

とりあえず、それなりに扱われてる感じじゃね?

ポジティブ過ぎるか?

でも、もうこれ以上考えてもなぁ。

いいや。大丈夫だろ。救世主としてよばれたんだし。


考える事がめんどくさくなった晶は、寝る事にした。




人の気配がして、ちょっとだけ意識が浮上する。


「…まだお目覚めでは…………これで国は…………お若い……」


女性の声。

喧嘩の時に感じる気配はない、な。

気になるけど、気持ちよく寝てるところなんで、もうちょっと寝かせてくれよ。





またまた、意識が浮上する。


「……様!いけません……」

「どうせ……………だ。先に……」


今度は男の声もする。

戸惑っているような気配がするが、やっぱり敵意は感じない。

ふわりと鼻に布団とは違ういい匂いが届いて、身体にが沈む様に揺れた。

続いて、額に暖かいものが触れる。


「熱があるわけではないのだな」


お、いい声。

男だけど、いい声ってのは好感がもてるもんだ。


「なら、何故3日も目覚めないのか」


こいつ、医者かな?

男はしばらく額に手を当たっていたけど、頬や首にも確かめるようにあて始めた。


「………様!」


遠くで女の声が嗜めるように男を呼んでいる。


晶は自分の身体に意識をむけた。

最初の頃のように、身体は重く感じない。

むしろスッキリしている。

ただただ、眠っていたいから、起きようとしないだけなのだ。

だが、このままでは救世主ストーリーは始まらない。

そろそろ、話を進めるか。


そう、決めたのに。


「先に、いただくか」


突然色気が増したいい声が、変な言葉を紡いだかと思うと、男の気配が近づいた。

口に暖かい感触がー。


さすがに違う危機を感じて、バチっと目を開けた。


目の前に男の顔。

鼻に当たる男の息。

間違いなくくっついている二人の唇。


なっ……なっ!


「……何してやがる!てめえ!」


思う存分寝て、完全回復した身体は思い通りに動いた。

右手の拳が、覆い被さる男の左頬に思いっきり叩き込まれる。

寝ていると判断していた相手への油断だろう。

男は「ふがっ」と呻いて、吹っ飛んでいった。


晶は反撃に備えて、素早く身を起こして構えた。


そこでようやく、自分の置かれた環境を目で確認する。

寝ていたのは布団ではなく、ベッドらしい。

シンプルな洋室だが、ベッドには天幕もあり目につく家具も華美ではないが落ち着いたアンティークっぽいもの。

正面に口を両手で押さえたいかにもメイドさんがいて。

少々高めのベッドの下には、西洋風の仕立てが良い服を着た金髪の男がひっくり返っていた。


ピクピクしている。


あれ?やり過ぎたか。

でも寝てる相手にちゅーする変態野郎だからなぁ。

これくらい当然だよな。


「も、申し訳ございませぇぇん!救世主さまぁぁ!」

「うお!」


突然、メイドさんがスライディング土下座をかましてきた。


「ご無礼いたしましたぁ!わたくしが代わりにどんな罰でも受けますので、どうぞ主人をお許し下さいませぇぇ!」


なんだ!?

このテンションにこの口調。

パターン的にはこのメイドさんはどじっ娘。

よし、俺の中で決定。

……いやいや。

関係ないこと考えてしまった。

まあなぁ。

敵意がないなら、警戒を解いても良いけどな。


晶は警戒を解いて、ベッドの上であぐらをかいた。

メイドさんは土下座したままぷるぷるしている。


このメイドさん。

男への視線を遮るような位置にスライディングしてくるところは、従者として結構ポイントあげたいよな。


「変なことしねーなら、もうなぐんねーよ。だから、頭上げなよ」

「あ、ありがとうこざいます!」


メイドさんは頭をあげて、ベッドの上であぐらをかき肘をつく晶をみる。


「そいつ、何なんだよ。いきなり襲って来やがって…」

「あ、あああの、救世主さま!」

「ってか、野郎にちゅーかますって変態かよ!」

「救世主さま!救世主さま!それはいけません!いくらなんでもそれは!」

「ああ?」


気づけば、メイドさんが顔を赤くしたり青くしたり、随分慌てた様子でこっちをみている。


「なんだよ?」

「いくらなんでもそんな格好はいけません!」

「格好?」

「いくら救世主さまでも、女の子なんですから‼」


晶はよっぽど変な顔をしていたらしい。


メイドさんは一瞬戸惑った後、「失礼します!」と立ち上がり、奥からがらがらと大きな姿見を運んできた。




そこには、大きなベッドの上であぐらをかき、呆然としている………………銀髪の美少女がいた。

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