第9話

 ダンジョンのボスであるドラゴンを倒した事により私はまた全てが灰色の空間に呼ばれました。ダンジョンマスターのイストーア様が提示した条件はクリアしました。何か裏が無ければこれで試練に合格した事になります。


「エリザ、見事であった」


「イストーア様!」


 虚空から現れたイストーア様からお褒めの言葉を頂きました。この空間では好きな場所に実体化出来るみたいです。恐らくはボス部屋と同じ特殊空間です。


「最後は少し拍子抜けでした」


 苦戦を覚悟したのに、実際はほぼ一方的な嬲り殺しでした。血湧き肉踊る最終決戦を期待したのは私だけではありません。


「裏ボスのヒドラまで倒す貴様がおかしいのだ」


「あら、そうなのですか?」


「そうだ」


 イストーア様が断言します。ヒドラに関してはカイキアスが強行したのです。おかしいのは彼であって私ではありません。ここにいない彼への怒りで震えているのに、イストーア様が私を無視して話を続けます。


「貴様をダンジョンナイトへプロモーションする」


「分かりました」


「その前に一つ昔話をしよう。私とクルムデアの因縁だ」


 イストーア様の顔が少し陰りました。私の知らない何か深い事情があるのでしょう。ここで話すと言う事は私にも関係があるとみて間違いありません。


「クルムデア……」


 私を陥れたマリア・クルムデアの関係者でしょうか? 私は別に良いのです。ですが殿下と弟にした事を私は決して許しません。


「クルムデアはお前に与えた魔導甲冑と同じ時代に作られたものだ」


「人では無いのですか!?」


 何か凄いスケールの大きい話みたいです。


「違う。あれは機械だ。そして神を僭称している」


「何故その様な事に?」


「そう作られたからだ」


 イストーア様が話を続けます。モンスターとの飽くなき戦いで人類は疲弊しました。そして救いを約束するはずの神々は沈黙を続けました。そこで人類は最後の希望として神を作る事にしたのです。それがクルムデアです。


「滅亡か狂気に身を委ねるか。人類の指導者達は後者を選んだ。私はその決定を受けてクルムデアを製造するチームリーダーに就任した。寿命を捨て、人を捨て、他にも思い出せないほどのものを捨てクルムデアは完成した」


 クルムデアが完成するまで100年近く掛かりました。もはや逆転不可能と思えるほど追い詰められた人類にとってクルムデアは人類の希望と勝利への道しるべになりました。クルムデアに導かれて200年に及ぶ戦いのおかげで人類はモンスターに勝利し、この大陸に覇を唱える事が出来ました。クルムデアは間違い無く人類の救世主でした。


「ここまでは良い事尽くめですね」


「戦争は勝ち負けが付くまでは簡単だ。どう終わらせるかが最大の難題だ」


 クルムデアは平和を理解出来ません。常に敵がおり永久に戦争が続く世界しか認識出来ないのです。大陸が平和になれば次の敵を探すしか無いのです。それがクルムデアがこれまで導いて来た人類だとしても。


「クルムデアは人類を4つに分け、永遠の戦争を始めようとした。皮肉な事に人類はせっかく平和を手にしたのに、平和よりクルムデアの声を優先した」


 イストーア様はクルムデアを止めようとしました。しかしクルムデアの製造者と管理者には相互理解に致命的な問題を抱えていました。イストーア様がクルムデアの危険性を訴えても後に教団を組織した管理者達は聞く耳を持ちませんでした。


「管理者は長き日々でクルムデアの本質を見失った。最初の数代はクルムデアを利用すべき道具と正しく認識していた。しかし時代が下るにつれ、既得権益の維持を優先する様になり、数回に及ぶ粛清劇の末に管理の本質を知る者がいなくなった」


 そしてイストーア様を始めとした技術者は人類の敵として人類に狙われる様になりました。敵を求めていたクルムデアと既得権益を守りたかった教団の思惑が一致したいのです。皮肉にもイストーア様の思惑とも一致しました。


 クルムデアがイストーア様を敵と認識する限り、人類は粛清対象になりません。最初は100人以上居た仲間も長い年月を掛けて一人一人欠けていきました。そこでクルムデアと長期戦を演じられる存在を創造しました。それがダンジョンマスターです。かくしてイストーア様は人類の未来を守るためにダンジョンマスターになりました。


「そうやって長い年月を掛けてクルムデアを破壊するために活動して来た」


「戦績の方は?」


 恐る恐る聞いてみます。


「少し前までは勝率6割程度だ」


 クルムデアを引き付けるために一方的に勝つわけにも負けるわけにもいきません。勝ちすぎるとクルムデアは人類を総動員します。そうなれば人類はまた滅びの道を辿ります。負けすぎるとダンジョンが攻略される以前に敵と認定されなくなります。地上にはモンスターが生息していますが、クルムデアは彼らを敵として見ていません。


 勝ちすぎず負けすぎずクルムデアを滅ぼし人類を滅ぼさない準備をしなくてはいけません。私は多くのダンジョンと国が滅びたのを知っています。それでも双方とも無事と言う事はイストーア様のプラン通りに進んでいるのでしょう。


「後一歩でクルムデアに届いたのだが、最後の最後で盤上を引っ繰り返された」


「どう言う事ですか?」


「貴様の王国の建国王は私の協力者だ」


「なんですって!?」


 王国がクルムデアを倒すために作られたとは驚きです。そう言えば大陸の国々の中では教団をもっとも毛嫌いしていました。私は教団の政治介入を嫌っていたと教えられ、陛下に従い教団の弱体化作業に従事していました。まさか教団の本拠地にあるクルムデアを滅ぼすための下準備だったとは驚きです。


「今代で準備を整え、次代でクルムデアに挑む予定だった」


「まさか、私のせいで?」


「貴様では無い。マリア・クルムデアだ」


「しかし……」


 責任をヒシヒシと感じます。無実の罪で陥れられたとはいえ、私は職業柄マリアを疑うべきでした。ですが彼女と教団の関係を仄めかす事は何一つありませんでした。今ではクルムデアの名前で一発で分かりますが、王国でそれを知っている人はほとんどいません。裏仕事を専門にしている父上ですら私に伝えなかったのですから、上層部も知らなかったのでしょう。


 私が見たマリアは不愉快で尻軽な女の子でした。そんな女の子がまさか教団の放った刺客だとは、気付けなかった不明を恥じ入るばかりです。私が無能で気付かなかったとしても、王国には優秀な方が多く居ます。何故彼らは気付かなかったのでしょう?


「人の身ではクルムデアの聖女には敵わない。あれは魔王と戦う人類の心が折れない様に無理矢理周りを洗脳して使役する兵器だ」


 効果としてはマリアの言葉を盲目的に信じ、恐怖を忘れ、限界を超えて死ぬまで戦う様になります。なんとも恐ろしい力ですが、魔王が居た当時はこうしないと人類が生き残る事は出来なかったのです。魔王が倒され、大陸の派遣を人類が握った今では不要の長物です。それなのにクルムデアは聖女を用立てのです。


「まさか殿下は?」


「マリアの操り人形だ」


 イストーア様の話だと操れる人間に限りがあります。長時間一緒に行動して深い関係になればなるほど効果を発揮します。マリアの様に数名の男に限定して侍らせば、その男達を意のままに操れます。マリアがやった様に王国の指導層を操れば効果は絶大です。本来、陛下を始めとした王族はイストーア様の力添えで聖女の力を無効化出来るのですが、殿下は自分からあの女に溺れたのです。救いようの無い馬鹿です。殿下の裏切りでイストーア様が授けた聖女の洗脳対策が相手に露見し、数年の内に対策が無効化されるだろうと心配していました。


 マリアは最終的に王国を乗っ取り、その戦力でイストーア様のダンジョンを攻める予定です。王都はグランドダンジョンと教団本部の中心に位置しています。王都は片方を攻める中継基地と防衛拠点として最高の立地にあります。最終的にはイストーア様の勝利で終わるでしょうが、クルムデアを止める計画が千年以上遅れてしまいます。その間、クルムデアがこのダンジョンを人類の敵と認識し続けて攻めるなら良いのですが、他の敵を設定すればそれが人類滅亡の引き金に成りかねません。


「許せません! マリアの野望は私が止めます」


「それが貴様の仕事だ。クルムデアとの決着は私が付ける」


「はい!」


 勢い良く頷きます。死んだあの日からずっと掛かっていた靄が少し晴れた気分です。あの日の出来事を理解しようとしてもずっと理解出来ない日々とはおさらばです。私の世界を壊した主犯の正体が分かりました。マリアを討ち全てを正すとしましょう。


 昔話が終わったのでプロモーションの準備に移ります。


「裏ボス撃破ボーナスの『上位種族化チケット』を渡す」


「上位種族化?」


 私は目の前に表示されたパネルを覗き込みます。説明を流し読んでもどういう効果があるのかいまいち分かりません。DPが掛からないのなら何か使い道があるでしょう。


「召喚するモンスターの種族を上位のものに出来る。簡単に強くなると思え」


「分かりました」


 やはりいまいち分かりませんが、貰える物は貰って置きます。こういうのはサクラコの領分です。もう相談出来ないのは残念です。


「次はモンスターのライン追加だ」


「もう一ライン増えるのです?」


「そうだ。ゴブリンだけでは大変だと貴様も分かったであろう?」


「はい!」


 カイキアスみたいなのはもうたくさんです。もうちょっと融通が聞いて痒い所に手が届く万能配下がダース単位で必要です。それは高望みしすぎですが、イストーア様の言う通りゴブリンだけでは対応出来る敵に限界があります。当面の敵は人間の冒険者です。いずれ人間の軍隊と戦う事になるでしょう。戦うだけならゴブリンの数で押せるかもしれません。しかし情報収集や裏切りを仕込むのにゴブリンでは難しいです。知的に見えるカイキアスも基本的には力押し一辺倒です。頭を使った高度な戦略は出来ません。


「スケルトン、ウーズ、ゴーレム、コボルト、オーク、悪魔、堕天使、ヴァンパイアから選べ」


「ウルフは無いのですか?」


 ウルフが無くなっていたので確認します。他のラインは変わり映えがしません。評価に困るびっくりラインが追加されるよりは良いのかもしれません。


「ヒドラを倒したボーナスでゴブリン+2とウルフのラインは既に貴様の物だ」


 何と言う大盤振る舞いでしょう! ヒドラを倒した事で細々とした恩恵があるみたいです。そしてまたゴブリンが増えるのですか。+2とあるのです。きっと知的なゴブリンがいるはずです。ウルフは集団行動とゴブリンの足として使えます。高機動一撃離脱型とサクラコが言っていました。


「追加は堕天使でお願いします」


 何となくサクラコを思い浮かべて選択してしまいました。高DPで高スペックと聞いています。すぐに使えなくても次のプロモーションが終わった後からゴブリンでは賄えない質を担って貰いたいものです。人間だった頃の基準で考えると、堕天使に指揮されたゴブリンの大群なんて悪夢以外の何ものでもありません。


「良かろう。最後はドラゴンの撃破ボーナスをこの3つから選べ」


 聖剣、【空間魔法】、ベビードラゴンのネームド限定召喚の3つが表示されているプレートが眼前に浮き上がりました。ドラゴンの撃破ボーナスのためかベビーヒドラのプレートはありません。言ってはなんですが、ヒドラのボーナスに比べるとかなりしょぽいです。


 聖剣はクルムデアと同じ時代に作られた兵器です。180センチの太い刀身が青白く光っています。柄の大きさからみてバスタードソードかしら。女性の身では両手で持っても振り回すのに苦労しそうです。魔導甲冑の装備としても転用出来そうです。私に提示するのですから恐らく数打ち品でしょうが、折れたドラゴンバスターの代わりにはなりそうです。


 【空間魔法】は失われた魔法の一つです。サクラコの言葉が頭に残っていなければこれを選択していました。不自然な形で体を強化した場合、何か落とし穴があるかもしれません。マリアと戦うのなら、万全の状態を維持しないといけません。安易な力に頼って身を滅ぼす事だけは避けましょう。


 ベビードラゴンは前回のベビーキマイラと同じです。3ラインも増えた今、ネームドの限定召喚の有り難味が薄れました。ドラゴンとダンジョンの相性は最悪です。空から奇襲出来ますが、ダンジョン内の空間にドラゴンの行動範囲を限定出来るだけでドラゴンの価値の大半が失われます。縁召喚で外に出せたら大きいのですが、それは叶わない事です。限定召喚枠の最大数が常にカツカツなのもマイナスです。一切の制約が無ければ最強に成り得るのに実に惜しいです。


「聖剣を頂きます」


「ほう面白い。よもやクルムデアを滅ぼせる8本の剣の1つを選ぶとは」


「ええ! そんな凄いものなのですか?」


「大した事は無い」


「え?」


「私を誰だと思っている? その聖剣を打ったのは私だ」


「ああ、なるほど!」


 それなら8本に拘らずもっと打てば良いと思うのは変なのかしら。


「ちなみにその剣は一度クルムデアに奪われているのを取り返したのだ」


 イストーア様がこの剣の歴史を語り出します。とある冒険者がダンジョンマスターを滅ぼした時に、ダンジョンマスターが所有していた聖剣を手に入れました。この時点では切れ味と見た目が良いだけの剣でした。しかし教団がこの剣を接収しようとしたから騒ぎになりました。


 この事件が引き金となり教団と冒険者の間に溝が出来ました。そして冒険者は自己保全のために国を作るに至りました。剣を手放すだけで良かったはずなのに、色々流され易い体質だったのかしら。紆余曲折あり、その冒険者の孫が王国の北西にある帝国の初代皇帝になりました。


「そうなるとこれは帝国の神器では?」


「そうだ。知られたら本気で取り返しに来るだろう」


 それは聞きたくありませんでした。


「それが私の下に帰って来た方法だが、聖女が関わっている」


「なんですって!?」


 マリアの前任聖女とも言える存在がいました。彼女は皇帝を誑かし、モンスターの脅威を打ち破ると言う名目で聖剣を借り受けました。ここからは私も知っている有名な話です。聖女は聖剣を片手に持ち、異常発生したゴブリンの大群からとある辺境の大都市を守って命を落とします。戦いは聖女の勝利で終わるも、聖女は行方不明になります。お話では世界を救って天に帰った、とハッピーエンドになっています。


「ゴブリンの首魁と相打ちになって死んだのだ。その時に聖剣を回収したダンジョンマスターが不要の長物として私に売ったのだ」


 聖剣と呼ばれる武器なのに以外にしょぼい方法でイストーア様の下に帰って来たみたいです。持っているだけで面倒事を呼び込みそうな武器なら仕方が無いのかもしれません。所有が帝国にばれたら怖いので、私も軽々しく振り回せません。


「さて、プロモーションの前に次の試練の説明を行う。レベルがリセットされる前に手持ちのDPで何かしたいのなら、するが良い」


「ありがとうございます」


 次はダンジョン経営です。最初は1階のみの小さなダンジョンで、最高3階のダンジョンにまで発展させる事が出来るそうです。私がダンジョンにいる限り、私の維持費は0DPになり、自動的に階数×レベル×250DPが毎日貯まるそうです。経営するダンジョンでは私が直接戦う事は禁止です。


「これではレベル上げは困難になりますね」


「より多くのDPを貯めれば自ずと道は開かれる」


「そうなのですか?」


「トレードを使え」


「トレード?」


「ダンジョンナイトから使える機能だ。モンスターや道具をDPで召喚以外の方法で購入出来る」


 どうやらダンジョンマスター同士の相互支援システムみたいです。DPが必要なダンジョンマスターからなら安く仕入れられるかもしれません。聖剣もトレード経由でイストーア様の下に流れて来たのですね。


「便利ですね」


「系統が違うモンスターが欲しい場合は利用すると良い」


「値段とかは?」


「割高だが、払えない事は無い」


 モンスターのみならず武器道具から日用雑貨まで揃います。貴族用の屋敷までカタログに載っているのはどうなのでしょう? 少しでも文明的な暮らしが出来るのなら悪くありません。マスタールームは本当に何も無い空間です。机とベッドを持ち込んでインテリアのコーディネートをしたいです。


「頑張って稼ぎます」


 稼ぐたびに浪費しそうです。それが狙いだとしたら恐ろしい陰謀です。


「これで私からは終わりだ」


「では早速始めますか?」


「待て。ダンジョンナイトになるとDPがリセットされる。使い切った方が良かろう。本来はこれだけ貯まらないので気にならないのだが、ヒドラのDP分を捨てるのは忍びないだろう」


「分かりました」


 私はステータスを確認します。レベル16のままです。どうやらドラゴンを倒した程度ではレベルが上がらないほどに強くなったみたいです。新しいラインはプロモーション後に追加されるみたいなので選べませんでした。当然トレード関係も選択出来ません。レベルリセットで呼べなくなると面倒なので500DPを使ってゴブリンの数を増やしておきました。最初はレベル1でも鍛えれば使えるようになりますしレベルが低い内は維持費も安いです。


「イストーア様、維持費は?」


「最初から膨大なDPを与えるから心配無用」


「それを聞いて安心しました」


 膨大と言ってもヒドラの撃破ボーナスDPには及ばないのでしょう。それにDPは稼がないと気付かない内に枯渇するものです。今回のダンジョン攻略でそれを嫌と言うほど認識しました。綱渡りの所をワンミスで部隊崩壊、建て直しで赤字スレスレは二度と経験したくありません。


 縁召喚を選択します。もはやここしかDPを使い込める場所がありません。カイキアスが仲間になって表示される様になった縁です。ドラゴン戦前に召喚すればドラゴン戦が更に簡単になったでしょう。しかし召喚したらカイキアスが私の言う事を本当に聞かなくなる危険性がありました。ヒドラのDP全てを注ぎ込めば召喚出来るこの存在は桁違いに凄いはず。そして今こそ上位種族化チケットを使う時です!


「上位種族化、縁召喚、ゴブリンプリンセス!」


 眩い光と共に、一人の少女が私の前に現れます。160センチほどでしょうか。緑の肌では無く、どちからと言うと人間に違い肌色です。耳が尖っているため、二本の角が無ければエルフと見間違えます。ルビー色の目が印象的です。


「貴方様が創造神様ですか?」


 上目遣いのかわいい声で私のハートを揺さぶります。素晴らしいです。


「私は貴方の召喚者です」


「創造神様ですね」


 話が微妙に噛み合っていません。崇められるのも悪くはありませんが、メッキが剥がれた時の反動が怖いです。ちょっとイストーア様に助けを求めます。


「ゴブリンの上位種族化とは面白い。ゴブリンの執念が生み出した存在に貴様が体を与えたのだ。2割程度分は創造神を名乗っても許されるだろう」


 死んだ魂を呼んだのでは無く、ゴブリンの怨念が混ざり合って出来た魂らしいです。種族もゴブリンからハイゴブリンになっています。


「しかしこれも運命か」


「どうかしましたか?」


「前の聖女と相打ちになったのはハイゴブリンだ」


 ハイゴブリンプリンセスでは無かったそうですが、それでも古のレア種族であるハイゴブリンなのは間違いありません。聖女、聖剣、ハイゴブリンが遥かなる時を越えてまた揃ったのです。イストーア様が運命を感じるのも無理はありません。


「私の事は姉と思いなさい」


 私の事を期待の眼差しで見つめるプリンセスに宣言します。姉妹と言う自然な関係の方が長い目で見れば良い筈です。


「はい、お姉さま!」


 人間だった頃には弟はいましたけど、妹はいなかったのです。サクラコは一人っ子だったので前世でも妹はいませんでした。ペットに続いて妹をゲットです。間違ってもサクラコの様な性格にならない様にしっかりしなくてはいけません。


 カイキアスに取ってはハイゴブリンは主君筋にあたる存在です。絶対の忠誠を誓うと同時に彼の理想の存在にするために手を惜しまないでしょう。そう考えると近づけるのは危険かもしれません。脳筋にならない様に頑張って牽制して、どうしようも無くなれば体を張ってこの子を守りましょう。


「それでお姉さま、もしよろしければ名前を頂きたいのです」


「もちろんです。……キルシェの名前を与えましょう」


 しばし考えてキルシェにしました。一瞬サクラにしようかと思いましたが、サクラコを引き摺るのは良くありません。新しいダンジョン、新しい始まりに相応しい心構えで望まないといけません。


「ありがとうございます、お姉さま!」


 キルシェを裸で皆の下に送るわけには行きません。洋服と基本装備一式を200DPで購入しました。食糧はポチと同じ最高グレードの物を用意しました。どうやらハイゴブリンの食糧は人間の食料に近いみたいです。余ったDPで金塊を買っておきました。DPに再変換したり人間相手に使える万能金属です。


 イストーア様にキルシェを転送して貰い、私はプロモーション用の魔法陣に入りました。次に目覚めた時、私はどうなっているかしら。

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