第4話

 46日目は昨日と同じでした。ゴーレム2体がレベル6に、メイジ3匹がレベル5に上がりました。47日目は私とマイラがレベル6に上がりました。私はオメガ部隊を率いて地下7階に下りました。マスタールームからアルファ部隊を指揮した方が安全ですが軽く一当たりするなら私の部隊でも問題ありません。


 私はフォレジャー4匹を召喚しました。東西に分かれた道がありますので、まずは東に進みます。


「ワンワン! ワンワン!」


 ポチが珍しく大声で吠えています。この先に何かあるのでしょうか? 何もあるように見えません。しかしポチの注意を無駄にする気はありません。フォレジャー1匹を更に前進させました。10メートルほど行ったら、ブシュッと音がしました。フォレジャーの頭が何かに吹き飛ばされました。念のためもう1匹同じように前進させました。今回は問題無く進みました。


「何が起こったのかしら?」


「トラップ」


 ポチが通路の異常を感知して知らせてくれ無かった大変でした。地下7階から急にトラップを用意するなんて、何を考えているのかしら? それにレベル1のフォレジャーに致命傷を与えるトラップが私に通じるとも思えません。何か他にカラクリがあるのかもしれません。トラップの場所を地図に書き込み、先に進みました。


「敵6。マッドゴーレム3、ストーンゴーレム1、新規ゴーレム1」


「前衛の盾がいないのに進んだのは迂闊でしたか! デルタは退却、私が前線を支えます」


 初見のロックゴーレムの性能が分かりません。ストーンゴーレムの動きからしてレベル3はあります。後退しながら魔法でストーンゴーレム2体を倒し、歩行速度で先行した泥ゴーレムを私とポチが倒します。新規ゴーレムには魔法も物理も効きが悪く、階段まで追い込まれました。退路を先行させているフォレジャー3匹が急に苦しみだして生き絶えました。ポチが必至に吠えています。もしや、毒?


 私は意を決して、新規ゴーレムに斬りかかりました。ミスリルソードでは弾かれます。そこで、暇な時間に試していた魔法剣を使いました。炎を纏った剣が新規ゴーレムに突き刺さり、なんとか破壊する事に成功しました。地下6階で油断させて地下7階で仕留める作戦ですか。二つの階の部隊構成は似ていますけど、二つ違いがあります。一つは罠です。前衛戦士なら大丈夫でしょうが、HPが低い魔法使いは一溜まりもありません。二つは魔法に強い新規ゴーレムです。地下6階で魔法使い偏重パーティーになっていれば、壊滅的被害を受けていました。


 少し早いとはいえ、今日はそのまま撤収しました。トラップが復活するのか確認しないとこれ以上の探索は危険です。モンスターと宝箱と同じならそこから突き崩せます。そこまで変えてくるなら、かなり悪質な階層と言う事になります。


「新規ゴーレムはロックゴーレム」


「召喚リストには載りませんね」


「レベル不足と推定」


 マスタールームに引き上げ反省会です。敵部隊は全員レベル3で45DP稼げます。それが4部隊居れば180DPになるので期待大です。しかし罠で数匹失うので手取りはその分減りそうです。


「東の罠はフォレジャー1匹で無効化出来ましたが、西は失敗しました」


「明日1匹で試す」


「それで上手く行くのなら一気に地下8階を攻略しましょう」


「焦りは禁物」


「そうですが、そろそろ赤字対策をしないと余裕が無くなります」


「まだ少し余裕がある」


 サクラコの言い分は正しいです。しかし毎日目減りしているのを見ている身としては耐えられません。黒字とは言いませんがせめて微減にはしたいです。


「リーダーは召喚出来ますか?」


「ゴブリンリーダーとゴブリンバーサーカーが召喚出来る」


 リーダーが召喚出来るようなら別働隊を新しく作る事が出来ます。リーダーのレベルアップだけは私が面倒をみないといけないので手間が掛かります。その分レベルを上げたリーダーは強いので頼りがいがあります。バーサーカーは60DPで召喚出来て維持費は6DP/日です。戦闘になると敵を粉砕するまで止まりませんがその戦闘能力は眷属召喚出来るゴブリンでは頭二つ分は抜けています。鍛える場所があれば1匹は手元に置きたいゴブリンです。


 その日はサクラコと日付が変わるまで討論しましたが結局物別れに終わりました。48日目は再度地下7階に降りました。最初は西の毒罠にフォレジャーを特攻させ、悶え死ぬのを確認しました。少し時間を空けて送った次のフォレジャーは問題無く通過出来ました。この通路を辿っていくと、ロックゴーレムの部隊に出会いました。生き残っていたフォレジャーを東の矢罠に特攻させ退路を確保しました。


 撤退しながらストーンゴーレム以外を倒しました。撤退しすぎるともう1部隊に挟まれるため昨日ほど引けませんでした。ストーンゴーレムが思ったより後衛に近付いたため、私は無理に前に出ました。魔法剣で致命傷を与えましたがカウンターのパンチで吹き飛ばされました。瀕死のストーンゴーレムはポチが倒して勝利しました。


 ダンジョン攻略を開始して初重傷です。人間なら左腕の複雑骨折です。ヒーラーが直してくれたとはいえ、数分は動けませんでした。愛用のミスリルシールドにヒビが入っていました。これも近々買い直しですがDPがきつい今はこのまま使い続けるしかありません。地下7階の攻略は散々です。しかしここで弱音を吐いている暇はありません。無理矢理自分に渇を入れて、先に進みました。


 新たに召喚したフォレジャーを西に派遣すると行き止まりだと分かりました。どうやら東から進むみたいです。昨日倒したゴーレム部隊を十分に距離を取って倒しました。西が大丈夫と分かっていると精神的に楽です。フォレジャーはそのまま北に向かいました。道中ポチが西の壁を仕切りに気にしていましたが北進を優先しました。北上しきると今度は西に進むみたいです。そこでゴーレム部隊と遭遇しました。釣り出して南進しながら倒しました。ストーンゴーレムに有効打さえ見つかれば楽な狩場になりそうです。


 西に少し進むとフォレジャーの頭が吹き飛ばされました。また矢罠でしょう。念のためにもう1匹フォレジャーを召喚し安全を確認しました。更に西に進んだら今度はフォレジャーが苦しみだしました。毒罠です。私は何回フォレジャーを召喚するのでしょう? そんな事を考えながら今日5匹目のフォレジャーを召喚します。


 罠を少し超えた所で4つめのゴーレム部隊に遭遇しました。もはやパターン通りに倒しました。ゴーレム部隊の先に地下8階に下りる階段がありました。流石にこれだけで終わるとは思えません。そこでポチが気にしていた場所に戻りました。スカウトとレンジャーが隠し扉を見つけたのでそれを開けました。フォレジャーを先行させたら案の定槍衾罠に殺されました。槍衾を物理的に除去し6匹目のフォレジャーを先に派遣しました。


「これは階層ボスの扉ですか?」


「違う、ガーディアン」


「ガーディアン?」


 階層ボスより弱く何回も戦えるモンスターらしいです。ただしボス並に強いガーディアンも居るので油断は大敵です。少なくてもレベル6が率いる6人部隊で挑む相手ではありません。ロックゴーレムを除いたアルファとオメガ部隊全員で戦うとしましょう。時間的には戦えそうですがサクラコが猛反対するので今日はマスタールームに帰還しました。


 49日目には大急ぎで地下6階を掃除しアルファとオメガ部隊で地下7階に進みました。足が遅いロックゴーレムは残してきました。私はここで新たにマッドゴーレムを召喚しました。置き場所に困りますがこの階層のゴーレム部隊は近付かない限り動かないみたいです。階段の前で待機しておけばモンスターがリセットされても大丈夫でしょう。


 マッドゴーレムは二つの罠を発動させて倒れました。フォレジャーを使って確かめたので確実です。最初に毒罠を発動させ、次に矢罠で破壊されました。私は西、東、北のゴーレム部隊を順番に潰しました。フォレジャーを2匹召喚して罠を発動させ、私が最後のゴーレム部隊を倒しました。


 既に日付が変わって18時間は経っています。急がないとマスタールームに帰る前にリセットが発動します。最悪マスタールームをこの階層に呼ぶのも手ですが、敵の配置から考えると階層は逆走し辛いです。隠し扉を開けフォレジャーが槍衾で殺されました。通路の天井は低くゴーレム系は通れない様になっています。ここからが本番です。


「準備は良いですか?」


「待て。追加モンスターを呼べ」


「何を呼ぶのです?」


「バーサーカーとゴブリン」


「役に立ちますか?」


「ゴブリンは肉壁。万が一敵になっても対処しやすい」


 サクラコの提案に従いバーサーカー2匹とゴブリン3匹を召喚しました。余っていたレベル7のヒーラーを加え、便宜上イプシロン部隊と名付けます。3部隊18人による強襲部隊です。これで倒せない敵が出て来たら大人しく諦めます。


「全員詠唱開始! これよりガーディアン討伐戦を開始する」


 高らかに宣言し扉を開けます。一瞬怯みそうになるほど強い存在の気に当てられましたが、そのまま進みます。全員が部屋に入ると扉が閉まりました。勝たなければ死ぬ。退路が無い分腹を括り易いです。ダンジョンマスターの能力は使えずサクラコの声も聞こえません。キマイラよりは楽しめそうです。


 魔法陣と共に敵が姿を見せました。面倒な! 本で見た知識なので間違っているかもしれませんが、デーモン1体、レッサーデーモン5体、インプ10体です。デーモンとレッサーデーモンは固い鱗で覆われており、物理防御が高く魔法防御も高いです。特に火魔法はほとんど効きません。デーモンは190センチ、レッサーデーモンは180センチなので人目で違いが分かります。インプはゴブリン相当ですが、デーモン系の盾に使われては厄介です。160センチも無いので注意しないと下から攻撃を食らいます。


「前に! 攻めるのです!」


 私は駆け出しました。本来のセオリーなら前衛が後衛のメイジを守るのですが、メイジは2匹以外は役に立たないでしょう。ならお荷物を守るより攻めに転じた方が勝機があります。


 レベル1とはいえバーサーカーの戦闘能力は凄くインプを一撃で殺しました。ゴブリンはレベル差もあってすぐに死にましたが貴重な時間を稼いでくれました。私とポチはレッサーデーモンを相手取り、マイラとリーダー2匹はインプを片付けるために全力を振るいました。


「インプは倒しました。攻撃をレッサーデーモンに集中しなさい!」


 私がそう宣言した途端にデーモンがフレイムウェーブと言う範囲攻撃を放ちました。火魔法が効かないデーモン系は無傷ですが、私達は重傷です。バーサーカーの2匹は消し炭になりました。幸いヒーラーが回復魔法を準備していたので私とポチは瞬時に戦線復帰出来ました。


 私が力任せにレッサーデーモンを斬ったらデーモンが襲い掛かって来ました。私を倒せば勝ちだと知っているのでしょう。好都合です。デーモンを足止め出来れば地力で勝る私の勝ちです。メイジのウィンドシェイバーとアクアショットで2体を倒し、ポチが残り2体を噛み殺しました。


 盾を持ったリーダーが私とデーモンの戦いに割り込みましたが一撃で吹き飛ばされました。やはりリーダーではデーモンの相手は無理ですか。デーモンが最後の力を振り絞って私を攻撃しますが、私も盾で防御します。しかし傷物の盾の宿命か、デーモンの一撃には耐えられずに木っ端微塵に吹き飛びました。デーモンの攻撃は私の左脇腹を深く抉りましたが、コアが無事なら死なないのがダンジョンマスターです。ポチが後ろからデーモンの首筋に噛み付いてデーモンは事切れました。


 なんとか勝ちました。損害は戦闘前に召喚した5匹だけです。それは結果論に過ぎません。私、ポチ、マイラ、リーダーの2匹は死に掛けました。私とサクラコが回復重視な部隊運用を心がけているから生き延びましたが、もう少し攻撃偏重な部隊なら全滅していました。


「見事」


「生き残りました。勝ったとは言えません」


「勝ち方に拘るのはもっと強くなってから」


 サクラコの声が聞こえる様になりました。相変わらず励ましているのか突き放しているのか分からない発言です。生きてさえ居ればなんとかなる、がサクラコの理念なのでしょう。貴族令嬢として育てられた私には少々理解に苦しむ生き様です。


「フォレジャーを召喚して西の扉を調べる」


「せっかちですね」


「リセットまで余裕が無い」


「それもそうですね」


 私はフォレジャーを召喚し、西の扉に向かわせました。どうやら扉に罠は無い様です。しかし扉を出た先で槍衾罠でやられました。


「ガーディアン戦後に罠ですか!?」


「強敵に勝った油断を利用している。追加でフォレジャーを召喚」


 私が信じられないと言う声を上げるのに対してサクラコは冷静です。サクラコに従いフォレジャーを召喚して派遣します。槍衾の先に進んだエリアで天井が落ちて来て潰されました。


「2段構えですか」


「2つ目は無いか1つ目を回避した場合の罠。これは参考になる」


 絶句する私を他所にサクラコは状況を分析し続けます。促される前にフォレジャーを召喚して送り出します。そして通路の先には宝箱が2つもありました! これまで奇数回には必ずあったのでここにもあると思いましたが、アタリでした。フォレジャーに開けさせると消し炭になって消滅しました。どんなトラップなのか皆目検討が付きません。もう1匹召喚しもう一つの宝箱を開けたら同じ様に消滅しました。最後にもう1匹召喚し、宝箱の中身は両方とも銀塊(中)でした。確認と清算は後回しにしてマスタールームに引き上げました。


「失策多し」


「分かっています」


「対価はリスクに見合わない」


「DPの稼ぎは上々ですわ」


「一つ間違えば全滅していた」


「リスクを負わず前に進めるほどここは簡単な場所ではありません!」


 サクラコとまた口喧嘩です。ひきこもりの彼女はとことんまでリスクと変化を嫌います。私はそんな事は無いので積極的に動きます。お互いやれる事が増えたために地の性格が出て来ているのかしら?


「分かった。まずは今日の成果を確認」


「そうしましょう」


 私とマイラはレベル7に、アルファ部隊の古参はレベル8に、それ以外でガーディアン戦を生き残った者はレベル6になりました。ポチだけはレベルアップしませんでした。ガーディアン戦で300DP稼げました。魔石の回収は出来ませんでした。特殊な戦闘フィールドなのでしょう。銀塊(中)は100DPと交換出来るので2つで200DPになります。罠が5つあるのでフォレジャーに25DP使うとしても475DPの黒字です。これなら少しの間、一息つけそうです。


「ガーディアン戦は明日もやるつもり?」


「当然です」


「個人的には反対」


「DPを稼ぐ方法が他にありません!」


「……分かった。なら条件を二つ」


「一応聞いてあげましょう」


「レベル9になるまで地下8階に挑まない。地下6階を任せられる別働隊を育てる」


「60日目まではサクラコの条件を飲みましょう」


「ありがとう」


「良いのです。一蓮托生なのですから」


 サクラコの言い分も理解出来ます。地下6階から地下8階の3階を走り回るのは無理がありそうです。それなら地下6階を任せられる別働隊を作って定期的に魔石を回収した方が楽です。アルファ部隊は強すぎるので地下6階で燻らせるのは惜しいですが、【風魔法】スキルのDPをどうやって捻出するか考えないといけません。コボルトの隠し通路はレベル5のバーサーカー2匹を送れば大丈夫でしょう。


「眷属召喚で何か増えました?」


「ストーンゴーレムが再度召喚出来る」


「やはりデーモン系は無しですか」


「それよりミスリルシールド」


「そうでしたわ。私の盾が壊れて重傷を負ったのでした」


 早速ミスリルシールドを250DPで購入しました。流石にこれをケチればサクラコが烈火の如く怒り出すのは想像に難くないです。


「部隊再編を申請」


「何か案がありますのかしら?」


「前衛不足」


「それは分かっていますが眷属召喚で良い候補がいません」


「バーサーカー」


「使えるのかしら?」


「用途を絞る。コボルトとデーモンだけ」


「そしてゴーレムは今まで通りメイジに任せる!」


「正解」


「悪くありません。後はロックゴーレムをどうしましょう」


「正攻法」


 私は一瞬狐につままれた気がしました。サクラコの言う効率を重視する余り正攻法で攻める事を忘れていました。


「リーダーに【盾術】ですね」


「正解」


 スキルを持っているリーダーならロックゴーレムの一撃を上手くいなせるはず。素人の私でもある程度耐えられたのです。しかし身長差は心配です。160センチのゴブリンリーダーが300センチ弱のロックゴーレムの一撃を耐えられるかしら? とにかく私が一緒に居る時に試してみましょう。


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地下7階の地図


壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 下 ロ 罠 ロ 罠 ロ ロ ロ 壁

壁 壁 ゴ 壁 壁 壁 ゴ 壁 ロ 壁

壁 宝 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 ロ 壁

壁 罠 罠 ロ ガ ロ 罠 隠 ロ 壁

壁 宝 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 ロ 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 ロ 壁

壁 ロ ロ 罠 ロ 罠 ロ ロ ロ 壁

壁 ゴ 壁 壁 上 壁 壁 壁 ゴ 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


上 地下6階への階段

下 地下8階への階段

ゴ ゴーレム

ガ ガーディアン(デーモン)

隠 隠し扉

宝 宝箱(罠有り)

罠 罠


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 完成した地下7階の地図を確認しながら50日目を始めます。地下6階にあるコボルトの隠し通路はポチと新召喚したバーサーカー2匹で簡単に潰せました。安全を重視しるならバーサーカーとヒーラーを1匹ずつ部隊に編入すべきです。アルファ部隊も危なげなくゴーレム部隊を倒しましたがファイアボールでは未だ2発必要です。スキルを取るか人海戦術を取るか迷います。


 今日の地下7階のロックゴーレム戦は特別です。まずはアルファ部隊のウィンドシェイバーとアクアショットで攻撃しました。結果はファイアボールと大差無しです。風属性が弱点では無い可能性は考えていましたが、確定したので少しショックです。これで【風魔法】スキルを追加で付与する言い訳が霧散しました。次にアルファ部隊のゴブリンリーダーに私のミスリルシールドを貸しての防御実験を行いました。私では相手のパンチを真正面から受けるしか出来ないのに、リーダーは器用にゴーレムの拳を横から殴り付けて回避しました。足が完全に止められたゴーレムは魔法攻撃の餌食で倒されました。


 気を良くした私はそのままシールドをリーダーにプレゼントし、新しくミスリルシールドを購入しました。これからガーディアンと戦うのです。リーダーには最高の装備を与えて生存率を上げないといけません。ガーディアン戦にはバーサーカーを3匹召喚し、18人で挑みました。召喚したレベル1のバーサーカーが良く働いてくれて前回より楽に勝てました。バーサーカー3匹はデーモンの攻撃で死にましたが、他は全員無事です。バーサーカーをレベル5まで上げて数で攻めればガーディアン戦はかなり楽になりそうです。レベル7以下の配下が全員レベル7になったのは少し驚きましたが強くなったのは良い事です。


「もしかして地下6階は割に合わないので無いですか?」


 マスタールームに帰り、収支計算の結果を見ながらサクラコに相談します。


「確かに」


「マスタールームを地下7階の隠し扉の前に動かしましょう」


「レベルが低いモンスターを鍛える場所が無い」


「弱すぎるコボルト部隊はそのため!?」


「恐らく」


「将来的には追加するバーサーカーのレベルを上げてマスタールームを動かします」


「了解」


「私のレベルが上がらない事が尾を引いています」


「それは仕方が無い」


「ですが……」


「レベル8になったら地下8階に下りても良い」


「それでは遅すぎます! 明日から行きましょう」


「危険すぎる」


「すでに8500DPを切っているのです!」


「なら6000DPを切るまで我慢」


「分かりました。それなら最悪残り3階層を2日ずつで攻略すればギリギリ足りそうです」


「DPを稼げるからそれより余裕がある」


「そう願います」


 51日目は収支計算の結果を下に再編成を行いました。胃が痛くなる状況ですがオメガとアルファ部隊以外は当分固定出来そうなのが助かります。この両部隊はここ数日は一緒に行動し、必要なら眷属召喚で新人を入れます。デルタの2匹はこのままで必要に応じてフォレジャーを召喚して特攻させます。キーとプスィー部隊はマスタールームを動かすまで固定です。プスィーのメイジ部隊はゴーレム戦が終わる頃にはガス欠なのでガーディアン戦に呼ぶ事はありません。


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【オメガ】  私の部隊

 A    レベル7

 ポチ   レベル8

 マイラ  レベル7


【アルファ】 エース部隊

 リーダー レベル8+盾

 メイジ  レベル8+水

 ヒーラー レベル8


【ベータ】  予備部隊

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3


【ガンマ】  予備部隊

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3


【デルタ】  斥候部隊

 レンジャーレベル1

 スカウト レベル1


【キー】   地下6階対コボルト/地下7階対ガーディアン部隊

 バーサーカレベル7

 バーサーカレベル7

 バーサーカレベル1

 バーサーカレベル1

 バーサーカレベル1

 ヒーラー レベル8(元アルファ)


【プスィー】 地下6階対ゴーレム部隊

 リーダー レベル7(元オメガ)

 石ゴーレムレベル6(元アルファ)

 石ゴーレムレベル6(元アルファ)

 メイジ  レベル8+風(元アルファ)

 メイジ  レベル7(元アルファ)

 メイジ  レベル7(元アルファ)

 メイジ  レベル7(元オメガ)

 ヒーラー レベル7(元オメガ)


【フリー】

 スクライブレベル1

 ライダー レベル1

 泥ゴーレムレベル1


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 キー部隊がコボルトの隠し通路を潰しアルファとオメガが追随しました。地下7階はアルファとオメガの合同部隊で素早く倒しました。ガーディアンには12人で挑み、バーサーカーの非常識な攻撃力で押し切りました。


 54日目まで同じ事を繰り返し、遂に私とマイラがレベル8になりました。53日目で残りDPが5300を切ったので調度良かったです。サクラコがいつレベルアップするか知っていた疑惑が強まりました。長く感じましたがそれほど時間が掛かったわけではありません。地下6階で活躍していたストーンゴーレムもレベル7に上がりました。その日の内にマスタールームを地下7階の隠し扉の反対側に動かし明日から始める地下8階攻略の算段を練りました。


「召喚に追加は無い」


「ロックゴーレムはいつ出るのかしら」


「不明」


「それ以外は?」


「属性防御リングが200DP」


 受けるダメージを1/4程度軽減してくれるそうです。重複しても効果を発揮しないタイプです。ファイアリングがあればどこぞのデーモン戦が非常に楽になります。ただレベル8になった今ではあの程度の攻撃で重傷を負うことはありません。


「レベル1のパワーレベリングに使える」


「確か強いモンスターと弱いモンスターを組ませてレベルを無理矢理上げる方法でしたか」


「正解」


「一考の余地はありそうです。出来れば範囲攻撃の無い相手が良いのですが、このダンジョンの作りからしてそんな都合の良い敵はいないかもしれません」


 55日目は忙しい日になりそうです。最初にアルファとプスィーのリーダーを入れ替えました。アルファ、オメガ、キーの3部隊でガーディアンに突撃している間にプスィー部隊は北側にあるゴーレム部隊2つを潰す様に命じました。南側のゴーレム2部隊は放置です。罠はストーンゴーレムが無効化するのでフォレジャーは必要有りません。それ以外の部隊も全員地下8階を目指す様に伝えました。ガーディアン戦に参加して足が遅いゴブリンは私、ポチ、マイラが背負い一気に地下8階まで駆けます。役目を終えたプスィー部隊にはマスタールームに帰るように命じます。ストーンゴーレムの足が遅いので、地下8階まで付き合うと万が一間に合わない可能性があります。


「ここが地下8階ですか」

 青空が見えます。そして靴は土を踏んでいます。壁がいつものなので風情が台無しです。どうやら今回は道が一本しかありません。途中で枝分かれするのかもしれません。


「擬似空間型」


 サクラコが解説します。上空100メートルまであるそうです。それにあわせて壁もその高さまであります。こんな高い壁を用意するメリットはあるのでしょうか? とにかく先を進みます。


「想定される敵はどうです?」


「空間を使う飛行タイプと地形を使うタイプ」


 フォレジャーを先行させて歩くと、最初の部屋に到着しました。地下7階に有ったガーディアンの部屋です。扉が大きくゴーレムも通れそうです。私はすかさずストーンゴーレムを2体召喚しました。DPはカツカツです。しかしケチって生き残れるほどこのダンジョンは甘くありません。


 地下8階に来ている全配下、総勢27人で入室しました。私の消費DPが膨大のため、配下が少しレベルアップしても雀の涙です。それなら少しでも攻撃の手を増やした方が得と判断しました。大きな部屋に入るとミノタウルスが10匹出て来ました。通路では3体いれば後衛に届きません。しかし開けた部屋だと囲まれて後衛に攻撃が届きます。ゴブリンバーサーカーと同じく圧倒的攻撃力頼りのパワーファイターです。


 私がこれまで育て上げてきた万能パーティーの弱点を突いた相手です。しかし不利な相手でも実力差と人数差をひっくり返すには至りません。後衛の容赦無い攻撃で4匹が脱落し私の私の魔法剣で3匹を瞬殺しました。後はリーダーとバーサーカーが寄ってたかって斬り殺しました。弱いです。それでも250DPになるのなら悪くはありません。


 ミノタウルスの部屋から伸びている通路を歩いていくと、次のガーディアンの部屋に到着しました。3体のゴーレムが到着するのを待って無駄に時間を浪費しました。今度の部屋は速度重視のウルフ系と飛行系モンスターが20匹待ち構えていました。速度でかく乱するみたいです。しかし、攻撃するのに接近しないといけない限り、私のカウンターの餌食になるだけです。ポチは純粋に狩りを楽しんでいました。これまで出番が無かったレンジャーとアーチャーが飛行系相手に大活躍しました。これで350DPとは思ったより稼げました。


 また真っ直ぐに進むと広場に出ました。どうやらここで休憩を取れるみたいです。このまま進みたい気持ちが強かったのですが、ゴーレム部隊が遅れていました。それにメイジの魔法も枯渇寸前らしく、これ以上無理をしたら被害が出そうです。仕方無くこの日はここで待機する事にしました。スカウトを先に走らせるとまたガーディアンの部屋がありました。今ある地図から考えるとガーディアンの部屋が3つか4つありそうです。


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地下8階の地図


壁 壁 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 壁 壁

壁 上 ロ ロ ガ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 壁 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 ロ 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 ロ ロ ロ

ロ ロ ロ 壁 ロ ロ ロ ロ ガ ロ

ロ ガ ロ ロ ロ ロ 壁 ロ ロ ロ

ロ ロ ロ 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


上 地下7階への階段

ガ ガーディアン


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「これだけ走り回ってやっても赤字です」


 眠っているポチの毛並みを撫でながらサクラコに言います。ポチは睡眠を必要とするため外で寝る際は私が側で守っています。


「200DP弱の赤字なら許容範囲」


「それでも4000DPを切って危険水域なのは事実です」


「なんとかなる」


「もう、無責任な!」


 談笑しながらサクラコと明日の予定を立てます。


「鳥の部屋、牛の部屋、デーモンの部屋と走って、その後に次のガーディアンは無理みたいです」


「無理」


「どうすれば?」


「最初に新しいガーディアンに挑む」


「それですわ! そうなると足の遅いゴーレムは最初の一戦だけになりそうです」


「壁は壁らしくここで待機させる」


「鳥はアーチャー部隊を使って時間を短縮。その後の牛はアルファ、オメガ、キーだけでやりましょう」


「牛とデーモン相手に過剰戦力」


「キーとプスィーだけでデーモンなら潰せますか?」


「可能」


「そうなるとあの宝箱へ至るトラップをどうしましょう。ゴーレムを使えないのがこんなに面倒だとは思いませんでした」


「毎日派遣したら?」


「確かにここからなら毎日ギリギリ届きそうです」


「後は纏まった数を最初に用意する」


「10日分なら50匹で250DP、維持費も50DP/日ですか。この階層で黒字になるなら確かに現実的な案です」


 キー部隊に変わる部隊を作ってから実行に移す事にしました。今はとにかく確実にDPを稼がないといけません。


 56日目は初見のガーディアンの部屋に向かいました。マッドゴーレム以外の全員で移動しました。敵はどうやら猿人みたいです。私の知識にもこんなモンスターはいません。とにかく18匹相手に戦いを挑みました。


「まさか、魔法!? 全員回避!」


 猿人が詠唱を開始し素早く魔法を撃って来ました。ゴブリンメイジの半分の時間で威力は3割増しです。更に四属性を満遍なく撃って来ました。猿人にも前衛がいるみたいですが、私の敵ではありません。バーサーカーとともに撫で斬りです。ポチとマイラが俊足を活かして横から回り込みました。接近された魔法使いほど弱いものはいませんのでこのまま制圧しました。幸いこちらに死者は出ませんでしたがストーンゴーレムが半壊しました。この階層では活躍は難しいみたいです。


 スカウトを先に進ませ私達は鳥の部屋まで大急ぎで来た道を戻りました。そこから予定通りに鳥、牛、デーモンと3連戦をこなし、リセット前に地下8階の休憩所に戻って来られました。流石にポチには無理をさせすぎました。明日はお休みを上げないといけませんが大人しく待っていてくれるでしょうか? 猿人の方は450DPと中々良い稼ぎになりました。キマイラ戦以降、初めての黒字です。それとスカウトの情報では猿人の先にもガーディアンの部屋があるそうです。これでこの階層はガーディアンの部屋が4つあるだけだとほぼ確定しました。


 57日目はほとんど休む時間が無く始まりました。ポチには猿人戦の間は眠っている様に伝え、ストーンゴーレムを伴って出陣しました。ポチ不在でも相手の戦法が分かっていれば対処は簡単です。その後は昨日と同じです。


 58日目にはキー部隊の代理を召喚しました。ゴブリンバーサーカー5匹とゴブリンヒーラー1匹でここまではキー部隊と同じ構成です。それにゴブリンリーダー1匹を召喚し既存のゴブリンレンジャーとゴブリンアーチャー4匹を部隊に編入しました。12匹による鳥と牛を狩るためのフィー部隊の出来上がりです。


 60日目まではフィー部隊を手厚く強化しました。これだけやれば私無しでも大丈夫です。その日にレベル9になった事もあり明日からフィー部隊に任せる事にしました。キー部隊をデーモン戦に回しゴブリンフォレジャー50匹と一緒に送り出しました。


「そろそろ最後のガーディアンの部屋に挑みましょう」


「賛成」


「モンスターと道具に目新しい物はあります?」


「モンスターではゴブリンアルケミストとロックゴーレム。アイテムでは状態異常防御リング」


「ついにリストに出ましたか!」


 ゴブリンアルケミストは特技が自爆らしいです。召喚に80DPも掛けて自爆するだけでは困るのですが、何か特殊な技能を持っているのでしょうか? DPに余裕が出来るまで召喚は見合わせました。ロックゴーレムは80DPで召喚出来て維持に4DP/日必要です。明日には2体召喚して猿人に挑みましょう。状態異常防御リングは300DPなので購入して私が装備しておきました。これまでの経験からたぶん次の階で必要になりそうです。


 61日目の猿人戦はロックゴーレムが大活躍しました。敵だと鬱陶しいのに味方だと頼りになります。これで足が速ければ言う事は無いのです。私の指揮下にあるので敵ゴーレムの2倍の速さで移動出来ますが、それでも遅いです。普通に歩く私より遅く少しでも移動速度を上げると膝に負担が掛かる残念な存在です。


 最後と思われるガーディアンの部屋に到着しました。部屋に入るとポチが吠え出しました。部屋全体に罠があるのかもしれません。しかし、もはや退けません。魔法陣が部屋中に広がったと思ったら色取り取りの花が咲き出しました。そして部屋の中心に大きな木が鎮座していました。なんと牧歌的な光景かしら。ダンジョンでこんな事を考えるなんて、明らかにやばいです。


「攻撃開始!」


 とにかく攻めなくてはいけません。しかしポチとマイラは寝ています。ゴブリンも前後不覚に陥っています。ゴーレムのみが問題無く前進しました。まさかここで状態異常を仕掛ける敵が来るとは予想外です。事前にリングを買っていなければ私はポチと仲良くお昼寝をしていたでしょう。私はポチとマイラを自分の後ろに置き、守る体制を固めました。何があってもこの2匹は守ってみせます。


 私はファイアボールを巨木に一発打ち込み様子を見ます。私の攻撃を感知し木の周りの花が紫色のガスを噴出させます。距離が遠くて私にはあたりません。木も蔓を鞭の様に振り回し、近くのゴーレムを攻撃します。蔓のリーチからして、私に届きそうです。そして極めつけは巨大な蜂です。20匹近くが木から出てまっすぐ私に向かってきます。


 ファイアボールを連発し、蜂がポチとマイラに到達しないように立ち回ります。一匹がゴブリンリーダーを刺しました。リーダーは飛び上がり、狂ったように周りを攻撃しだしました。痛みで我を忘れているのか、凶暴化の効果があるのか分かりませんが、ピンチです。リーダーの攻撃が他の味方に当たらないように私がリーダーと対峙します。同時進行で蜂に対処しないといけないので大変です。


 暴走するリーダーと切り結びながら、蜂を全部始末しました。どうやら刺されたのはこのリーダーだけです。私の実力なら彼に遅れを取る事は無いので、適当にいなしながら、木に向かってファイアボールを放ちます。ゴーレムは花を踏みにじり、木の幹を殴っています。隠し玉が無い限りこれで終わりです。


 木が倒れて終わったと思ったら隠し玉が出てきました。女王蜂です。蜂の巣が床に落ちたため出て来たみたいです。私がファイアボールをぶつけようとしたら、リーダーが自ら魔法に飛び込みました。なるほど、女王蜂に操られているのですか。木と花が無くなったためか、他のみんなも戦線に復帰しました。ヒーラーが火達磨になったリーダーを癒します。メイジの2匹がファイアボールを全力で撃ちます。流石の女王蜂も回避しきれず、被弾します。あっさりと死にました。恐らく指揮特化型なのでしょう。女王蜂が死んで、操られていたリーダーも元に戻りました。


 3番目と4番目の部屋の敵はロックゴーレムにとってはカモです。しかし2番目の部屋なら鳥系に苦戦し、1番目の部屋ならミノタウロスに破壊されるかもしれません。中々考えられた構造です。550DP稼げたのでかなり割りの良い部屋ですし地下8階全体で見れば1600DPの稼ぎです。これで少しはDPを貯金出来そうです。

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