第3話

「ここは何処かしら?」


 転移魔法で召喚されたみたいです。サクラコに呼び掛けても反応がありません。周りは全てが灰色の空間です。となるとあの御方に呼ばれたと見るべきでしょう。


「エリザ、見事であった」


「イストーア様!」


 虚空からグランドダンジョンのダンジョンマスターが現れました。以前は直視するのも辛かったのですが今回は大丈夫です。黒いだけと思っていたローブは良く見ると金の刺繍がしてあります。魔法の効力を上げる作用があると思います。


「あの程度、大した事ありません。40日は掛けすぎでしょうか?」


 精一杯虚勢を張ります。


「期間内に攻略出来れば内容は問わない。1階を10日で走破しないといけないと思い込む者も多いが、そんな事は無い」


「そうでしたか。ならここに呼んだわけを窺っても?」


「進化のためだ」


「進化ですか?」


「今のダンジョンポーンから更に上の存在になる儀式だ。ルック、ナイト、ビショップ、クイーンと続き最後にダンジョンマスターとなる」


「今回はダンジョンルックになると言う事ですね」


「正解だ」


「時間はどれ位掛かるのでしょう? 配下が心配しそうです」


「案ずるな。彼らの認識ではボスルームで休んでいる様にしか見えない。次にモンスターがリセットされる時に貴様は目覚める」


「それは良かったです」


「ダンジョンルックになると2つ新しい力が使える。マスタールームの設置とネームド召喚だ」


 マスタールームはダンジョン内に個室を作るコアの機能です。入り口は外壁の何処にでも設置出来る反面、出入り口は常に一つと言う制約があります。入り口を動かせば、中の物も同時に動かせるので、かなり便利です。初回設置と維持、更に拡張するにDPが必要です。


 ネームド召喚はネームドモンスターを眷属召喚します。召喚費と維持費が数倍になりますが、名前が無いモンスターに比べると圧倒的に強くなります。ダンジョンマスターを守る主力と言う位置づけです。ただし死んだら復活出来ないので扱いには注意が必要です。ルックでは通常召喚したモンスターをネームドモンスターにコンバートは出来ません。


「DPの管理が厳しいなのに、DPが必要な機能ですね」


「ダンジョンの全てはDP在ってこそ。DPが必要の無い機能の方が珍しい」


「確かにその通りかしら」


「他の質問はあるか?」


「ダンジョン攻略を早く終わるメリットはあります?」


「無い」


「ダンジョンで手に入れたDPとモンスターはどうなります?」


「貴様が継続して持つが良い」


「良心的ですね」


「将来有望なダンジョンナイトを失いたくないだけだ」


 地下10階をクリアするとナイトに進化出来るのでしょう。裸一貫で開始するより信頼出来る配下に囲まれていた方が活動しやすいです。死神様の目的は分かりませんが私が攻略に成功して次に進むのを期待しているのは分かります。


「レベル上限はあるのでしょうか?」


「階層+2だ。それ以上は現実的では無い」


 ここは思った通りです。サクラコの推定とこれまでの記録で間違い無いと思っていましたが、ここで確定したのは大きいです。


「階層ボスとまた戦えますか?」


「不可能だ」


 ボスマラソンさせろー、とサクラコが叫んでいる気がしました。あのキマイラは結構良い経験値とDPを落とすのに残念です。


「ダンジョンルックの維持費は?」


「レベル1で100DP/日だ」


「そんな! レベル8だと800DP/日になってしまいます」


「問題無い。レベル1に戻る」


「それは良かったです。弱体化するのですか?」


「能力は微増する」


「分かりました。私の質問は以上です」


「なら始めよう」


 イストーア様の目の前に半透明のプレートが出現しました。恐らくチェックリストです。


「今日の終わりで1508DPか。手勢がこれだけいるならかなり荒稼ぎしたか」


 イストーア様が独り言を言っています。私はやる事が無いので辺りを見回します。やはり全て灰色です。


「地下1階から地下5階を潰し、その際手に入るDPを一括で支払う」


「わっ、わかりました」


 突然声を掛けられたのでびっくりしました。一括で貰えるのはありがたいのですが、経験値とアイテム回収が出来なくなります。それでもDPを貰った方が特なのは何となく理解出来ます。


「22740DPだ」


「そんなにも!」


「ダンジョンルックは色々と入用だ。特にこのダンジョンを攻略するためには必要な物は多い」


「はい」


 サクラコの言っていた先行投資かしら。


「ここで相談だが、マスタールームを今作る気はあるか?」


 マスタールームを作ればそこをセーフエリアに使えます。作らない場合、地下5階のボスルームだけ残して、そこから地下6階に下りる形になります。


「初回設置の5000DPはかなりの出費になります」


 更に維持費の100DP/日があります。60日なら6000DPになり、マスタールームだけで一括払いDPの半分を持っていかれます。


「その分、他の件で優遇すると約束する」


「わかりました」


「次はモンスターのライン追加だ」


「ラインですか?」


 モンスターのラインとはダンジョンマスターが召喚出来るモンスターの種類です。死神様によるとダンジョンポーンはゴブリン、スケルトン、スライムの3種からランダムに1ライン選ばれます。進化する度にラインが一つ増えるのですが、どのラインが候補に上がるかは進化前の行動によるそうです。


「倒すだけでは眷属召喚出来ないのは残念です」


「流石にルックのコアはそれほど万能では無い」


「そうなるとキマイラも無理ですね」


「そうだ。それに階層ボスは倒してもリストに追加されない」


「残念です」


「この10ラインから選べ」


 スケルトン、ウーズ、ゴーレム、コボルト、オーク、悪魔、堕天使、ヴァンパイアの8ラインです。さらにポチの縁でウルフとマスタールームを作った優遇措置その1でゴブリン+の2ラインが追加されました。


「お勧めとかはあります?」


「スケルトンからオークまでは召喚DPが安く、数を揃えると力を発揮する。ゴブリンと役割が被るので注意が必要だ。悪魔と堕天使は召喚DPが高く強い。ただルックで召喚出来る存在がいるとは思えない。ヴァンパイアは中堅だが攻めるには制約が多い。ウルフは野生動物より少し上程度だ。ゴブリン+はゴブリン中心で行くのなら最適だ」


 私はしばし考えます。堕天使とヴァンパイアはひきこもりのサクラコのせいに違いありません。悪魔は悪役令嬢と関係あるわけないでしょうから、これもサクラコのせいにしておきます。……余り深く考えてもどつぼに嵌るだけです。将来の事はダンジョンナイトに進化する時に真剣に考え、今はダンジョンを攻略する一点のみ考えます。


「ゴブリン+でお願いします」


「分かった。最後はキマイラの撃破ボーナスをこの3つから選べ」


 竜鱗の剣、【高速詠唱】、ベビーキマイラのネームド限定召喚の3つが表示されているプレートが眼前に浮き上がりました。竜鱗の剣は竜鱗を使っているとはいえ、余り品質が良くありません。恐らく飛竜あたりでしょう。陛下に王城で見せて頂いた古代竜の竜鱗の剣とは比べられません。


 【高速詠唱】は魔法が早く発動するスキルです。純粋な魔法使いなら欲しいですが、私は剣士です。貴族令嬢の嗜みとして魔法は習いましたがスキルに昇華出来る程の才能はありませんでした。


 ベビーキマイラは階層ボスの子供版みたいです。ネームドモンスターとして1匹限定で召喚出来ます。階層ボスの体たらくを見ると、期待出来るのか出来ないのか。1対1で戦ったら苦戦していたでしょう。基礎スペックは高いはず。ならベビーキマイラの強さはマスターである私次第?


 この3つが出た意味を考えます。剣を取れば私が直接戦う意思表示です。スキルを取ればモンスターと一緒に戦う意思表示です。キマイラを選べばモンスターに戦わせる意思表示です。考えすぎでしょうか? 死神様の何気ない行動に深い意味がある気がして無い裏を読み取ろうとしているのかもしれません。


 私は将来性を買ってベビーキマイラを選択しました。けっして「本来なら50000DPの所を今だけ特別に0DPで召喚出来ます」の一文に心を奪われたわけではありません。熟考の末の苦渋の選択なのです。


「これを選ぶか。呼ぶが良い」


「ベビーキマイラ、ネームド限定召喚!」


 魔法陣が現れ、子犬サイズのキマイラが現れました。戦力になるのでしょうか?


「ミャア!」


「元気そうな子ね」


「名を与えよ」


「……ではマイラにしましょう」


「ミャア、ミャア!」


「安直な」


 イストーア様に突っ込まれました。マイラは喜んでいるみたいですし、良かったのです。イストーア様が手をかざすとマイラが消えました。ポチの待っている場所に送ったそうです。本能的に私の配下だと理解出来るらしく争いにはならないそうです。


「約束した優遇措置を説明する。その1のゴブリン+は説明した通りだ。その2はコアによるスキル付与だ」


「スキルですか?」


「本来はダンジョンナイトから使える機能だが一部下位スキルを解禁しておいた」


「便利そうかしら」


「ゴブリンだけなら必要になろう」


「分かりました」


「その3はネームド枠の前借りだ」


 ネームドモンスターには枠がありダンジョンルックだと1+レベル/10の数になります。マイラで1枠を埋めているのでネームド召喚が出来ない事態になっています。そこでレベル10になった際に増える枠を最初から使える様にして貰えました。


「それは大助かりです」


「その4は魔導甲冑を1体購入可能にした」


 かつて地上にモンスターが溢れていた時代、人がそれらに対抗するために作られたのが魔導甲冑です。平均全長250センチメートルでボディーの部分に座り込む形で搭乗します。両手の所にある魔法陣に魔力を流して動かすのが一般的です。モンスターが居なくなった今、甲冑を作れる人はいません。数百年前に作られたのをメンテするか、2個1して使いまわすのが関の山です。お父様は魔導甲冑に目が無いのですから、聞けば私財を投げ打ってでも購入したでしょう。私は訓練で実家に有った王国屈指の名機に搭乗した事がありますが、使いこなせるかは分かりません。


「お高いのでしょう?」


「当然」


 イストーア様が柄にも無く笑みを浮かべた様に感じました。錯覚でしょうか。


「この魔法陣に足を踏み入れよ」


 私は彼の指示に従い魔法陣に入りました。そして眩しい光に身を包まれ気を失いました。


「クゥーン」


「ポチ、くすぐったいです」


 私はポチに舐められて、目を覚ましました。恐らく数分前に41日目が始まったはずです。辺りを見回すとキマイラと戦った階層ボスの部屋にそっくりです。私が召喚したモンスターが全員部屋の隅で次の指示を待っています。


「ここがマスタールームかしら」


「みたい」


 サクラコが胸から飛び出して来ました。


「大丈夫ですか?」


「なんか色々弄られた感じがする」


「状況は分かりますか?」


「大凡。でも動く前には擦り合わせが必要」


「私も同意見です」


「ステータスを確認して出来る事を調べる。必要な事をやって明日から本格的に攻略を再開」


「今日一日無駄にするのですか?」


「無駄にしても良い気構えで行く。絶対にクリア出来るチュートリアルはもう終わっていると考えるべき」


 サクラコの厳しい指摘は正しいのでしょう。油断しなければ地下5階までは楽勝でした。レベルが上がる度にその階層を楽に攻略出来るモンスターが増えましたし、階層ボスとの戦いが楽になる解毒剤が入った宝箱がありました。マスタールームと言うセーフゾーンと一括払いDPによる大規模な支援。これからが本番だと気を引き締めます。


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名前 :エリザ

種族 :ダンジョンルック

クラス:悪役令嬢

DP :19248


ランク:E

レベル:1

維持費:100DP/日


スキル

 剣術


ダンジョン

 眷属召喚

 道具購入

 スキル付与

 縁召喚@0


ネームド:1/2

 マイラ


決算報告

 収入 :19248DP

 支出 : -703DP

 ―――――――――

 収支 :18545DP


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「ランクが上がっていますわ」


「パチパチ」


「全然心が篭っていませんね」


「カタログスペックが高くてもスキルが貧弱」


「それはこのスキル付与で解決です」


「やはり君は馬鹿だ」


「元伯爵令嬢を馬鹿呼ばわり!」


「少し考えれば分かる」


「えっ?」


「スキルはどうやったら手に入る?」


「先天的なスキル以外ですと長期間の訓練が一般的です。レベルが上がると覚え易いとは聞いています」


「スキル付与はそれを飛ばしてスキルを与える。ノーリスクでそんな事が出来ると思う?」


「……どうなのでしょう?」


「正解。私も答えを知らない」


「ちょっ!」


「でもリスクがあるか無いか検証してから使うべき」


「それはもっともな意見ですね」


「では早速誰かにスキル付与を使って見ましょう」


 スキル付与のリストを見ると一般的な武器と魔法のスキルが高値で売っていました。相場を知らないのでなんとも言えませんが最低額の500DPは決して安くありません。


「付与出来るかポチとマイラで確認する。付与はリーダーとメイジにそれぞれスキルを与える方向で行く」


「そうですね。ポチとマイラは私達の次に大事ですもの」


 さっそく1000DPの【水魔法】スキルをポチとマイラに付与しようと試しました。ポチは付与そのものが出来ず、マイラは付与可能でした。


「やはり生命体にスキルは与えられない」


「ポチは地道に強化あるのみです」


「仮説、スキル付与したネームドは生命体にコンバート出来ない」


「確証が得るまでは私とマイラへの付与は見合わせます」


「それが安全」


 ゴブリンリーダーに500DPで【盾術】、ゴブリンメイジに1000DPで【水魔法】を付与しました。リーダーには私が前に使っていた青銅盾を渡しました。前回は持ち運ぶだけでしたが、今回はしっかり装備出来ました。初級技と言われているシールドバッシュまで難なく使いこなせました。


「スキル付与はとてつもない可能性を秘めているようですね」


「誘惑強し」


「もう1匹のメイジはどうしましょう?」


「【風魔法】」


「ではその様に」


 もう1匹のメイジには1000DPで【風魔法】を付与しました。これで基本と呼ばれる4属性の内、地属性以外は揃いました。サクラコの狙いもそれでしょう。スキル付与が一段落したので眷属召喚と道具購入を確認します。両方ともレベル1の品揃えに戻っています。ナイトに進化した時も同じ様になるのなら、ここを攻略する直前に買いだめしておいた方が良さそうです。


「新規モンスターはゴブリンフォレジャー。新規道具は魔導甲冑」


 フォレジャーは5DPで召喚出来て維持費は1DP/日です。ゴブリンより弱いモンスターがいたとは驚きです。説明を見る限りゴミ漁りをして色々な物を持ち帰る事が出来るみたいです。


「使い道は無さそうです」


「ゴブリンより安い特攻兵器」


「次は魔導甲冑ですか」


 25000DPは高いのか安いのか。恐らくグランドダンジョンを攻略しようとした冒険者の遺品でしょう。昔はダンジョン攻略にも使用されていたそうですが、そうなるとこの甲冑は少なくても500年以上は前の物になるでしょう。


「無駄」


「そうですね。整備も必要ですし甲冑職人がいない状態では使えないでしょう」


 燃費が悪く専門の職人部隊が整備しないといけない代物です。甲冑の基本コンセプトは「女子供でもゴブリンを殺せる」ですから性能そのものはかなり良いはずです。私がモンスターでは無く、ただの貴族令嬢でしたら是が非でも欲しい装備です。


「ゴブリンしかいないのが不満」


「ラインでゴブリン+を選んだのですから仕方ないでしょう」


「ラインと甲冑。もしかして限定商品に弱い?」


「そんな事ありません!」


 ついつい大声を出してしまいました。


「君は私の後世。隠しても無駄。私も限定商品と先着何名様の商品の魅惑には勝てなかった」


「前世と一緒とは限りません」


「ナンバリングとかプレミアとか好き」


「うっ」


 なんと魅惑的な言葉の数々でしょうか。いけません、気を強く持たなくては!


「マイラも同じ様に選んだ?」


「ミャア」


「マイラは可愛いから良いのです」


「選んだのは仕方が無い。それが罠だと何故気付かない?」


「罠ですか?」


「ネームド枠は少ない。君の主力はゴブリン。マイラがゴブリンを指揮出来る?」


「ミー!」


「無理です。でももう1枠あります!」


「何をネームド召喚する?」


「……」


 ゴブリンリーダーをネームド召喚しようにもレベルが足りません。


「それとゴブリンリーダーを考えていたら大馬鹿」


「そ、そんな事はありませんことよ、おほほ」


「次のネームドは地下10階を攻略するまで禁止」


「そんな!」


「地下10階まで進めば高確率でゴブリンリーダーより高ランクのゴブリンがいる。それをネームド召喚し、階層ボスに挑む前に鍛え上げる」


「言っている事は分かりますが、ネームドが1人少ないのは攻略に悪影響では?」


「用済みになったネームドを処分出来る?」


「ミャアミャア」


「……それは無理です」


 マイラを見て処分なんて出来ません。通常召喚したモンスターは人格が無いので苦にはなりませんがネームドは皆生きているのと遜色無い状態です。


「それなら安心」


「えっ?」


「自分の都合でネームドを処分する後世なんて嫌」


「まったく、もう少し自分の後世を信じたらどうです?」


「結果が伴えば検討する」


「だから貴方はぼっちのひきこもりなのです」


「婚約者を寝取られた悪役令嬢が!」


「おほほほ」


「くくくく」


 私とサクラコの笑い声を聞いてポチとマイラが部屋の隅に逃げていきました。一頻り笑った後、これからの予定に移りました。


「スキルが居る」


「自前で覚えるのは大変です」


「教師を使う」


「教師ですか?」


「リーダーとメイジ」


「そんな手が? でも確かに、彼らのスキルを見様見真似で使えばあるいは?」


「それに君は探索中はお留守番」


「何故です。少しでもレベルを上げないといけませんのに?」


「維持費」


「あっ! 私がレベル8になれば維持費が1403DP/日になるのですね」


「正解。状況不鮮明だから不必要なDPの消費は抑える」


「地下6階の稼ぎを確認して、それに合わせてレベルアップするのですか」


「他にダンジョンマスターとしての基本を覚えて貰う」


「基本ですか?」


「マスタールームからならモンスターを遠隔で指揮出来る」


「そんな機能があるなんて初耳です」


「今言った」


 伝えるのが遅いとサクラコに文句を言いながら、配下のリストを前にして部隊の割り振りを考えます。ポチとマイラはスペシャルに分類して、残りのゴブリンはパーティーごとに分けました。サクラコがアルファ、ベータ、ガンマと勝手に名付けました。


【スペシャル】

 ポチ   レベル8

 マイラ  レベル1


【アルファ】

 リーダー レベル7+盾

 メイジ  レベル7+水

 メイジ  レベル7+風

 ヒーラー レベル7

 ヒーラー レベル7


【ベータ】

 リーダー レベル3

 ヒーラー レベル3

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3

 アーチャーレベル3


【ガンマ】

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3

 ソルジャーレベル3


【フリー】

 石ゴーレムレベル4

 石ゴーレムレベル4

 泥ゴーレムレベル1


「アルファにもう1匹追加が最善ですが召喚可能モンスターに最適なのがいません」


 ポチは私専属ですしマイラはレベルが低すぎて出すのが怖いです。ソルジャー1匹をガンマから持って来るのが良いかしら。


「ここはあえて分割?」


「何か案があるのですか?」


「ヒーラー1匹を外してストーンゴーレム2体を追加」


「ソルジャー2匹より強そうです」


「威力偵察の後に撤退なら重要なのは足では無く防御力」


「そうですね。ではその様にします」


 更にゴブリンフォレジャーを6匹召喚しデルタ部隊を作りました。アルファ部隊の前に進んで罠の警戒と敵の釣り出しが仕事です。全滅する前提での運用となります。ゴブリンより弱いので使い道が無いと心配していましたが、弱い分は数で補えば良いのです。


「アルファ部隊とデルタ部隊、地下6階を探索しなさい」


 私の号令を受けて両部隊が地下6階に踏み込みました。私はリーダーの5感を介して状況が分かります。脳内で命令を出せばリーダーに伝わります。東、西、南に進めます。デルタに南に進むように命じます。少し進むと東に進める通路がありましたが、無視して南進させます。しばらくすると、敵を発見しました。実際は音で一発で分かったのですが、確認は大事です。


「デルタはT字の付け根まで全速後退。アルファはメイジが攻撃、他はメイジを守りなさい」


 逃げるデルタを猛追するストーンゴーレム4体がアルファに向かって走ってきます。と言っても人間が歩く速度より遅いです。射程内に入ったストーンゴーレムにゴブリンメイジがファイアボールをぶつけます。


「そんな! 倒しきれなかった!?」


 レベル7メイジの魔法ならレベル1ストーンゴーレムは一撃のはずです。どうやら地下6階ともなるとレベル2以上の敵が出て来るみたいです。ゴーレム2体の損壊具合からみてもう1発で倒せます。敵はレベル2から4と推定します。


「ゴーレムで通路を塞いで、メイジは次弾を用意!」


 ゴーレムが2体並ぶと通路は一杯になります。敵ゴーレムが私のゴーレムを突破しない限りメイジに攻撃は出来ません。ゴーレム同士で壮絶な殴り合いが始まります。私のゴーレムの方が強いです。そうなると敵ゴーレムはレベル3以下でしょうか。メイジがファイアボールを時間差で放ちました。万が一もう1発で落とせない場合の保険です。幸い、1発で1体沈み、敵ゴーレムは残り2体になりました。


「このまま継続」


「メイジは水と風に切り替え」


「メイジは水と風の詠唱に切り替えなさい」


 サクラコが横槍を入れてきたので従いました。余裕がある内に違う属性を試すのは悪くありません。ヒーラーが必至にゴーレムを直していますが、魔法の掛かり具合が悪いです。ここでゴーレムを失うわけにはいきません。


「リーダー、防御重視で牽制しなさい!」


 レベル差と【盾術】を信じてリーダーを前に出します。リーダーは敵ゴーレムの関節部分を狙って死角からシールドバッシュを決めました。流石にこれは効いたのか、敵ゴーレムが片膝を付きます。


「元気な方に風」


「立っている敵をウィンドシェイバーで狙いなさい」


 命令をした数分後にやっと詠唱を終えたメイジがウィンドシェイバーを敵ゴーレムにぶつけます。予想外に一撃で倒せました。もう1体に向けて放ったアクアショットでは大したしたダメージを与えられませんでした。


「属性差」


「有効魔法を詠唱開始! 前衛は死なない様に立ち回りなさい」


 6対1になった事もあり、数分後にはアルファの勝ちで戦いを終えました。倒すことには成功しましたが、これはかなりきついです。後退中に他のゴーレムに当たればピンチになります。それに接近されたらポチでも無事では済まないでしょう。メイジとヒーラーなら一撃で死にます。

 アルファに魔石の回収後はマスタールームへ撤退する様に命じました。これ以上戦うのは無理です。デルタに南の通路を調べさせたところ、行き止まりでした。T字まで帰らせ、東の通路を調べさせたら敵ゴーレム4体の部隊に出会いました。全速力で逃げ帰る様に伝えました。これまでの経験から西の通路にもう1部隊は居るでしょう。この3部隊が合流しない様に上手く立ち回り、確実に倒せる様に準備しましょう。


 魔石をDPに変換したら6DPになりました。敵ストーンゴーレムはレベル2と言う事になります。4体で24DPです。3部隊だと72DPです。この程度のDPだとレベルアップするのに躊躇します。しかし少なくてもメイジを眷属召喚出来るレベル4にはならないと将来が真っ暗です。


「焦る事は無い」


「そうでしょうか?」


「まだ進化して1日も経っていない」


「そう言えばそうです」


「今やるべきは魔法の練習。メイジに残弾がある」


「えっ?」


 かくして私はサクラコの言い付け通りにメイジの魔法を観察する事になりました。ゴブリンの詠唱は聞き取れませんが、なんとなく魔力の動きが分かります。学園時代はちゃんと基礎は修めたのですから、スキル持ちが近くに居れば何が起こっているのか分かるのは当然なのかもしれません。


「試してみます」


 数発間近で見た後にそう宣言しました。学園で習った詠唱を思い出しながらファイアボールをマスタールームの壁に向かって撃ちます。壁はこの程度ではビクともしないので的としては最適だとサクラコが言っていました。


「えい!」


 気合を入れてファイアボールを放ちます。ゴブリンメイジの半分以下の火の玉が壁にぶつかり消滅しました。


「成功」


「あれでですか?」


「【火魔法】スキルが追加された」


 急いで確認するとサクラコの言った通りでした。おかしいです。こんなに簡単にスキルが手に入るなんていくらなんでもおかしすぎます。


「理由は分かります?」


「簡単」


 サクラコ曰く、貴族令嬢時代の知識とダンジョンポーン時代の経験です。その2つがあるのにスキルが少ない。それなら少し鍛えれば目があるスキルが手に入ります。それならここ一月は毎日何発も見ているファイアボールが最適です。


「そうなるともうスキルは手に入らないのですか?」


「今回ほど簡単にはいかない」


「しかし【火魔法】ですか」


「一番応用が効く。ストーンゴーレムには不利だが目先の事に捕らわれては駄目」


「サクラコの言う通りかもしれません」


 サクラコに良い様に丸め込まれた気がしますが、些細な問題です。何せ今の私は魔法使いなのですから! 令嬢仲間に自慢……出来ませんか。昔は魔法を使える様になったらどうするかで花を咲かせたものです。


 42日目はデルタ部隊に西の通路を探索させました。予想通りストーンゴーレム4体でした。こちらは昨日同様にアルファ部隊をぶつけました。違いはストーンゴーレムがレベル5にアップしたのと、ヒーラーの代わりにマイラを入れた事です。ポチとヒーラー2匹はマスタールーム前に待機しています。


「マイラを守れ! 他は予定通りに動け」


 私の号令を受けてアルファ部隊が動き出します。ウィンドシェイバーが敵1体を粉砕します。もはや勝ったも同然です。もう1匹のメイジにも【風魔法】を付与出来れば良かったのですが、メイジは魔法2種類で限界みたいです。マイラのファイアブレスとメイジのファイアボールがストーンゴーレムに致死ダメージを与えます。それを見てリーダーがシールドバッシュで相手を粉砕します。敵は残り2体。特に危険も無く勝ちました。


 デルタ部隊が通路の先まで調べると行き止まりでした。東か南から分岐する東が下へ続く道になります。とにかくここ数日は敵部隊を倒す事に集中しましょう。ヒーラーがゴーレムを治し、デルタ部隊が東のゴーレムを釣り出します。今回も何事も無く勝てました。東も行き止まりでした。


 レベル7のメイジが放てる魔法は8発。2戦で4発ならもう2回戦えます。しかし敵の総数と構成が不明な状況で無理はさせられません。そう言う事で今日は南のゴーレム部隊を倒して終わる事にしました。デルタ部隊に南のゴーレム部隊を釣り出させ、パターン通りに倒しました。デルタ部隊はそのまま東の分岐を進ませ、敵ゴーレム部隊に遭遇すると即時撤退させました。これで敵は最低4部隊居る事になります。


 マイラが昨日レベル5に上がったため、43日目は探索がさらに簡単になりました。サクラコの言った通り階層-1レベルまでは結構簡単に上がるようです。これなら私もすぐにレベルが上がりそうです。


「あら、これだけかしら?」


 南から枝分かれしたゴーレム部隊を倒して南進したら階段を発見しました。この階層はストーンゴーレムの4部隊しか居ない事になります。ルックに進化した後の稼ぎ場と考えれば不思議では無いのでしょうか?


「違和感がある」


「何か思い当たる事がありますか?」


「地図」


 私は地図を広げます。素人作なのでそれほど高度なものではありませんが、記入漏れは無いはずです。


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地下6階の地図


壁 壁 壁 壁 マ 壁 壁 壁 壁 壁

壁 ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 ゴ 壁 壁 ロ 壁 壁 壁 ゴ 壁

壁 壁 壁 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 ロ 壁 ロ ロ 壁 壁

壁 壁 壁 壁 ロ 壁 壁 ロ ロ 壁

壁 壁 壁 壁 ロ ゴ 壁 ロ 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 ロ ロ 壁

壁 壁 壁 壁 下 ロ ゴ ロ 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


マ マスタールーム

下 地下7階への階段

ゴ ゴーレム


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「西が怪しい」


「西ですか?」


「過去を参考にするなら、西に通路がある」


「でも通路も扉もありません」


「だから怪しい。隠し扉か部屋がある可能性が高い」


「どうやって調べます?」


「ポチ」


「ワオーン!」


 ポチが元気に雄叫びを上げます。ここ数日はお留守番なのでつまらないのでしょう。散歩がてら隠されている何かを探してみましょう。安全第一なのでアルファ部隊が残りのゴーレム部隊を倒すまで待ちます。魔力が切れたメイジはマスタールームに帰し私とポチがアルファ部隊に一時的に入ります。


 ポチが壁の匂いを嗅いだり爪で壁を削ったりしながら西の通路をゆっくりと進みます。私に取っても久々の外出なので楽しいです。ストーンゴーレムは五月蝿いので少し遠くで待機させています。デルタ部隊は南の通路に向かわせました。期待は出来ませんが時間も無駄にしたくありません。


 ゴーレムの待機場所と思える場所に付くと、ポチが吠え出しました。どうやらここに何かあるみたいです。良く見ると南の壁の一角の色が違います。行き止まりだと分かれば一々ここを調査したりしません。見落としたのも当然です。少し離れた所にある壁内の石を押すと扉が開きました。


「小さい」


「ゴブリンが四つん這いなら通れるかしら」


 サクラコと扉が小さい事に愚痴を言います。これではどんなに頑張ってもストーンゴーレムを通せません。持っていませんが、魔導甲冑も無理です。私だけならぎりぎり通れそうです。ポチは進みたそうでしたが今日は帰る事にしました。突撃ならデルタ部隊の出番です。


 44日目はリーダーに代わり私がアルファ部隊を指揮しました。隠し通路を探索するのならレベルが低いままではまずいためです。実力的に梃子摺る事は無いでしょうが、部隊の構成員を揃えないといけません。敵部隊の釣り出しはポチに任せ、私は敵を倒す事に集中しました。私の魔法まで加わり過剰火力でストーンゴーレムは簡単に潰せました。デルタ部隊は隠し通路に突撃し、全滅しました。


「何故?」


「敵の足が速かった」


「敵の正体は分かりましたか?」


「コボルト系までは確定」


「閉所ではゴブリンより手強いと聞いています」


「正解。天井が低くて狭い通路はコボルトにとって絶好の狩り場」


「どうしましょう」


「ポチをけし掛けたらそれで終わる」


「罠とかあるかもしれません」


「生贄を用意すれば良い」


「そうですね。私とポチを中心に部隊を作りましょう。デルタ部隊も再度召喚します」


「ゴブリンスカウト、ゴブリンスクライブ、ゴブリンレンジャー、ゴブリンライダーが新たに召喚可能」


 私がレベル5になったために色々増えました。15DPのスカウトは足が速い斥候です。コボルト相手に逃げ勝てるかもしれません。25DPのスクライブは異色のゴブリンです。なんと人間の文字の読み書きが出来るのです。秘書として使えるかもしれません。レンジャーはフォレジャーとスカウトを合わせたゴブリンです。スカウトよりは足が遅いみたいです。ライダーは動物に乗って戦う騎兵です。ウルフ系を召喚出来れば真かを発揮しそうです。


「1匹ずつ召喚しましょう」


「同意する」


 45日目の朝を待って召喚しました。更にフォレジャー4匹とメイジ3匹を召喚しました。レンジャー、スカウト、フォレジャーの6匹でデルタ部隊です。メイジ2匹はマイラを抜いた後のアルファ部隊の予備要員で、最後の1匹は私の部隊に入れます。私、ポチ、マイラ、レベル3のリーダーとヒーラー、レベル1のメイジでオメガ部隊を新たに組織します。


 その日のゴーレム部隊狩りは8時間で終わりました。敵の攻撃パターンが分かれば足が遅い分カモです。配属したメイジも一気にレベル3になりました。DPに余裕が出来れば属性魔法を覚えさせても良いかもしれません。ゴーレムの稼ぎが96DPだと元を取るのに11日も掛かるので少々躊躇します。


 私はオメガ部隊を率いて隠し通路に入ります。フォレジャー1匹を先行させた所、敵のコボルトに喉を噛み切られました。馬鹿な敵は私に襲い掛かりました。1分後にはコボルト6匹分の魔石が転がっていました。私の部隊のリーダーとヒーラーがレベル5にメイジがレベル3になりました。


「弱いですわ」


「特化型はカウンターユニットとより先鋭化した特化型に弱い」


「色々考えないといけませんね」


 このダンジョンは適正を調べると同時に教材でもあるのです。良い所と悪い所をしっかり見極め、いずれ作るダンジョンの糧にしないといけません。そのまま細くてくねった道を進みコボルトの部隊を3つ潰しました。私の出番はありませんでした。しかしポチを外してここを掃除する場合の課題は残ったままです。


「階段ですね」


「裏道」


 突き当りまで進むとこちらからしか開かない隠し扉がありました。扉を出た先が地下7階への階段でした。強いゴーレムを潰さずともコボルトを殺せば地下7階に降りる事が出来る作りでした。


「面白い作りです」


「今回はダンジョンが一方的に不利な作り。真似するなら工夫がいる」


「分かっています」


 こうして地下6階のマップは完成しました。敵は8部隊で144DPでした。ゴーレム4部隊16体で96DP、コボルト4部隊24匹で48DPでした。コボルトはゴーレム同様レベル2でしたが明らかに弱かったです。サクラコは顔見世だろうと推測していました。次の地下7階からが本番なのかもしれません。


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地下6階の地図


壁 壁 壁 壁 マ 壁 壁 壁 壁 壁

壁 ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 ゴ 壁 壁 ロ 壁 壁 壁 ゴ 壁

壁 隠 ロ 壁 ロ ロ ロ 壁 壁 壁

壁 壁 ト 壁 ロ 壁 ロ ロ 壁 壁

壁 壁 ロ 壁 ロ 壁 壁 ロ ロ 壁

壁 ト ト 壁 ロ ゴ 壁 ロ 壁 壁

壁 ロ 壁 壁 壁 壁 壁 ロ ロ 壁

壁 ト ロ ロ 下 ロ ゴ ロ 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


マ マスタールーム

下 地下7階への階段

ゴ ゴーレム

ト コボルト

隠 隠し扉


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