第2話

 地下1階の残ったゴブリンを潰し、地下2階に降りました。ダンジョンの見た目に差異はありません。モンスターが劇的に強くなっていない事を祈ります。しばらく歩くとポチが敵の接近を知らせてくれました。


「数5。ゴブリン3、新種2」


「前衛と後衛かしら」


 1匹はゴブリンより一回り大きく筋肉が発達しています。1匹はゴブリンと同じ大きさで弓矢を持っています。私の知識が正しければゴブリンソルジャーとゴブリンアーチャーになります。矢がポチに当たるとは思えませんが、念のためにアーチャーは私が挑発して注意を私に向けました。挑発が上手くいったのか、アーチャーは私を狙いました。


「甘いです!」


 アーチャーが射った矢は剣で難なく落としました。その間にポチが駆け出し一気にソルジャーの喉笛に噛み付きました。アーチャーが2の矢を番える間も無く全滅させました。6DPの稼ぎになりました。その日はもう1部隊を倒し、安全のために地下1階に帰りました。


「ソルジャーとアーチャーが召喚リストに載った」


 サクラコの発言を受けてステータスを確認します。ソルジャーは20DPで維持費は2DP/日。アーチャーは15DPで維持費は1DP/日。倒して手に入るDPと維持費に何か関係があるのでしょうか? 当面は維持費が勿体無いので召喚は見送りました。道具購入はレベル3になって解毒剤が増えた以外は新しい物はありません。


 私の30DP/日とポチの食費30DP/日から考えると地下2階だけの稼ぎでは足りません。眠っているポチの毛並みを堪能しながら思案に暮れます。


「地下1階と地下2階を1日で掃除」


「それです!」


 サクラコの提案で一時的に問題が解決しました。ポチが寝ている間に私が単独で地下1階を掃除すれば良いだけです。今の私なら4時間もあれば地下1階の35匹を倒せます。しかし私とポチのレベルが上がればまた同じ問題が出て来ます。もっと稼がなくてはいけません。


 それから8日目まで地下2階の地図を作りながら、ポチが寝ている間に地下1階を掃除しました。地下2階は地下1階と同じ様に簡単な作りでした。一箇所枝分かれしている場所があり、CよりGに近い形です。同じ編成の部隊が7つで合計42DPです。おかげで1日17DPの黒字です。このままDPを増やそう思ったのですが、9日目で2人ともレベルアップして7DPの赤字になりました。残り523DP。余裕はありますが、1ミス出来る程の余裕はありません。地下2階が楽勝だったので地下3階もなんとかなると信じて突っ込むしかありません。


■■■■■■■■■■■■


地下2階の地図


壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 ブ ロ ロ ロ ブ ロ ロ ロ 壁

壁 ロ 壁 壁 壁 壁 ロ 壁 ロ 壁

壁 ロ 壁 ロ ブ 壁 壁 壁 ロ 壁

壁 ブ 壁 ロ 壁 壁 壁 壁 下 壁

壁 ロ 壁 ロ 壁 ブ 壁 上 壁 壁

壁 ロ 壁 ロ ロ ロ ロ ロ 壁 壁

壁 ロ 壁 壁 壁 壁 壁 ロ ロ 壁

壁 ブ ロ ロ ブ ロ ロ ロ 壁 壁

■■■■■■■■■■


上 地下1階への階段

下 地下3階への階段

ブ ゴブリン


■■■■■■■■■■■■



 10日目に地下3階に突撃しました。やはり作りは変わり映えしません。階段を余り多く上り下りしたら何階にいるのか分からなくなるかもしれません。今回は割りと早く敵の部隊に接触出来ました。


「数5。ソルジャー1、アーチャー1、ゴブリン2、新種2」


 サクラコの説明を聞いて相手を睨みます。2匹が詠唱を開始しています。装備からして魔法使いです。


「ポチ!」


 私の掛け声を受けてポチが敵部隊に突っ込みます。詠唱が完了する前に止めを刺さなければいけません。行く手を阻むゴブリンソルジャーを一撃で裂き、初手は成功です。しかしそれと同時にファイアボールがポチに当たりました。


「ポチ、大丈夫!?」


「ワン」


 どうやら戦闘に影響は余り無いみたいです。ポチは何事も無かったかの様にゴブリン2匹を引き裂きます。始めて怪我らしい怪我なので私は慌てます。とにかく多少の無理をしてでも戦闘を終わらせるべく私は勇敢に切り込みます。矢を切り払い、大振りで敵を仕留めます。本来なら大きな隙が出来るので悪手です。ポチが残りの魔法使いを倒して戦闘そのものは終了しました。


「ゴブリンメイジとゴブリンヒーラー召喚出来る」


「ポチ、回復よ!」


 サクラコの発言は無視して、50DPの回復薬を購入してポチに振り掛けました。幸い怪我はすぐに治りました。良かったです。しかし、これでは採算が取れません。ポチも心配そうに私の足に擦り寄ります。12DP稼ぐのに50DP使うのは駄目です。しかし地下1階と2階だけではジリ貧です。なんとか地下3階の攻略を進めないといけません。


「何か案はありませんか?」


「2つ」


 サクラコも内心ポチが怪我したので動揺したのか、いつもより積極的です。一つは10DPのゴブリンを特攻させる案。メイジは精々1発しか撃てないのなら、その1発がゴブリンに行く様に誘導すれば良いのです。結構難しそうです。外れたらDPの消費が激しすぎます。


 一つは回復役を用意する案。配下召喚で呼び出せる回復魔法持ちがいます。ゴブリンヒーラーは40DPで維持費は4DPです。安くありません。しかし、ポーション1つのDPで配下に出来るのなら良さそうです。早速ゴブリンヒーラーを召喚しました。先程潰したゴブリンヒーラーにそっくりです。


■■■■■■■■■■


種族 :ゴブリン

クラス:ヒーラー

ランク:E

レベル:1

維持費:4DP/日


スキル

 回復魔法@2


■■■■■■■■■■


「この子は維持費がいるのね」


「通常召喚なら当然」


「他にもあるのかしら」


「通常、ネームド、真名の3種類」


 通常召喚は維持費をDPで支払い、食事と睡眠が不要な擬似生命です。召喚者の命令を理解出来るだけの知恵を与えられていますが、自分から考えたり新しい物を生み出す事は出来ません。


 ネームド召喚も維持費をDPで支払い、食事と睡眠が不要な擬似生命です。ネームドは自分で考え行動します。通常召喚したモンスターをネームドにする事が出来るそうですが、今のレベルでは不可能です。


「君もネームドだよ」


「そうなると魔石は?」


「私が魔石」


「体外に出た事がありましたが、大丈夫なのですか?」


「ダンジョン内ならある程度は大丈夫」


「そういうものですか」


「そういうもの」


 真名召喚は魔石を持たない本物の生命体を作り出します。食事と睡眠を必要とします。召喚者の命令に従う義務はありません。現在では縁召喚以外では作り出せません。ネームドを真名にする事が出来るかどうかは不明です。


「ポチを1000DPで召喚したのも?」


「100で通常、500でネームド、1000で真名召喚になっていた」


「先に説明してくれても良かったのですよ」


「あの時は召喚についての情報が不足していた」


「レベルが上がる度に解禁されるのかしら」


「概ね」


 ある程度分かったので、そこで一端話し合いを打ち切りました。私はヒーラーに私の後ろで待機を命じました。ヒーラーは2回回復魔法を放つだけなので直接戦闘は期待するだけ無駄です。


 もう2回、同じ構成の敵部隊と戦いました。やはりポチが一発食らってしまいます。幸い、こっちのヒーラーのおかげでダメージはすぐに直ります。しかし、私がヒーラーを守らないといけないため、攻撃の手数が減ります。私が突撃したらヒーラーが危険になるので、もどかしいです。ヒーラーの護衛を召喚する事を検討しないといけません。


 ヒーラーの回復魔法が枯渇したので、地下2階に戻りました。地下2階はポチが無双して、地下1階はポチが休んでいる間に私が無双しました。ヒーラーはポチの護衛に残しました。連れて行ってレベルアップさせても良かったのですが、DPの残量の関係でその日は諦めました。今日と同じだけ稼いでポーションとヒーラー召喚をしなければ黒字になります。ピンチですが、まだリカバー出来る範囲です。


 11日目は気を取り直してガンガン攻めました。地下1階と地下2階を軽く捻り、ヒーラーがレベル2になりました。どうやら帯同すると経験値を得るみたいです。経験値が分割なのかどうか、後で調べようと思います。地下3階は昨日と同じです。ポチが1発食らってヒーラーが直す。レベル2なので3回直せます。以前の傾向からして7部隊はいるので、ヒーラーのレベルを上げないと回復が間に合いません。ヒーラーのMPが枯渇したので地下2階に帰ろうと思った矢先、部屋に鎮座する宝箱を発見しました。


「早速開けましょう」


「待ちなさい! 罠があったらどうするの?」


 すっかり失念していました。初宝箱なんですから、少し浮かれただけです。部屋を出て、サクラコが提唱したゴブリン特攻を試しました。


「ウギャアアア!」


 ゴブリンの悲鳴が聞こえます。どうやら宝箱には毒針トラップが仕掛けてあったみたいです。ゴブリンは少しのた打ち回った後に消滅しました。毒針は危険。覚えました。召喚したゴブリンの魔石を吸収して1DP稼ぎました。塵も積もれば山です。


 開いた宝箱には回復薬が入っていました。還元すると25DPになります。必要になるかもしれないので、これはヒーラーに預けました。しかしこれ以上アイテムが増えるなら、入れ物を用意しないといけません。調べた結果、ショルダーバッグは50DPです。ついでに毒消しは100DPと言う暴利です。最終的に今日は26DPの黒字です。私かポチがレベルアップしなければなんとかなりそうです。その日は安全のために地下1階に戻り、ゴブリンがリセットされるまで休憩しました。


「やはりヒーラーを増やすべきでしょう」


「同意」


 ヒーラー2匹がレベル2になれば回復魔法を使える回数は6回になります。レベル3になれば8回になるはずです。これなら地下3階を攻略出来ます。その分維持費が増えるのですが、ここは腹を括るしかありません。


 12日目にヒーラーをもう1匹召喚しました。私は彼だけを伴い地下1階と地下2階を掃除し、彼をレベル2にしました。4人で地下3階を探索していると最初のヒーラーがレベル3になりました。そのまま調子に乗り地下3階の敵を殲滅しました。魚の骨の様な階層です。地図には記載出来なかった小さな部屋があり、見た目より走破するのが面倒な階層です。ゴブリンを特攻させて宝箱を開けてみると、罠が無くくず鉄が1個手に入りました。コアに近づけると吸収され5DPになりました。


■■■■■■■■■■■■


地下3階の地図


壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 宝 ロ 壁 ブ ロ 壁 壁

壁 ブ ロ 壁 ロ 壁 ロ 壁 壁 壁

壁 ロ 壁 壁 ロ 壁 ロ 壁 壁 壁

壁 ブ ロ ロ ブ ロ ロ ロ 上 壁

壁 ロ 壁 壁 ロ 壁 ロ 壁 壁 壁

壁 ロ 壁 壁 ロ 壁 ロ 壁 壁 壁

壁 ブ 壁 ロ ブ 壁 ブ ロ 壁 壁

壁 ロ 下 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


上 地下2階への階段

下 地下4階への階段

ブ ゴブリン

宝 宝箱


■■■■■■■■■■■■


 13日目からは同じ事の繰り返しです。もう片方のヒーラーがレベル3になり、宝箱は罠付きの回復薬でした。14日目は罠無しのクズ鉄でした。今の所、罠は1日おきみたいです。ランダム運が良かっただけかもしれません。


 14日目の終わりに私はこれからの予定を考えました。地下3階をマラソンすれば161DPになります。私達4人がレベル5になったら維持費は140DPです。宝箱にゴブリン特攻をするなら2日に1回10DP追加です。地下4階に降りるなら、地下1階に戻る時間がありません。塵も積もれば山です。宝箱回収と地下1階のDPを諦めたくありません。


「欲張り。でも良い傾向」


「そうなのかしら?」


「1DPでも多く欲しがるのはダンジョンマスターとして合格」


「サクラコが合格判定出しても意味が無いのではないですか」


「気持ちの問題?」


「何故に疑問系?」


「気持ちの問題」


「なら何か案はあります?」


「分ける」


「そうですわ! 地下1階から地下3階までを走破出来る別働隊を用意すれば良いではないですか!」


「別働隊の足では3階を走り切るのは無理」


「別働隊二つでは効率が落ちますし、最悪赤字ですわ」


「焦る事は無い」


「そうですね。とにかくレベル5まではこのまま行きます」


 16日目にレベル5になりました。やはりレベルアップに掛かる時間が増えています。レベル5のステータスを確認すると眷属召喚に泥ゴーレムが増えていました。倒していないモンスターで始めての追加です。20DPで召喚出来て維持費は1DP/日です。宝箱の罠は毒です。それなら毒が効かない泥ゴーレムは適材適所かもしれません。まるで計ったかの様に追加されたモンスターですが、有効活用しましょう。道具購入には鉄剣が200DPと強化革鎧が150DPで追加されていました。


 18日目に泥ゴーレムを召喚しました。ゴーレムは足が遅すぎて探索には向きません。しかし、毒無効のはずですから、宝箱回収要員としては優秀なはずです。宝箱と隣の部屋を巡回させます。幸い、ここはゴブリンの巡回ルートから外れているので、撃破される可能性は低いです。ついでにショルダーバッグを購入し、泥ゴーレムに渡しました。


 地下3階を掃除しそのまま4人で地下4階に進みました。狙いは新しいゴブリンです。倒せば眷族召喚に追加されるはず。もしかしたらこの事態を打破するのに最適なゴブリンがいるかもしれません。


「敵6。ソルジャー3、アーチャー2、新種1」


 サクラコの情報を下に作戦を考えます。新種は見るからにゴブリンにしては知的です。明らかに彼がリーダーとして部隊を仕切っています。ゴブリンに統率固体がいるのは知っていますが、どうやら彼がそれに当たる存在みたいです。


「ヒーラーは下がりなさい。行くわよポチ!」


 ヒーラー2匹を矢の射程外に逃がし、2人で敵に挑みます。ソルジャーとアーチャーだけなら1人で倒せる。統率固体が増えた程度で優劣がひっくり返ることは無いはずです。少し時間が掛かりましたが、無事撃破出来ました。メイジのいないゴブリン部隊など恐れるに足りません。14DPの稼ぎです。もう1部隊撃破して地下3階に戻りました。この程度の部隊なら2人で撃破出来ると分かったのは収穫です。どちらかと言うと配下のヒーラーをどうやって守るかが課題です。


「新種は召喚出来ますか?」


「不可能」


 私は地下2階に向かって全速力で走っている最中にサクラコに確認します。彼女の答えは私の想像とは異なっていました。


「撃破したのにどうしてかしら」


「レベル不足」


 サクラコの説明によると新種のゴブリンリーダーを眷属召喚するには私のレベルが足りないそうです。幾つあれば良いのかは不明との事ですが、レベル6か7の可能性が高いらしいです。レベル6ならもうしばらくしたら届きそうです。危急の問題は地下1階の掃除です。統率固体を使えれば簡単なのに! ソルジャー6匹で代用出来るかしら? 上策とは言えませんが、地下4階を本格的に攻めるなら地下1階と地下2階は誰かに任せるしかありません。


 それから4日間はソルジャーのレベル上げに全力を傾けました。6匹がレベル3に到達したのでこれで地下1階と地下2階は任せても大丈夫でしょう。維持費が36DP/日なので地下1階の稼ぎと相殺になります。地下3階と地下4階は私とポチが担当すれば当面は大丈夫です。


 23日目には意を決して地下4階を攻略すべくポチと強行軍で進みました。始めて斬られましたが、思ったほど痛くありません。人間だったら痛みで動きが鈍るのに、この体では多少不快感を感じる程度です。本当に人間をやめた、とこの時始めて自覚しました。想いに耽る間も無く、次のゴブリンが襲い掛かってきました。考えなくて良いなら楽かもしれません。怪我覚悟の強行軍のおかげもあり、今日は撤退まで4部隊倒せました。マップの空白部分とこれまでの経験から7部隊いるのでしょう、と結論付けました。


 地下4階の敵と時間。敵の強さでは無く、撃破に掛かる時間が最大の敵になるとは皮肉な事です。二人だけでは時間が掛かり過ぎます。ここで追加メンバーが必要になりますが、候補は誰が最適かしら。


「メイジ」


「レベル1だとファイアボールを1発しか撃てないのでは無くて?」


「リーダーを狙えば時間短縮。2匹居てレベルが上がれば更に効率的」


「DPの残量からして痛い出費ですが、仕方ありません」


 ゴブリンメイジを2匹60DPで眷属召喚します。維持費は6DP/日ですが、レベルが上がればその分更に稼ぎが減ります。24日目からはメイジとヒーラーを加えた6人パーティーで地下3階を掃除し、地下4階はメイジの先制攻撃でリーダーを狙いました。先に詠唱を完了していれば瞬時に魔法を放てるのは思っていたより便利です。敵の構成と居場所が分かっているから出来る戦法です。ダンジョン以外ではまず通用しません。地図を見たら分かりますが嫌らしい作りです。ゴブリンメイジを素通りして地下5階にいけます。しかし準備不足で下りたらどうなるか考えるまでもありません。


■■■■■■■■■■■■


地下4階の地図


壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 ロ ロ ロ 下 壁 壁 壁 壁

壁 壁 ロ 壁 壁 壁 ブ 壁 ブ 壁

壁 壁 ロ 壁 ロ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 壁 ロ 壁 ブ 壁 壁 壁 ロ 壁

壁 壁 ロ 壁 壁 壁 壁 ブ ロ 壁

壁 壁 ロ 壁 ブ 壁 ブ 壁 ロ 壁

壁 壁 ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 壁 上 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


上 地下3階への階段

下 地下5階への階段

ブ ゴブリン


■■■■■■■■■■■■


 24日目にはメイジがレベル3になり、25日目には地下3階と地下4階を掃除出来る様になりました。階層-1のレベルまではかなり簡単に上がり、階層+2のレベルまでは粘れば上がるみたいです。そのため、私は地下4階でレベル6になるべく必至に戦いました。


「もうそろそろかしら?」


「後数日。それと地下3階はどうする」


「何か必要な事がありますかしら」


「地下5階に挑むなら時間が足りない」


「そうですわね。また別働隊を組織しないといけません」


「敵にはメイジがいる」


「厄介な」


 リーダーが居ればと一瞬考えましたが、そのリーダーを私のメイジは一発で殺しているのです。毎回の戦闘で誰か被害者が出ればDP赤字になるだけです。メイジの数を増やして面制圧しようとするとDPが嵩みます。となるとメイジより先に攻撃出来て尚且つ手数が多い配下が必要です。使い道が無いと思っていたゴブリンアーチャーを試して見ましょう。


 26日目にゴブリンアーチャー4匹を60DPで召喚しました。地下3階はアーチャーとヒーラーの部隊で掃除し、地下4階はメイジとヒーラーの部隊で掃除しました。3匹のアーチャーがメイジを狙えば100%の確率でメイジが死にます。余った1匹は敵アーチャーを狙わせます。最悪維持費が安いアーチャーによる面制圧を考えても良いかもしれません。


 28日目の終わりには遂に私とポチがレベル6になりました。


「ゴブリンリーダーが召喚リストに載った」


「やっとですわ!」


 私は喜びました。これでまともな別働隊を運用出来そうです。ゴブリンリーダーは前衛として優秀で【小隊指揮】なんていやらしいスキルを持っています。2割程配下のゴブリンを強化するみたいです。60DPで召喚出来て維持費が6DP/日です。


 このまま地下5階に飛び込みたかったのですが、急いては事を仕損じます。ゴブリンリーダー2匹を召喚し、地下3階と地下4階で重点的にレベルアップさせます。31日目の終わりにはリーダー2匹がレベル3になり、地下3階を任せても大丈夫な強さになりました。


 一つ気付いたのですが、リーダーはリーダーで無いと【小隊指揮】の効果を発揮しないのです。そのため私の部隊にいる限り実力を出せないのです。更に、リーダー2匹を同じ別働隊に編入しようとしたら拒否されました。


「人格が無いのにどうして?」


「そういう風に作られている」


「人格があるともしかして大丈夫だったりするのかしら?」


「相手を説得出来れば可能」


 これは思わぬ落とし穴です。サクラコの知識で指揮権の問題らしいです。同格のリーダー同士では誰が指揮官か不明なので、同一部隊で戦う事を望まないのでしょう。地下3階の掃除を任せるリーダーにアーチャー4匹と追加召喚したヒーラー1匹を与え別働隊を任せました。もう1人のリーダーは私の部隊に入れたままにしました。


 32日目に準備が整ったので地下4階を掃除して地下5階に降りました。私、ポチ、リーダー、メイジ2匹、ヒーラー2匹の7人パーティーです。6人パーティーより多くなると経験値の効率が落ちるとサクラコが言っていましたが、安全第一です。


「ワン! ワン!」


「ポチ分かっています。強いモンスターがいます。近付いて来たら全力で逃げますよ」


「階層ボスは動かない、はず」


「それを信じて全滅はお断りです」


 注意して進みます。しばらくすると、この階層のモンスター部隊に遭遇しました。


「敵6。リーダー1、ソルジャー2、メイジ2、ヒーラー1」


 ゴブリンリーダーにゴブリンメイジ。これは骨が折れそうです。前衛も厚くまるで私の部隊を鏡で写した様な編成です。敵メイジのファイアボールがこっちのリーダーに直撃し、一発で彼の命を奪いました。


「詠唱準備をしていたの!?」


 私が考えた戦法を敵が使って来ました。当然なのかもしれません。しかしこれは由々しき事態です。もう1発のファイアボールはポチが食らい、ヒーラーが治しました。敵のメイジがレベル1だったためか、最初の一撃以外は然したる脅威では無く、順当に押し切れました。稼ぎは20DPと前の階層より6DPも多いです。


「リーダー付きのメイジがここまで厄介とは思いませんでした」


「ワン!」


「油断大敵」


 敵が同じ戦法を使うなんて少し考えれば分かりそうなのに、私の中に油断があったのでしょう。しかし引き返すと言う選択はありません。死んだリーダーの代わりにゴブリンを2匹召喚します。相手が2発しか撃てないのは分かっています。なら特攻させるのみ! 次の敵は同じ構成でした。私のゴブリン2匹が火達磨になりましたが、予定通りです。敵が如何に強くても最初から準備すればどうとでもなるものです。私は取り乱す事も無く敵を倒せました。もう1部隊同じ方法で倒し、その日は地下4階に戻りました。


「ゴブリン特攻だとDPが稼げません」


「パラマイゼロ」


「なんとかしなくてはいけません」


「必要有る?」


「えっ、稼ぎが0なんですよ!?」


「DPは0だけど他に何か無い?」


「レベル? そうですわ、レベルアップが有ります」


「正解」


「でもレベルアップすると更にDPの支出が増えません?」


「レベルアップ時に色々増える可能性」


「なるほど。ここは赤字を我慢してレベル7を目指すのが得策ですか」


「恐らく」


「分かりました。地下5階の地図を完成させる過程でレベル7を目指します」


 やる事が決まったら後は実行に移すまで。6人と生贄ゴブリン12匹で地下5階を掃除しました。36日目までは同じ事の繰り返しでした。生贄作戦が功を奏したのか33日目に地下5階の地図が完成しました。敵部隊は他の階層より1少ない6部隊です。36日目に私とポチはレベル7になりました。


 この階には宝箱が2つあります。久々のゴブリン特攻です。毒、麻痺、指切りワイヤー、爆発と今回のトラップは本気度が違います。泥ゴーレムでは爆発に耐えられません。それに敵の巡回ルート上にあります。私がいる間は大丈夫ですが別働隊だと絶対に安全とは言えません。それぞれ50DPと5DPで還元出来る解毒剤かくず鉄しか出ませんでした。中身が固定なのは助かります。ゴブリン2匹の差額を引いても35DPの稼ぎになります。


 階層ボスの部屋も発見しました。サクラコの考え通り、動かないみたいです。階層の中央付近にあるやたら豪華な扉を潜った先にいます。ここで無理してボスに挑む必要は無いと判断しました。数日は全体のレベルアップと装備の更新に費やしましょう。地図はこの様な感じです。階層ボスの部屋は想像図ですので本当とは違うかもしれません。


■■■■■■■■■■■■


地下5階の地図


壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁

壁 ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ 壁

壁 ロ 壁 ブ 壁 壁 壁 壁 ロ 壁

壁 ロ 壁 壁 壁 ブ 壁 壁 ロ 壁

壁 ロ ロ ロ ロ ロ 壁 ブ ロ 壁

壁 ロ 壁 壁 壁 ロ 壁 壁 ロ 壁

壁 ブ 宝 壁 ロ ロ ロ 壁 ロ 壁

壁 ロ 壁 壁 ロ ボ ロ 壁 ブ 壁

壁 ロ ブ 壁 ロ ロ ロ 壁 宝 壁

壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁 壁


上 地下4階への階段

ゴ ゴブリン

宝 宝箱

ボ ボス


■■■■■■■■■■■■


 レベル7に上がったため、色々と出来る事が増えました。眷属召喚にストーンゴーレムが追加されました。60DPで召喚出来て維持費は3DP/日です。足がどうしようもなく遅くどんなに急いでも階層の半分しか回れません。しかし一発だけならメイジのファイアボールに耐えるのです! ポチ以外でそれが出来る最初の配下です。この階層の爆発する宝箱の攻撃にも耐える事が出来るのですが、単独で配置するのは危険です。


 そしてなんと言っても道具購入にミスリルソード、ミスリルシールド、ミスリルブーツが並んだのが嬉しいです。早速850DPで3つとも買い揃えました。残りDPのほとんどを注ぎ込みました。314DPしか残っていませんがその分効果はあるはずです。それと二つ実験を行いました。


「リーダー、シールドを持ちなさい」


 新しく召喚したゴブリンリーダーはシールドを命令通りに持ちますが、使いこなせません。ただただ手に持っているだけです。


「リーダーにシールドの知識が無い」


「ミスリルシールドを装備出来ればメイジの一撃を無効化出来るのに残念です」


「ネームドなら教える事が出来る」


「ネームドはまだレベル不足なのでしょう?」


「正解」


 最初の実験は失敗しましたがモンスターについて新しい情報が手に入ったので良しとします。私が使っていた青銅剣はリーダーに渡しました。これは問題無く装備出来る辺り本当に不思議です。装備を一新したので40日目まではレベル上げをしました。ストーンゴーレム2体とゴブリンリーダー1匹がレベル4になり、以前からいるメイジとヒーラーの4匹はレベル6になりました。


 地下5階の掃除をしている最中、私はメイジのファイアボールをミスリルシールドで弾く実験をしました。


「行きます!」


 私は意を決して前に出ました。そして魔法を盾で弾きました。弾かれたのは私のほうでした。情けなく尻餅を付きましたが、魔法は盾に当たり霧散しました。成功です! 魔法を盾で弾けるとは思っていませんでした。物語の英雄みたいです。その後は難なく敵部隊を倒しました。戦いが終わって、ポチが呆れた顔で私を見ています。


「ポチ、格好良かったでしょう!」


「クゥーン」


 肯定したと思っておきます。この実験が成功したので40日目の最後に階層ボスに挑む事にしました。今日手に入った解毒剤はDPにせずヒーラーに渡してあります。ここまで毒を使う敵はいません。そうなると階層ボスが怪しいです。


 私は勢い良く扉を開けました。私、ポチ、リーダー、メイジ2匹、ヒーラー2匹の7人部隊で挑みます。ストーンゴーレムは足が遅すぎて途中で置いてきました。魔法陣の中に固定されたボスは3つ頭のモンスターみたいです。


「獅子、竜、山羊でしょうか?」


「敵1、キマイラと推定」


「注意点は?」


「尻尾の毒」


 やはり解毒剤は階層ボス対策なのかしら? 微妙に親切なのか不親切なのか分からないダンジョンです。そのまま警戒を緩めず全員で部屋に入ります。扉が勝手に閉じ、閉じ込められました。そして魔法陣が一回点滅し、はじけ飛びました。


「グガァァァ!」


 キマイラの雄叫びと同時に戦闘開始です。


「撃て!」


 私の号令と共に予め用意していたファイアボールをゴブリンメイジが放ちます。結構効いたみたいです。


「突撃!」


 ゴブリンリーダーの突撃に合わせて私とポチが左右から挟撃します。死んでも問題が無いリーダーには一番死ぬ可能性が高い箇所を任せました。3方向からの攻撃でキマイラの注意が散漫になったのを見て、私はまず尻尾を切り落としました。本当に毒があるか分かりませんが、尻尾から垂れ流れた緑の液体がブクブク言っています。


「尻尾は斬りました! メイジの次弾は?」


「詠唱7割」


 遅いです。それでも流れはこちらに傾いています。


「ゴォォォ!」


 竜の頭が私に炎を吹きかけます。ミスリルシールドの前では、この程度の魔法は通用しません。しかしその衝撃はメイジのファイアボールの非では有りません。そのまま後ろに弾き飛ばされました。メイジで予行練習をしていなければ、この一撃で戦線離脱していたかもしれません。


 私が竜を引き付けている間にポチが山羊の喉元に噛み付いて、山羊を引き千切ります。狼と山羊なら相性も良く、脅威が一番低いと考えた通りの結果になって満足です。ゴブリンリーダーは危なげ無く獅子と遊んでいます。青銅剣を持っている分だけ攻撃力が高く、獅子は迂闊に噛み付けないみたいです。


 ポチが胴体に爪を突き刺すのと同時に、残った頭がポチに向きました。そのチャンスを見失うことはありません。私は全速力でキマイラに迫り、全力を込めた一撃で竜の頭を切り落としました。獅子の頭だけになったら、大きな獅子と変わりありません。全員でタコ殴りにして仕留めました。私とポチのレベルが8に、参加した残りの配下はレベル7に上がりました。キマイラは1000DP落としました。全てが終わったと思ったら、私の体が光に包まれ、その場から消えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る