オイディプスの輪＜リング＞

３

　夫人は、閉じこめられた客間のベットの上で不破のねっとりとした愛撫を受けている間、ずうっと夫の名を呼んでいた。

　それは不義を詫びる行為と言うより、自身の情欲を高める呪詛のようであった。

　不破はそんな夫人に冷めることなく、むしろ自身の行為に喜びを感じていた。こと男女の情に関して、不破という男は欲望を優先する男であった。

　今もなお、自分のモノをくわえている夫人を見て、不破は嗜虐心で一杯だった。

「……どうです、奥さん？」

　無論、銜えたままの夫人は声で答えるコトは出来ない。頷くばかりだったが、ごぼこぼとそれなりに言葉で聞こえた。

「旦那さんよりいい？」

　夫人は頷いた。くぐもった声で、あの人のより逞しくて、と。

「じゃあ」

　と不破は夫人の頭を両手で掴み、一気に夫人の口の奥に突き入れた。

　驚く夫人だが、不破の積極性に抵抗はせず、自分の頭を掴んで動かす不破の動きに成すがままになった。

　激しい動きの後、不破は、飲んで、と言った。夫人は一瞬躊躇したが、拒絶はしなかった。

「――くっ」

　まもなく、粘り着く大量の濃い体液が夫人の喉を撃った。

　夫人は驚き涙を浮かべるが、それをごくり、と嚥下した。

　ふう、と一息ついた不破は、ゆっくりと自身を夫人の口から引き抜いた。

「……嘘……凄い」

　夫人は、涙目でその、欲望を吐き出したばかりなのにそれは逞しくそそり立つそれに思わず瞠った。

「奥さんが凄いから、収まらないや」

　はふぅ、とようやく息を吐いた夫人の口を、不破は乱暴に塞いだ。

　口の中にはまだ自分のモノが残っていたが、不破はそれを自分の舌で拭って見せた。

　不破はその白濁の付いた舌で、今度は夫人の勃起した乳首をなめ回す。

「ん――ふぁ、あん、ああっあっ！」

　まるでひとつの生き物のように蠢く舌先の淫靡な動きに、夫人は切なげに哭く。

　乳房を口で愛撫する不破は、空いている右手を夫人の秘所へ延ばした。

「こっちがお留守でしたね」

　不破のテクニックがもたらす快感に頭が正常に働いていない夫人だったが、それが何を指しているか直ぐに理解し、躊躇いもなく両脚を開いた。貞淑さなど既に喪失し、快楽に溺れる牝と化していた。

「ふふ。そんなに気持ちいいですか？」

「いや……聞かないで……ああんっ」

　不破の親指の腹が、尖って敏感になった陰部の上を這う。秘裂を分け入った中指の腹は肉壺の奥の壁を何度も擦りつけ、夫人の性感帯を激しく刺激した。

「あ――ひヤ、クる、クうゥっ！！」

　快感の炎に身を焦がされていく夫人は幾度も襲いかかる絶頂の小波に脳幹がマヒしつつあった。不破の巧みな愛撫に、秘裂からあふれ出す白濁混じりの愛液が右掌を伝い流れ、肘までしたたり落ちていく。

「そろそろ指じゃ物足りないでしょ」

「んあ――ひああっ！！」

　不破は容赦なく、濡れたそこへ突き刺した。

　夫人は不破のモノが入り込む動きに、ずん、という幻聴さえ聞こえた。

「奥に――奥に――――」

「旦那さんと違うかな？」

「違う――なんて――奥に当たって――ああっ！」

　思わず反り返った夫人は錯乱気味に答えた。

　不破は素直な夫人に、にぃ、と笑ってみせ、ゆっくりと腰を動かし始めた。

　正直、不破は余裕はなかった。いわゆる名器なのであろう。ホンの数分前に放ったばかりだというのに、直ぐに背筋に電気が走った。

「もったいないなぁ…………旦那さん、奥さんのここ、あんまし慰めてなかったでしょ？」

「ああっ――そんなこと――あの人は――――」

「ボクがもっと良いコトしてあげる」

　そう言うと不破は、夫人を指し貫いたまま夫人の身体を横へ寝かした。

　それからゆっくりと左人差し指と中指を舐めると、それを夫人の後ろの穴へねじ込んだ。

「――――？！」

　始めは驚きに支配されたが、やがてその二本の指の淫猥な動きに、夫人はゾクゾクと震え始めた。

「前と後ろ、同時に」

　不破は愛嬌のある声で言った。夫人は後ろは初めてであった。その、次第にわき上がる未知の快感に、思わず涙を流し始めた。

「痛――」

「……おっと、後ろは初めてでしたか。こりゃマズイか」

　不破はそう言って指を引き抜いた。そして夫人を四つん這いにすると、背後から責め始めた。

　夫人はベットのシーツに顔を埋めて声を押し殺していた。不破はそんな夫人が面白くなく、のし掛かるように夫人の両乳房を背中から鷲掴みにすると、ひょい、と夫人の身体を起こした。

　きゃあ、と可愛らしい声を上げて驚く夫人を、不破は胡座を掻く姿勢で責め始めた。夫人は自分の指で口を塞ぎ、声を殺そうと必死になる。

「ダメダメ――声、聞かせて――哭いてよ」

　不破は意地悪そうに言う。

「ダメ――あの子が――あの子に聞かれたら――――」

「聞かせちゃいましょうよ――お母さんは見知らぬ男を引き込んで、腰を振ってひいひい言ってます、って――性教育、性教育」

「そんな――だめ――あ――」

　再び仰向けにされた夫人は、必死に拒絶する。

　だが不破の愛撫は容赦なく、そして一層激しさを増した。

　あっ、あっ、あっ、と喘ぎ哭く声と、汗にまみれた肉が激しくぶつかり合う音が等しく室内に拡がる。

　その均衡は、次第に高まって言う前者の声が凌駕していった。

「だめ――あの子に聞かせちゃ――ああっ！」

　拒絶するも、夫人の身体は不破を求めていた。不破のそれより夫人の腰の動きが激しさを増し、不破のモノを呑み込む膣壁は次第に力を増していった。

「……すご……い…………」

　不破は限界を感じていた。

「イキ……そう…………イッて……」

「イッて――このまま――――ああっ！」

　夫人が達した時、不破も夫人の奥で爆ぜた。不破は先程の口腔に匹敵する吸引感を感じていた。

「すっげぇ……奥さんのナカ、最高だ……」

「……ナカがあなたので一杯…………酷い人…………ああっ」

　既に二度も射精している不破のそれがまだに堅く逞しくいるコトに夫人は驚いた。

「こんな…………凄い…………こんな人が居るなんて……」

　全てを蹂躙され、紅潮した肌をベッドの上に投げ出している夫人は、大きく深呼吸して少し悔しそうな顔で言った。

　その隣で満足そうにしている不破に悪びれた様子は無い。

「……奥さん、旦那さん確かアレ、ダメだったんですよね？」

「え？」

「知っているんですよ――旦那さん、勃たないって」

「――――」

　夫人は驚いた。その事実は夫婦の間だけの秘密であったはずだった。

「……薬物中毒」

「――――」

「旦那さんの主治医から聞き出していたんですよ。この数年、あっちがダメだった、って相談していたそうですね」

「――――」

　見る見るうちに夫人の顔は青ざめた。

「でもそこにつけ込んだワケじゃないんですよ」

　そう言うと不破は自分のモノを引き抜き、濡れるそれを寝ている夫人に向けた。

「……あなたが寂しそうな顔していたから」

「――――」

　　夫人の酷く戸惑った顔が、ふっ、と寂しげな顔へと変わった。それはまるで自分の心の深いところを見透かされたようであった。

　暫しの沈黙の後、夫人は豊満な乳房で不破のそれを挟んだ。

「今夜はボクが忘れさせてあげる」

　不破が優しく微笑んだ。

　夫人はようやく、自分はこの男の仕掛けた蜘蛛の巣にかかった獲物だと言うコトを理解した。

　そう理解したから、不破のモノに顔を近づけ、舌と乳房で扱き奉仕し始めた。

　酷く緩慢な動きだったが、不破には充分だった。ブブッ、と吐き出した大量の白濁が、夫人の陶酔した顔に夥しくかかると、ようやく不破のモノは治まり始めた。

　荒ぶり続けたそれが静まる様を呆然と見つめていた夫人はふと、哀しげに言った。

「……全部忘れさせて――私の犯した罪を」

　不破は何も答えなかった。夫人はまた不破のそれを銜えて舌で奉仕し始めた。

　再び不破のモノが堅さを帯びるのに時間はかからなかった。

「……罪？」

　不破は不思議そうに訊いた。

「そう」

　頷く夫人が次に口にした告白を聞いて、不破は声を無くして困惑した。