好きな理由


「こういう冬の雰囲気って好きだなあ」

「うん。私も」


 年の瀬のにぎわいをみせる商店街。

 つないだ手をひっぱられ、2人そぞろ歩き。

 寒さの中に満ちる活気に、僕は少しのぼせ気味だ。


 あわただしい中にも、新年に向けたエネルギーを感じる。

 以前の僕だったら、こんな人の多い場所にでかけることなんてなかっただろう。でも彼女と一緒なら、今まで苦手だった場所でも行く気になるから不思議だ。


「あっという間だったなぁ」

「もう1年、経ったんだね」


 僕らが出会ったのは、ちょうど去年の今ごろ。

 これで季節がひとめぐりしたことになる。


 この1年、本当にいろいろなことがあった。だけど、今こうして一緒にいるのだから、今はまだ何も振り返らない。

 だって昨日より、今日の方がずっと大事だから。


「春が待ち遠しいね」

「気が早いなあ。冬はまだこれからだよ」

「そうだけど。私、春が大好き。桜が咲くと、何かはじまりそうな予感がするでしょ? でも、夏も好きだなぁ。ぐんぐん成長していけそうな気分になる」


「梅雨だけは勘弁して欲しいけど」

「そう? 私、雨の日も好きだよ。雨が降らなかったら、花も咲かないもん」

「そりゃそうだ」

「あ、もちろん秋も好きだよ。食べ物美味しいし!」

「しあわせなヤツだなあ」

「それから冬はねー、手があったかいから好き」

 つないだ手にきゅっと力がはいる。


「去年までは違ったんだ。春も夏も秋も冬も、みーんな嫌いだった。嫌いなものばっかりの自分も、嫌いだった」

「ずいぶん極端だな」

「うん。でも、気づいたら嫌いだったものが、ぜんぶ好きになってたんだ」


 いったい、何が彼女を変えたんだろう。

 僕もいつか、彼女にとってそれくらいの存在になりたい。

 彼女を変えた何かに、僕はちょっぴり嫉妬する。


「へえ。何がキッカケだったの?」

「知りたい?」


 彼女は不意に立ち止まると、嬉しそうな笑みを浮かべると、じっと僕を見つめる。

 僕がまで、ずっと見つめていた。


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青春恋愛短編集【初恋編】 あいはらまひろ @mahiro_aihara

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