二巻 クリアデータとすれ違い珍道中
二巻 プロローグ 英雄の帰還?
画面にタイトル、そしてログインIDとパスワードの入力画面が現れる。幸いIDの方は設定によって残っているようだった。
孝太はあの頃に叔父さんが使っていたパスワードを思い出そうとする。するとそこに
一つの文章が浮かび上がってきた。
『注意 このゲームはすでにクリアされています』
それを見て多くの人はこのゲームを始めようとは思わないだろう。
しかし孝太は違っていた。
そうかクリアされてるのか、それなら安心してプレイできる。
孝太はそのメッセージを
フルダイブでの入力に苦労しながら、孝太は叔父さんがよく使っていたパスワードを順に入れていった。
パスワードは二つ目でヒットした。
画面が中央の穴に吸い込まれていき、孝太の視界もそれに合わせて中央の穴に落ちていく。それと同時に意識がゲームの中に溶け込むのを感じた。
これが、フルダイブ?
孝太は始めての感覚に成すがまま身を
目に前に広がる暗闇が暗いのか自分が目を閉じているからなのか分からなくなっていく。
次に孝太が目を覚ますと、そこに見えたものは見知らぬ天井だった。
瞬間的に体を起こす。辺りを確認すると石造りの壁と
その光景に孝太は昔にプレイしたファンタジーゲームの世界でよく見た家の作りに似ているなとふと思った。
ゲーム? 孝太はそこで一瞬忘れていたことを思い出す。
そうだ、自分はゲームの世界に着たんだ。そして今ゲームをプレイしているのだ。
そういえば、視界がいつもより高い。体は筋肉隆々で腕なんかは丸太のように太かった。
孝太は視界の端に文字が表示されていることに気が付いた。そこには通常のゲーム同様、自身の名前と簡単なパラメータが表示されていた。
孝太はそこで自身のキャラクターの名前を初めて確認する。
『グラム Lv.99』
これが叔父さんのキャラクター。これのために自分は……そう思うと孝太は心の古傷がチクリと痛んだ。
しかしこれがフルダイブなのか。もう何年もゲームの世界から離れていた孝太にはその衝撃は計り知れなかった。
ベッドの上で全身の動きに問題が無いかを確認し、立ち上がる。
リアルでの自身の身長と違うため、歩くのに若干苦労しながらもドアまでたどり着き、ドアノブに手を掛けた。
そして、これが叔父さんの見ていた世界。
扉を開けると、そこにはまさにファンタジーの世界が広がっていた。中世を思わせる町並み、色とりどりの髪色に様々な服装。
孝太は感動のままにその光景を眺めていた。
そしてとある違和感に気付く。
何故か町行く人々が孝太のことを見ているのだ。それもほとんどの人がこそこそと盗み見るように。
出店の店員などこちらに見向きもしない人もいるがあれらは恐らくNPCだろうと孝太は判断する。しかしそうするとイベントというわけではなく、単純に自分自身に興味を引く何かがあるわけだ。
「僕の顔に何か付いてますか?」
孝太は一番近くの人物に声を掛けた。そして自分の声が異様に野太いことに驚く。
「ひっ、お許しを」
孝太が自身の声に困惑していると、その人物は短い悲鳴を上げて逃げ出してしまっていた。
聞き方が悪かったのだろうか? 孝太は首を傾げた。
しかしこのゲームが始めての自分にとって、マナーやルールといったものは分かるはずがない。
「あのぉ、誰か」
そこで孝太は通りの全員に聞こえるように声を大きくした。野太い声が通りに響く。
やはりそれが自身の声には聞こえなかった。
これだけの人がいれば誰か親切な人が話を聞いてくれるだろうと孝太は思っていた。
だがその結果は予想外のものだった。
「ひっ」
「おた、お助けを……」
「う、うわっぁぁぁ」
「グラムが、グラムが帰ってきたぞぉぉぉぉ」
至るところで悲鳴が溢れ人々は混乱の中、全速力で逃げ出したのだ。
孝太の前から人々が消えるのに五秒とかからなかった。
「どうだい、何か買っていくかねぇ」
NPCの声だけが通りにむなしく響き渡る。
孝太はその光景をただ呆然と眺めていた。
一体これはどういうことだ? 孝太は訳が分からないままにふと窓に写る自分自身を見た。
「うわっ」
堪らず体を反らし、そのままバランスを崩して尻餅を付いてしまう。
赤い
それが孝太の操るグラムの顔だった。
起き上がり、まじまじと窓に写る自身の恐ろしい顔を見つめた。
孝太が顔をしかめるとそれと同じようにグラムの顔も歪む。
さっきの中にこのキャラクターの名前を叫んでいた人がいた。
どうやら、叔父さんはこのグラムというキャラクターはこの世界で有名らしい。しかもあまりよくない方向で。
雄二叔父さん、一体この世界で何をやっていたんだ。
孝太が窓に映るグラムに問いかける。その問いにグラムは答えず、ただ難しい顔を返すだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます