第11話 似てるタイプ

 廊下の窓から二人が見えた。

 屋台の骨組みに使うパイプを運ぶ右京と、少ししてから校門を出ていく水沼さん。

 しかも彼女は、校門付近で作業する右京たち男子が、再び校舎裏に向かうのを確認してから走り出す。

 どう見たって、右京は避けられていた。


『あいつ何やったんだ?』


 昨日、珍しく俺より先に帰宅していた右京の様子はとにかく変だった。

 いつも、無駄に元気というか、無駄にうるさいのがあいつの特徴なのに、ソファーにボーッと座ったままピクリともしない。


『ねぇ、左京。右京どうしたの?』


 母さんが気味悪がるのも仕方ないくらいに口数が少なかった。


 それから、昼休みを終えて教室に戻った高木さんも何か変だった。

 もともとベラベラ喋るタイプではないし、騒がしいタイプでもないのだけれど、午後からの彼女は静かすぎた。

 彼女の発する空気もいつものふんわりしたものでなく、ダークだった。


 しかも、授業中はずっと何かに囚われていたのに、授業が終わった途端、慌ててどこかに向かったのも気になった。


 好奇心……とはちょっと違う。

 彼女と話してみたいと単純に思った。


「水沼さん」

「あ、左京くん」

「買い出し?」

「……うん」

「一緒にいい?」

「あ、……うん」


 並んで歩いてみてわかった。

 高木さんや他の女子とは違って、歩くスピードが早いし、歩幅も広い。

 ペースを合わせなくていい女子は初めてだと思った。


 しかも、要領がいい。

 てきぱきと必要なものを探す様子にはまるで無駄がない。他の不必要なものに目もくれずに進む彼女は、気持ちいいくらいだった。


「水沼さん、すごいな」

「え?なにが?」

「女子ってさ、例え買うものが決まってても、すごい迷ったりしない?」

「あー、そうだね」

「それに、脱線するでしょ?本来の目的から」

「なに?私が男っぽいって?」


 ニヤリと笑いながら俺を睨んだその様子も好感が持てた。


「かっこいいよ、水沼さん」


 茶化してそう言ったんじゃない。

 気持ちのいいやつだと本気で思った。

 でも、彼女の顔色はふと暗くなったから、余計なことを言ったかなとも思った。


「悪い」

「あ、ううん!褒めてくれてありがとう」

「うん。褒めた」

「昔っからそうなの。ガサツだとか女らしくないとか」

「女らしくないとは思わねーけど?」

「褒め言葉として言ってくれたの、左京くんくらいだよ?」

「そう?」


 買い物袋はどんどん重くなっているはずなのに、彼女は俺に頼ったりしてこない。

 彼女のこういうところ、右京はびっくりしただろうなと可笑しくなった。あいつは女子は頼ってくるもんだと思ってるから。


「持つよ、それ」

「ありがとう!」


 彼女は軽い方を俺に渡そうとする。


「右京より俺の方が力あるから」

「うそ!」

「腕相撲、あいつ俺に勝ったことないよ」

「そうなの?!」

「なに、俺が女っぽいって?」


 彼女の言葉を借りて、同じように睨むと、彼女は重い方の袋を手渡しながらケラケラと笑った。


 気の抜けた右京と、落ち着かない高木さん、そして右京を避ける水沼さん。

 わかるような、わからないような。

 わからないような、わかるような。


 帰りも同じペースで歩く彼女。

 学校まであっという間だった。

 ふと、何の気なしに彼女の方を見ると、両手をお腹のあたりで強く握ってから、長く息を吐いた。


「どうした?」

「いや、ちょっとね。気合い入れただけ」

「ふーん。」

「……左京くん」

「ん?」

「……ありがとね」

「何が?」


 彼女がどうしてお礼を言ったのか、俺は当てられると思う。

 けれど直後、彼女が『荷物持ってくれたでしょ?』と無理に笑ったから、どういたしまして、と言うしかなかった。


 彼女は荷物を受け取り、前を行く。

 彼女と話してみて、なぜか、高木さんは大丈夫だと思ったから……俺もそのまま教室に戻った。

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