第6話 修行の製菓3? 吟遊詩人・最強伝説?

『えー、皆さん。目は大丈夫ですか? 私は未だシパシパします』

『うぅー、まだ目が痛い』

『私は何とか、自前の目薬のお陰ですね』

『ソレ、使わせて貰っても?』

『ええ、どうぞ』

『ん? お、楽になった!』

『ロデリックさん。コレ、ウチで取り扱いさせて貰っても!』

『ん、まぁ、構わないでしょう』

『という訳で、この目薬が欲しい人は、我ら第8商店街を宜しく!』

『ロデリック商会も宜しく!』


 何気に宣伝するカラシンとロデリック。


『では、そろそろ第三戦!』


 ふふふっと第三戦を告げるアナウンスを聞きながら登場したヘンリエッタ。


 悠々と入場を果たしたヘンリエッタに観客が湧き、声援が飛ぶ。


『成り上がりギルド・三日月同盟からぁ大幹部:鬼の副長ぉ、ヘェンリィエッタァー!』

「「「う、うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」

「「「鬼の副長ぉぉぉぉぉ!」」」

「「「頑張ってェー!!!」」」


 ヘンリエッタはその声援を受けて、かくっとコケ「だ、誰が鬼の副長ですかぁー!」と吠えた。


「梅子ー! 梅子U・ME・KOも、が・ん・ば・れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 三日月同盟のギルマス・マリエールが自らチア服を身に纏い、ポンポンを両手に応援している!


「マリエェー! 梅子って呼ぶなぁー!」


 稀に見る盛大な声援。

 先の戦闘系の二人が異様な迷勝負を繰り広げた。

 公式トトカルチョでは、前の二人に惨敗して最終的に勝ちを譲る形に納まるのだろうと予想していたのだが、こうも迷勝負が続くと、流石にこの後もどうなるのかが目を離せない!



   ・・・   ・・・



『では、レディー・ファイトッ!』

『お、鉄板!』

『これはやはり必須でしょう、短時間で呼べるし時間も・・・お?』


 まず、スライムの様なカスタード饅での牽制だった筈が、思っていた展開通りにはならなかった。


『おおっと、ヘンリエッタ選手! すかさずコンパウンド・ボウで射止めたぁ!』

『スゴッ! 何であんなに動き回る的を!?』

『うぅん。多分、だが、口へ飛び込んでくる事を見越して動きを予想したんだと思う』



 現に向かって来るスライム=カスタード饅頭に対し、ヘンリエッタは顔を背けることで行動を誘導し、流れ矢がデュオに飛んでいかない様に横向きにしている。

 ビクンッビクンッ! と動き回ろうとするのだが、矢で壁に縫い止められている。


 更に召喚されたゴーレムの拳に対しては、正面から立ち向かう!


「なんのぉ!」



『つ、突っ込んだぁー!?』

『うわぁ!』

『ダメージが無いからってあそこまで・・・』



 ・・・支援職のバードな筈なのに。確か、後衛ビルドのコンサートマスターって話だったよな? そんな疑問が頭をよぎる観衆。



 だが流石に踏み止まる事は出来なかったのか、ぽよんという感じに弾かれた。ヘンリエッタは即座に切り換え、弓を背負うとガッシとそのナックルを両手で掴むと、そのまま抱え上げた!


『な、なっ! なんとぉー! ヘンリエッタ選手、巨大なゴーレムを抱え上げたぁ!?』


 司会は余りにも異様な光景を前に、ゴーレムの構成素材シフォン・ケーキを忘れて驚いている。


『わぁー』

『あんな事が出来るとは・・・』


 あんぐりと口を開け、唖然とする二人。


 ゴーレムが持ち上がったその向こうでは、デュオが右往左往している。流石にこんな展開は思い浮かばなかった様だ。


 取敢えず、ひたいの眼鏡を地面に置くと、魔法陣を描きだした。


「ふ、ふ、ふ、デューオ君。何してるのかなぁー、捕まえちゃうぞぉー」


 可愛い者=月を目の前にして変身した狼さんは、ごくゆっくりと歩みを進めて、発動前の魔法陣の前に立つ。

 キャンディ・ケインを魔法陣に突き立て様とするその瞬間、触媒となる眼鏡を弓で引っ掛け、ある物とスリ替えた!


 その瞬間を見ていた観客の一人が、悲痛な叫びを上げる。


「な!? な、」


 観客席から動揺と狼狽の声が上がったかと思うと、その続きは魔法陣の中心から上がった。


「、何て事を!?」



   ・・・   ・・・


観客席


「え!? アカツキ?」


 ついさっきまで隣に座っていたアカツキが人形と入れ替わり、闘技場の中にいる事に驚いている。


「〈キャスリング〉、だったのかな?」


 冷静に状況判断をするシロエ。身代わり人形だった筈が、自分が入れ替わってしまうとは思いもしなかったアカツキ。


 パァッ! と明るくなる満面の笑顔を浮かべるヘンリエッタ!

 反対に「な、何故こんな事が起こったのだ!?」と理不尽さを嘆くアカツキは、即座に敵前逃亡を図った!


『おぉっとぉ! どうした事か! 入場制限が掛っている筈のその場に、乱入者かぁー!?』

『あー、そう来たんだ』

『なるほど、そんな手があったのか』


 兎に角、狼さんの手から逃れようとする《アカツキんちゃん》! だが、回り込まれた! 逃げ切れない!


 観客のどよめきと共に、


「アカツキってアサシンだったよな?」

「あんなに簡単に捕まえられるのか?」

「イヤイヤ、ゾーン設定で特技なんかが使えないんだろう」


 などと観客席から聞こえて来るのだが、


三日月同盟クレセント・ムーンのバードは化け物か!」=イエ、怪鳥バードかな?

「あれが、鬼の副長の真の実力か!」=多分?


 などと誤解も招いている。


 デュオはその間にスタコラサッサ、アラホラサッサと距離と、次へと繋げる為の時間を稼いでいる。どちらであっても、作戦としては成功?


 取敢えず、尊い犠牲の元、アカツキんちゃんが稼ぎだした時間は有限であり、有効に活用しなければならない! との使命感には燃えないが、相手は恐ろしく手強い! というより超オッカナイ!


 先ず、円陣サークルを描きその中に回転対称の正四角形を二つ。=八芒星

更にその中心点に、前回の模擬戦で手に入れたモノを置いた。


『エ? でもそりゃないよな、アレで何を呼ぶんだか』


 カラシンは何かに気付いた様だがそっと呟くだけにして経過を伺った。


「さあ、回復シフク時間ヒトトキは終わりですよぉ」


 《アカツキんちゃん》には逃げられたらしい。次なるターゲットとして目された!?


 急ぎ、目の前の魔法陣に、キャンディ・ケインを突き立てる!


 その魔法陣が、自ら動き始めた。


『お? おおお!? 我々は新たな瞬間に立ち会おうというのか!?』


 興奮に身を乗り出す司会!


『む! むむむ!』 キラーン! とした輝きを増す眼鏡ロデリック


『何が出るかなー?』 好奇心を刺激され、笑みを浮かべるカラシン。



   ・・・   ・・・



 召喚陣からは、裾が擦り切れたマントと民族衣装の様な半ズボンを纏ったギリギリ一桁と思われる中性的な子供が「えぇ?」と呟きながら現れた。


『『『・・・ナンデダー!!』』』

「「「「「「「「「・・・きゃー!!!!!!」」」」」」」」」」「キャー!!!!」


 酸味を帯びていそうな黄色い歓声! 後半、甘酸っぱそうな黄色い歓声!(=お菓子どるちぇな人から)


 召喚された相手は、キョロキョロと辺りを見回すと、良く知った相手を見付けた。


「えっと、デュオ?」

【・・・ラテ兄? タッケテ!】

「え、ええっと、これは?」

【!!! キャー!】


 とばかりにラテ兄の(まだ)大きくも広くもない背中に隠れた!


「えっと、どうしたのかな?」


 若返ったラテ兄の呟きに対し、


「ま、まぁ! まぁ!! まぁ!!! こんなに可愛い者が!」


 つーかまえた! となると思われた、


「え、えーと、〈禊ぎの障壁〉?」


 即座に現れた障壁に、べたん! とばかりにヘンリエッタが張り付いた!


「くっ! これは、禊ぎの障壁ね!」


 そう言うと、


「なら、〈臆病者のフーガ〉!」


 朗々と歌い始め、早々に歌い終わると障壁に手を着き、一呼吸。

自分自身のヘイト(?)を減らし、反対に愛好心ラヴァーを高めたヘンリエッタ。


 ウンッ! とばかりに踏ん張り、指を突き立て、バリッバリバリバリッと指をめり込ませていく!


『『『な、何ぃー!?』』』


 目を丸くするしかない様な光景。



 観客は後々語る、

  愛は偉大なり、と・・・

  愛は全てを乗り越える、と・・・

  愛があれば障壁なんて、と・・・

  愛にあんな使い方があるなんて! と・・・



「くっ! 〈鈴音の障壁〉!」


 ラテ兄は障壁を強化し、何とか相手の勢いを止めようと、


「〈物忌み〉!!」


 だが、それが悪手だと、ラテ兄はその時、気付く事が出来なかった・・・

それは自分とデュオへの敵意ヘイトを減らす事、ただでさえ少なかったヘイトがどの様になっているのかを、知る術が無かったのだから。


「ふ ふおぉおぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉ おおおおおお ぉぉぉぉぉぉ!」


 ヘンリエッタの身体からドス黒い煙幕が辺りを侵食し始め、直に尽き果ててサアッと消え去った。ヘンリエッタの背後には、後光が差し、神々しさが表れた!?



 観客は後々語る。

  神が降臨した、と・・・

  愛好神が誕生した瞬間だった、と・・・

  アレは神として崇めるべきでは、と・・・

  アガペーだ、と・・・

  アレはヤバいよ! ストーカーになっちゃう! と・・・

  ・・・ヤバ過ぎて手も足も出せねぇ、とアイザックは語る・・・

  「オン・マカラギャ・バゾロシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク」と〈シルバーナイツ〉の面々が読経を始めた、と・・・



「ナ、ナンデ!?」


 勢い良く、障壁が破られた!


「こ、こうなったらデュオ!

少しでも時間を稼ぐから、逃げて!」


 そう言いながら、


「〈神降ろしの儀〉!」


 本来であるなら、直後に使用した特技の熟練度が1段階上昇したかのようにあつかわれる。だが、これは真っ当な召喚ではない!サブ・《小悪魔》補正が掛った召喚による改竄がある!


 本来の姿=ラテ兄 本名:ジョナサン 23歳 男性 に立ち戻った!


「〈グランドフィナーレ〉!」ヘンリエッタ口伝・啖呵=一息に高速詠唱うたいとなえる


 スローモーションで迫るヘンリエッタの平手打ち!


 ばちこぉーん!


 大人なラテ兄は、闘技場の端まで、水平に飛んで行った。


『・・・あ、な、何で!?』

『や、育っちゃったから?』

『そ、それにしても・・・』


 吹き飛ばされたラテ兄。その姿にラグが掛り、一冊のメモ帳が残されていた。



 観客席では見覚えのあるソレを見て「アレ? アレアレ?」と、身体を弄って持っていた筈の何かを捜す守護戦士が居たとか。



   ・・・   ・・・



 後に残されたのは、デュオと魔法陣。

貴重な残された時間、白いフリル状のモノを手に取り、魔法陣へと置いた。



   ・・・   ・・・



『おおーっと! デュオ選手、新たに何かを召喚するのかぁー!?』

『ん、アレは何だ?』

『エ? でもそりゃないよな、アレで何を呼ぶんだか』


 それが何であるのかに、カラシン一人が何かに気付いた様だが、そっと呟くだけにして経過を伺った。


「あれは・・・」

「ん? 何か気が付いたの、直継」

「・・・おパぶぺらっ!」


 下からのアッパーが決まったようだ。


「主君、この不真面目な変人を成敗しておいた」

いってぇなひっへぇは! 舌咬んだだろひははんははろー!」 フガモガ!

「直継やん、黙って見てようなぁー」と反対側から口が塞がれた様だ。



   ・・・   ・・・



 急ぎ、目の前の魔法陣に、キャンディ・ケインを突き立てる!



 その魔法陣が、また自ら動き始めた。


 召喚陣からは、可愛らしい少女が、料理の途中だったのだろうか、フリルのエプロンを身に着け現れ「ふぇ?」と呟きながら現れた。


『『『・・・ナンデダヨー!!』』』


 少女がキョロキョロと辺りを見回すと、良く知った相手を見付けた。


「デュオ?」

【ノエル姉ェー! タッケテ!】

「え、ええっと、これは?」

【!!! キャー!】


 今度はふわふわと広がったスカートの後ろに隠れた!


「えっと、どうしたのかな?」


 そんな、のほほんとしたノエルの呟きに対し、


「ま、まぁ! まぁ!! まぁ!!! 今度はこんなに可愛い者が!」またも狼さんに変身を遂げると、ノエル頭巾ちゃん、つーかまえたっ! となると思われた。


「えっと、どなたでしょう?」


 ノエルと名乗る少女はするりとかわし、相手の勢いを利用して後ろを取ると、そのまま抑え込んだ。ノエルがするりとかわす時、エプロンの腰ひもをしっかりと掴んでいたデュオは、クルリと遠心力で宙を舞い、着地。


「な、何て事だ!」

「あの凄腕のアサシンアカツキですら、手も足も出ずにやり込められていたのに!」

「あの子は誰だ!?」


 観客席からはそんなどよめきが聞こえて来る。


「くっ! こ、こんな事で、私は負けない!」

【ノエル姉ー! 抑エテテー!】

「え!? う、うん!」


 テテテテテッ! と闘技場の端に飛ばされていったアイテムを回収!



   ・・・   ・・・



『えっと、カラシンさん。あのアイテムが何か、知っていらっしゃるようですが』

『うぅーん、確証は無いんだけど・・・。さっきのは【新妻のエプロン】、だと思うんだ。現に身に着けて居るのはそれだし。でも、年齢が合わないかなぁ』


 見た目、10才ほどに見える為。


『むぅ、ここからは私の推測なんだが、あの子はあの少女を姉と呼んでいた。だとすると、あの子のお兄さんの妻、とも取れたんじゃないかな?』

『『なるほど!』』



「「「「「「「「「「「な、なにぃ!?」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「な、なにぃ!?」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「な、なにぃ!?」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「・・・潰せぇー!!」」」」」」」」」」」」(何を!?)

「「「「「「「「「「「そんな奴は、捕まえて吊るせぇぇぇぇっぇぇぇ!」」」」」」」」」」」」


 と、大いに奇声と共に気勢が上がったそうな?


 血の繋がりは無いものの、実の姉同様な存在とは知る由もない観客達。

 血の繋がりは無いものの、実の兄同様な存在は怖気が走ったらしい?


 デュオの認識としてはそれで合っている?

  単に似合いそうだと思って思い描いていたとは、誰にも分からないし気が付きもしない?



   ・・・   ・・・



 ノエル姉に時間稼ぎを頼み、アイテムの回収に走る! 壁際に飛んで行ったのは見ていたので、それを捜す。・・・見付けた!


 急ぎその場で今までとは違った魔法陣を描き始める。

それは、正三角形に剣十字の紋章。

その中心点に今回収したアイテムをそこに置いた。


 途端、ダメダメ! 止めてェー! と言う声が聞こえた気がするが、気のせいだと判断する事にした! 今は一刻を争う緊急事態だもん!


 キャンディ・ケインを槍の様に構え、突き立てる!

召喚陣からは、勇ましい槍と鎧を纏った赤毛の【男の娘】が現れ「ナ、ナンデ!?」と叫んだ!


「「「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・キョワアアアァァァァッァッァァッァッァァッァァァ!」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「・・・ブフゥ! ゲホガホ!」」」」」」」」」」」」」」


 甲高い異様な程の興奮を秘めた悲鳴!

 もう片方は思いもしない事態に吹き出してしまったらしい!


『な、何とぉー! アレは、何だぁー!?』

『えー、そりゃぁ似合ってると思うけど・・・』


 カラシンには理解出来ない感性の様だ。


『フゥム・・・〈神槍の乙女〉ランスディーシル、なのかな?』


 ロデリックにはソレ男の娘と見抜く眼力補正が無い模様?


『『そ、それだぁー!』』


 司会とカラシンの心からの叫び!



   ・・・   ・・・



 チラリと新たな召喚者を目にした二人。途轍もない妖気が立ち昇る!


 兄妻ニイヅマノエル頭巾のステータスが七倍に増した!

 明王ヘンリエッタのステータスも七倍増しに!?

 〈神槍の乙女?〉男の娘のステータスは万分の一に・・・低下? 否、消え入りそうである。



   ・・・   ・・・



『あー。パワーアップ、のつもり・・・だったのかな?』


 とカラシンが呟くと、司会も心得たモノ、


『おおっとぉー! デュオ選手、時間を稼ごうと応援を呼んだが、裏目に出たかぁー!? だが、力は拮抗しているぞぉー!』

『だが、何故消え入りそうなのかね?』


 無意識に〈ウィップ・クイーン〉を召喚したらしいロデリック。その一言で鞭打たれ、膝を突いて首を垂れ、消え去った【男の娘】にされた〈神槍の乙女?〉。


『『ロデリックさん! 追い打ちしたらダメだろぉー!』』

「「「「「「「「「「ぶーぶー!」」」」」」」」」」


 ワケが分からぬまま、二人に叱られ、とある嗜好者からのブーイングの嵐に見舞われるロデリックであった。



 パワーアップしていた二人のステータスは、元の値にまでシオシオと戻っていった。

更には【男の娘】エリオットが消えた事により、ノエルのステータスが一気に下がり始め、新妻のエプロンだけが残された!

 それに慌てふためくしかないデュオ!


 キャァキャァと、あっちへちょろちょろ、こっちへちょこまかと駆けずり回って逃げ回っている!


「つぅーかぁーまぁーえぇー」


 広い闘技場の真ん中まで追い詰められた! おっかないのである! 涙目である!


【タッケテェー!】


 ズンッ! と魔力の殆どを込め、キャンディ・ケインを地面に突き刺した!

 ただ逃げ惑っていただけでは無い! 8の字に大きく逃げ、時には三角に鋭角に駆け、線を引いていたのである! ・・・偶然ではあるが・・・


 8の字の片方からは、白い制服を着た少女が「うちの子を泣かせるのは、DA・RE・KA・NA? 頭、冷そっか」と凄みを持って表れ。


 もう片方からは、漆黒のマントを身に纏う金髪の少女が「怖かったよね、もう大丈夫だよ」とデュオに駆け寄った。


 残る三角形からは、車いすに座ったの少女がミトン=鍋掴みを両手に嵌め「へ!? な、なんや!? どないしたん!?」と驚きも顕わに戸惑っている。


「まぁ、まぁまぁまぁ!

こんなに可愛い子が、3人も!」


 白い外套に包まれた女の子は、


「全力全開! 〈キャストオンビート〉!、〈パルスブリット〉!」


 それを耳にしたシロエは、これから蹂躙が始まる事を予期し、両手で耳を塞ぐ行動に出た。


 チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!《注・一分間》


 それに対し、ヘンリエッタは冷静に、


「〈ウォーコンダクター〉、〈エレガントアクト〉、〈舞い踊るパヴァーヌ〉」=ヘンリエッタの口伝・三重奏トリオ


 歌舞、鈴、弓弦でそれぞれの音色を奏でる三重奏。


 回避優先のスキルを多重行使し、ヒラリ、ひらりと弾雨の中、踊る様にかわして行く。時に指先で誘導する様に、自分に当たらない様に外して行く。

 偶に掠めるものも有るのだが、事如くがすり抜ける様に消えて行く。ヘイトではなく、ラヴァーで満ち溢れている為、味方への攻撃=無効と判断された?



   ・・・   ・・・



『ヘンリエッタ選手、まるで踊るかのように見事に回避していく!?』

『ハァ!?』

『な、何と!?』


 呆気にとられるしかない!



   ・・・   ・・・



 撃ち終わり、相手に害意が無い事を知ったキャノーラは、この後どうしたものかと思案していると、


「か・わ・い・いわぁー! これは・・・」


 その声にゾクリとしたモノを感じたアカツキは「逃げろ! そこにいるのは危険だ!」と叫んだ!


「え? でも・・・」

「キャノーラァー! 危ない!」


 と少女の叫びを耳にした時、目前でその少女が持つ大剣が振り下ろされた!


「へ? 芙八フヨウちゃん? どうしたの?」


 アサルト・フレームで迎え撃つ芙八! デュオは首っ丈にしがみ付いている!


 大剣の向こうでは、「くっ! あと少しで抱っこ出来たのに!」とヘンリエッタは両手の指をヤワヤワと動かしている。


 それを見た芙八は、手にした大剣を真っ二つに左右を分断し、片刃の長剣で猛攻撃に打って出た!


 それを踊る様に次々に回避し続けるヘンリエッタ!

それはさながら剣舞を舞う様に、華麗に舞い続ける!


「キャノーラは、私の! 渡さない!」

【キャァーアァー!】


 それに振り回され、飛ばされそうになっているデュオ! 離すに離せない!



   ・・・   ・・・



「え、えーっと、ウチはどないしたら・・・」


 離れた所で、何処となく置いて行かれた巴八茶ハヤティー。辺りを見回し、


「あ、もしもーし、そこのおっきなオネエさーん!」

「へ? ウチ?」


 とマリエールが応えた。


「えーっと、ウチ、どないしたらええんやろ?」

「さ、さぁー、どうしたらええんやろうね?」


 車椅子に乗っている相手には、不用意に近付かない分別を発揮したヘンリエッタのお陰で平穏だが、どうして良いか分からなくなった巴八茶。


「とりあえず、呼ばれた以上は魔法でも使った方がええんかな?」

「え!?」

「あ、ウチ、〈妖術士〉やってます。んー、取敢えず挨拶代わりに一発いっとこか、どれがええかなぁ? んー、〈フリジットウィンド〉!」


 巴八手を中心に極低温の突風が嵐となって吹き荒れた!


「あ、うーん、やっぱ助手が居らんと細かい調整が利かへんなぁ・・・ほな、さいなら」


 そう呟くと、ポンッと消えていった。



   ・・・   ・・・



『な、何とぉー! デュオ選手の召喚した者が、闘技場全体を凍て付かせたぁ!?』

『な、何だったんだ!?』

『どうやら〈フリジットウィンド〉による効果の様だね』


 観客席ではガチガチと震える者多数!



   ・・・   ・・・



 それで一通りの攻撃と見なされたのか否か、3人は送還された様だ。

 後には〈パウダースノウ・ブラウス〉で寒さに耐性があるヘンリエッタ。寒さに耐性が無いデュオがガチガチと歯を鳴らして立っていた。


「まぁ、まあ! こんなに震えて!」


 そう言って駆けよって抱き上げて温めようとするヘンリエッタ。


 地を見下ろして足元の雪を、天を見上げ月を、そして闘技場の観客席をみて。


【オネーチャァーン!】と叫ぶ!


「あ、こんな所にいたぁー! デュオー!」

「やっと見つかりましたね!」


 塀を乗り越え駆け寄ってくる美女・・に飛び付く!


【ビビオ姉ェ! ハル姉ェ!】


 その光景に、ヘンリエッタのテンションは平静なものとなり。


「・・・ギブアップ、ですわね」


 思ったより平穏な終わり方だった。



『勝負あり! 勝者、デュゥーオォォー!』



「「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」

「え!? 何々!?」

「・・・どうやら闘技大会だったようですね」


 観客達は美女・・二人に抱き上げられたデュオを祝福して、あわよくばその特殊過ぎる召喚レシピを手に入れようとか、美女二人とお近づきになろうとか?



   ・・・   ・・・



 その後、取敢えずお迎えが来るまでの少しの間、三日月同盟にお世話になる事にした二人。


「えっと、弟がお世話になりました! 小鳥遊タカナシ ヴィヴィアンです! メインは拳系モンクで、サブは魔法少女です! お世話になりまーす! あ、弟とは似てないんですけど、同じ家族です!」

「お世話になります、春兎ハルト マコトです。メインは脚系モンクで、サブも彼女と同じです。/// えっと、宜しくお願いします。私は彼女の・・・友人です」


 姉二人を見上げ、


【ンット、デュオ・ジェイル、デス!】


「「「「「は!?」」」」」


 違和感がハンパないギルドメンバー達。

 さっきまでは確かに大人なだった筈が、一転して縮んだ美少女に!?


「はい! お世話したるからねー!」

「まぁ! まぁ!! まぁ!!!」


 その差異に、さほど気にもかけないギルマスマリエールに、興奮して沸騰寸前のヘンリエッタ!


 のちに小鳥さんと兎さんが狼さんの餌食に・・・ならなかったり? 着せ替えなんかは割と喜んで居たり。



   ・・・   ・・・



後に人は語る、

 私情最強の吟遊詩人ヘンリエッタ無双伝説!

 別名:愛染明王ヘンリエッタの【鬼神転生】



ヘイト=憎悪 - ラヴァー=愛好

対ヘンリエッタ戦では、ヘイトでは無く、ラヴァーの値で全てが決まる!?

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