第5話 修行の製菓2? 食い倒し作戦は失敗に終わりました。

『えー、何だかよく分からないまま終了しましたが、気を取り直し!

 第二戦を取り行います!

  挑戦者はぁー、ログ・ホライズンのぉー、食欲魔人! 直継!なぁーおつぐぅー


『『『ワァー! ヤ・ラ・レ・ロー! 爆発しろぉー!! つけ払えー!!!』』』


 わっはっはっは! と盾を掲げながら現れた直継。何気に飛んで来るモノから身を守っていたりする。


『えー、場内にモノは投げないでください! 小さな子に当たったらどうすんだぁ、コラァー!』


 との一喝により、モノが投げ込まれる事は無くなった。


『さてはて、今度はどんな戦いが繰り広げられるのか、興味は尽きません!

 ・・・では、両者構え! レディー・ファイッ!』


 開始と同時に、また青い物体が直継に向かって飛び掛かる!


 それを敢えて正面から大口を開けて待ち構える直継! そのまま青い物体が口の中に飛び込む! ソレを一口で頬張ると、


「・・・甘いぞぉー!」


 モグモグしながらそう吠えた。


『えー、今のは感想で良いのでしょうか?』

『多分、そうなのだろうね』

『あー、十中八九そうだろうねー』


 二人がそう答えている間に動きがあった。


『お? おおっと! デュオ選手、今のは牽制だったようです!

次なる召喚に入っている模様! さて、今度は何が出るのでしょう!?』


 デュオの足元から、茶色い巨体が現れて来た! その肩に乗り、指示を飛ばす!


『何と! ゴーレムです! 焦げ茶色からするとぉ、土のゴーレムかぁー!』


 イヤイヤ、違う違う。とばかりに手を振り、顔を横に振る解説の二人。


「うおおおっ! 掛って来いやぁ!」とアンカーハウルを展開し挑発する直継。


 その掛け声と同時に、巨大な拳が直継を襲う!


 直継はソレを敢えて正面から、両手を広げて敢えて待ち受ける!


「うおおぉぉぉ、おっ!」


 その直後、直継は武器と盾を手放し、姿を消した。


『な、直継選手! 姿が消えたぁー!? 新手のスキルかぁー!?』

『あー、アレだね』

『うんうん、そうするだろうねー』


 そんな驚きの声と呆れた様な声が響く中、


「うんまいぞぉー!」


 と、ゴーレムの肘の辺りから叫び声が・・・


『へ? 直継選手の声が、ゴーレムの中から?』

『アレは元々が柔らかいからねぇ』

『ウンウン、ダメージにはならないね』


 司会の疑問にカラシンとロデリックが応えた。

その直後、振り抜いた拳の後に直継が現れ、それと同時にゴーレムの片腕が無くなっている。


『え、ええと、伺っても?』

『気が付いてない? この会場中に広がる甘い匂いに』

『それが最大のヒントだね』


 そう言われ、鼻をスンスンとひくつかせる司会。


『確かに、砂糖が焦げるような甘い匂いが・・・まさか!』

『そう、そのまさかだ。いやぁ、最初はスゴイビックリしたよ!』

『まさか、殴られてめり込む羽目になるなんて!』


 つくづく不思議な体験をしたと振り返る二人。


『えっと、ゴーレムの拳にめり込んだ、って事は・・・アレは、スポンジケーキ!?』

『当たらずとも遠からず』

『何でも体が資本とかで、シフォンケーキなゴーレムらしいからね』


 会場中が違う意味でどよめいている。


『えっと、どうしたらそんな事が・・・』

『さぁ、さっぱり』と両手を方の上でヒラヒラさせるカラシン。

『さっぱり、謎のままだよ。ただ、誰が体がシフォンと教えたんだろうね』とロデリックも答えた。



 うあっちゃぁー、という様な顔をしている応援の陣頭指揮をとっていた一人の観客。

彼氏を応援するか、お家の子を応援するか迷っていたのだが、思わぬ展開から自分が原因かもしれないと気が付いたようだ。



 再度、反対の手も繰り出すゴーレム!

すかさずもう一方にも、文字通りに喰らい付く直継!

 そうなると、今度は蹴りつけるか踏み付ける事しか出来そうもない。


「まだまだ食えるぞぉ!」


 直継はそんな雄叫びを上げている。


 その雄叫びに身の危険を感じたのか、闘技場の端へと駆け抜けるゴーレム。


『おおっとぉ! デュオ選手、打つ手なしかぁ!?』

『あー、今回教えたのはアレだけだからなぁ』

『うむ、後はこの危機に新たな手を打つしかないな』


 弟子のピンチなのに、ワクワクした様子を隠そうともしない師匠のロデリックとカラシン達。


『へ? という事は?』

『今のところは打つ手なし、かもしれない』

『どうも、他が上手く行かないからね。実戦さながらの訓練ならと考えて見たんだ』


 そうこうしている間にも、直継は闘技場のど真ん中に陣取った。


「さあ、どうしたどうした! もうおしまいか?」


 そう挑発すると、相手はゴーレムから地面に降り立ち。【おでこ】に掛けていた見覚えのある眼鏡を手に取った。


「ん? あれは・・・ひょっとしてシロの眼鏡か? 何であんな所に・・・」


 直継の微かな呟きを聞き取ったアカツキは、主君の眼鏡が何時もと微妙に違う事に気が付いた。


「主君、つかぬ事を尋ねるが。最近、眼鏡を替えたのか」

「え? ああ、一寸外してたら無くしちゃったみたいでね」

「それは、何時頃?」

「えっとあれは・・・」


 後に続く日時を聞いて、思い当たった。間違いない、アレは主君の、シロエの眼鏡だと。

 どういった原理なのかは判らないが、茶葉と入れ替わったようだ。


 その眼鏡を高々と掲げて何かを確かめ、地面に置いて眼鏡を中心に円を描き始めた。

そう、この眼鏡を手に入れてから、内から聞こえて来る声に従い。

 最初に大きく、その内側にもう一つ、更に内にと、複雑な模様を迷わずに描いて行く。


『おおっと、デュオ選手。今度は何を見せてくれるのかぁ!』

『んん? 円の内に円?』

『どうやら何重もの円が重なった様な陣形の様だね』


 そんな解説の間に書き終わったのか陣の外側に立ち、杖を手にして陣の傍に突き立てた。


『おおっ! 何時の間にやら準備が終了したもよう! デュオ選手、試合開始から初めて杖を手にしたが、とても似合っているぞ! 良い仕事振りだグッジョブ!』

『あれは、その・・・どう見てもクリスマスの飴杖キャンディ・ケインだね』

『確かに白と赤の縞々だ。誰が用意したのかな?』


 ソレはクリスマスの時の飾りだった。

三日月同盟のメンバーに模擬戦の武器を相談した所、これが一番似合うだろうと勧められたモノ。


 そうこう言っている内に変化が訪れた。

動かない筈の円陣が、徐々に動き、外周に沿って回り出し、更にその内の円の中心に置かれた眼鏡から黒いモノが噴き出した。

 その黒が、眼鏡を持ち揚げ、徐々に人の形を取って行く。


 その展開に心を囚われ、誰もがただ静かに経過を見守っている。


 人の形を取った黒は、徐々に色を薄く、別の色へと変化していく。


 髪と思われる所は薄茶に代わり、左右で括られた。


 顔と思われる所は白く、\○-○/眼鏡の奥に見えるまなこは細く閉じられたままだ。


 その身に巻き付けたアウターウェアは、襟刳りが黒の毛皮ファーで覆われ、他はくすんだ銀色をして足首の辺りまでを覆い隠している。


 最後に、眼鏡の奥の眼が、細い金線を描きながら楕円へと移行し、真ん丸な金色こんじきを湛え、直継を凝視した。


 流石に身の危険を感じ、身構える直継。だが、その身には既に変化が訪れていた。


 ポタリ、ポタリと、赤い雫が直継の足元を濡らす。徐々に赤い色が足元を染めていき、滝の様に流れ落ち始め、直継はその場に崩れ落ちた。


『し、試合終了! 担架だ! 担架!』

『な、何が!?』

『ど、どうなったんだ!?』



   ・・・   ・・・



 観客席からも関係者が次々と飛び込み、直継へと駆け寄る!

一方、会場の警備にあたっていた黒剣騎士団のアイザックは剣を携え、召喚された者へと向かって行った。


「さて、何がどうなったのか、聞かせて貰おうか」


 アイザックは鞘に収められたままの剣を肩に担ぎながら、召喚された者と召喚術師に向き合った。


「はぁぁん! これよ! この感触! もー放さないわ!」


 そう口にしながら召喚術師デュオをわしわしと抱き締めて放さないで居る。抱き締められてその胸に埋没して一寸息苦しそうだ。だが、困ってはいない様に見える。


 外野がこの状況を羨ましいと見るか、この非常事態にと思うかは二分している様だ。


「おいおい、こっちの話を聞いて貰えねぇか」

「はぁ? 邪魔よ、私は口を利く位なら、この子を抱っこして頬ずりして居たいの」

「かぁ! 話になんねぇ。おい、誰か! コイツらを見張ってろ!

何が起こるか分からんから気を付けろ」

「「「はい!」」」


 アイザックは、その返事を最後まで確かめずに、今度は倒れた直継の元へと足を向けた。そのままでも逃げたりはしないだろう事は分かるのだが、未知の出来事には念を入れておく事にしている。


「よぅ、様子はどうだ?」

「さっぱりですね」


 そう答えたのはレザリックだ。マリエールも傍にいるのだが、動揺していて話にならない。


 倒れた直継と鎧の前面を濡らす血の赤。


「一切ダメージを負った様子が無いのに、意識が飛んでるみたいで。顔が赤くて凄い興奮状態みたいですけど、何処といった異常が見られません。何かうわごとみたいに『ここは天国だ』って呟いてるんです」


 アイザックは、ここ一番で一番当てになる相手に話を聞く事にした。


「・・・腹黒! これは一体何が起こったって言うんだ?」

「召喚による、特殊な効果だと思う」

「それだけか? 解除する方法は?」

「こんな事は初めてだし、とりあえずは掛けた本人に方法を聞き出すか、解呪アイテム〈秘薬オスクルム〉を試して見るべきかな?」


 さっき見た光景を思い出したアイザックは、


「・・・聞き出すのは無理そうな気もするが」

「まぁ、何事も試してみないと」


 そう言うと元凶の元へと足を進めた。


「あの、お話を伺っても」

「何? 私は今忙しいの。手短にね」


 そういう割に、子供をその胸の内に抱き締めているだけなのだが。


「えっと、直継に何をしたんですか?」

「夢を見せているだけよ。飛びっきりの夢をね」

「それを解除する方法は」

「時間が経てば目覚めるわよ。自然にね。良い夢見てるんだから、ほっとけば?」

「そうもいかないんです。直継は、大切な仲間だから」


 それを聞いて一寸だけ考え、


「・・・そう、だったらどんな夢を見ているのか、それを確かめてからでも良いんじゃない?」

「そんな事が?」

「ええ、今の私は【ナイトメア】。どんな夢なのか、見せてあげられるわよ」


 そう言うと、デュオを抱きしめたまま立ち上がり、直継の元へと向かった。


「直継やん、直継やん! 起きてぇな!」


 ゆっさゆっさと直継を揺すり起こそうと試みているマリエールと、共に揺れているマリエールを凝視する面々。


「退きなさい、邪魔よ」

「な! 誰や!」

「マリ姉、直継を起すから」


 そう言ってマリエを直継から引き離す。


「ふぅん。じゃ」


 と言うと、直継の額に手を置くと「アビリティ発動、銀幕投影シルバーカーテン」そう呟くと、足元から召喚された時の様な多重の円陣が展開し、その頭上に三角柱が現れた。


「ん? んー、良し。デュオはコッチねぇ♡」


 そう言うと向かい合う様に抱き寄せ、ぎゅぅっと身体を使って目と耳を塞いだ。


「な! う、羨ましい!」などと周囲から聞こえて来たが、黙殺する。


 三角柱の三面には、直継の姿が映し出された。


「な、直継やん!」


 次に映し出されたのは足に履く機器で空を飛ぶ魔女達。その勇姿という名の後ろ姿を、目に、心に、魂に焼き付けんとする直継。直継が夢見るだろう桃源郷が、そこにはあった。


  【・・・じゃないから恥ずかしくない!】と叫ぶ魔女達に対し、

「そうだー!」


 寝言なのか、唐突に大声で叫び、拳を振り上げる直継。


「な、直継やん?」

「し、師匠!?」

「・・・直継」

「しゅ、主君! これは、目に毒だ! 一刻も消毒を!」


 と叫ぶと、手持ちの目薬=〈卵目潰し〉を躊躇なくシロエに投げつけるアカツキ。

目潰しが風に舞い、混沌と化す周囲。


「「「目、目が、目がぁー!」」」


 そんな周囲の状況の中、痛む自分の目を真っ先に魔法で癒すマリエ。

次にした事は、自分を見る目が無い事を確かめると、マジックバッグから小振りなメイスを取り出した。


「直継やん、起きろぉー!」 ごめす! と叩きつけ、ヒール!=証拠隠滅? 起きて来ない事を確認する。

「直継やん、起きろぉー!」 ごめす! と叩きつけ、ヒール! それを数度、極短時間の内に繰り返した。


 流石に 「う、ぅうん・・・」と呻き声が聞こえて来たのを確認すると、メイスをそそくさと仕舞い、膝枕をして直継が起きるのを待つマリエ。


「ん、うぅーん。あれ? オレ、寝てた?」

「おはよう、直継やん。ええ夢、見れたか?」

「ん? おう、何かすっげえ夢みたいな夢を見てた気がするんだ」

「たとえば、あんな?」


 そう言って頭上を指差したマリエ。


「どれどれ?」 


 その指先を辿り、ピキッ! と硬直する直継。


 勇姿を焼き付けて居る自分の姿が大写しになっていた。


 直継は後々、夢の様な桃源郷が、一瞬で凍りつく元凶=凍元凶へと変わったと語る。


 勝者・デュオ T.K.O勝ち?

召喚術の触媒となるアイテム・・・らしきモノを手に入れた?


出血はご想像の通りです。

非公式名称・メガ姉がナイトメアとして召喚されました。



   ・・・   ・・・



次回 吟遊詩人・最強伝説?


『成り上がり三日月同盟からぁ大幹部・鬼の副長ぉ、ヘェンリィエッタァー!』

「「「う、うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」

「「「鬼の副長ぉぉぉぉぉ!」」」

「「「頑張ってェー!!!」」」


 ヘンリエッタはかくっとコケ「だ、誰が鬼の副長ですかぁー!」と吠えたとか?


(ホントの様な嘘のお話?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る