第2話 初めての召喚術?

保護されてから数日・・・


 トウヤとミノリに構って貰いながら、基礎動作を身に付けたデュオ。

 召喚術師が主に後衛である事と、師範システムを使うまでもない程レベルの差がある為、取敢えずはそのまま近場で低Lv.のモンスターを退治しに行く事になった。


 お弁当にクレセント・バーガーを持ってのハイキングである。


「そらそら! 掛って来い!」


 向かい来る雑魚モンスター達を挑発する事によって、自分へと惹き付けるトウヤ。


「頑張って下さいねー」


 割と気軽に応援するセララ。


「トウヤ、ダメージが低いからって油断しないの!」

「わぁーってるって! そろそろ自分でやってみな! そら!」


 トウヤは加減しながらある程度ダメージを加えた雑魚を一匹差し向ける。

 それに対し、デュオは木の杖で思いっきりのスイングによってカッキィーンとばかりに弾き飛ばす!


「おー、飛んだなー!」

「もー、倒せたけどそれは・・・」

「わぁー、飛びましたねー!」


 エッヘン!


「おーしっ! じゃあ、次な!」


 次もまたホームランでカッ飛ばした!


「はぁー」

「お、やってるなぁー」


 駄目だとばかりに呆れ気味なミノリ。そこへ五十鈴が様子を見に顔を出して来た。


「ルディー、こっちこっち!」


 来た方へ向って手招きしている。


「おし、次行くぞー!」

「どれ、どんな具合だい? !!」


 カッキーン! と迫り来る雑魚! ピッチャー返しか!?


「ぅわわぁ!」


 咄嗟に仰け反り、事無きを得たルンデルハウス。


「だ、大丈夫ですか!?」

「はわわわ、お怪我は!?」

「わ、ワリィ、ルディ兄ちゃん!」

「あははは、あははは!」


 心配するミノリ、咄嗟の事とは言え謝るトウヤ、お腹を抱えて大笑いしてしまう五十鈴。


「フ、フッ、何のこれしき! 華麗なるボクにかかれば、何て事はないさ!」


 大丈夫? ゴメンナサイ、とばかりにポフポフと肩を叩くデュオ。


「な、なに、ボクの事は心配しなくても大丈夫だ。君は君の修行にはげみたまえ! ハッハッハッ!」


 その様子をコッソリと離れた所から見詰める男。


「! ア、アイツら・・・」


 男は徐に宙に手を伸ばした・・・



   ・・・   ・・・



 お昼のお弁当を食べ終わり、さてまた修行を再開するかと立ち上がった頃、


「オイ! 手前テメェら!」


 急な怒鳴り声にパーティー全員が振り向くと、そこに居たのは、かつてアキバの街を追放された元ハーメルンの面々。


「あの時の借り、返させて貰うぜ!」


 それに対し、即座に行動を起こすミノリとトウヤ。


「トウヤ!」

「ああ! もうあん時みたいにはいかないぜ!」

「そうだよ! アンタ達の言いなりにはもうならない!」

「フッ、ボクにかかれば君ら如き」

「わわわ、デュオ君は後ろに隠れてて!」


 コクコク!


 兎にも角にも、デュオは後ろにそびえ立つ岩に身を隠した。

その頃には既に戦闘は始まっていた。

 相手とのレベル差は大きいが、最初は押され気味ではあったが、連携が整っている分、その差を埋めるに至っていた。


「くっそがぁー! こんな筈じゃネェだろーが!」思っていた様に行かない事で苛立ったハーメルンの元メンバー。

「ハン、お前達が連携出来て無いだけだろ!」口でも負けぬ様にと、言い返すトウヤ。

「クッ、言いやがったなぁ!」


 そう悔しがるような口を利く相手だが、何処か余裕がある様な素振りが見え隠れしているのが、ミノリの目に映り、相手の目が何かを伺っている様にも見えた。そう、自分達の更に後ろを気にする様な・・・


「・・・! トウヤ! 気を付けて! 何かおかしい! セララさん! ルディさん! 後ろにも気を付けて!」


 そう言われ、後ろを振り返ろうとする二人の目に、さっきまで居なかった相手が目に飛び込んで来た!


「ヒャッハッハッハァ! 遅せぇ遅せぇ!」


 そこにはデュオに刃物を向ける、忍び装束の男が居た。


「遅せぇじゃねえか!」

「お前達が弱っちくなったからだろうが!」

「ああ゛、そんな訳有るか!」


 そんな言い争いをする相手に、ミノリは叫んだ!


「な、何をしてるんですか!」

「何って、人質だ! 全員、その場を動くな!」


  直に動きを止め、トウヤもそれを見て叫んだ!


「テメェ! 恥ずかしくないのかよ!」

「う、うるせぇ! テメェらばっかり、良い思いしやがってぇ!」

「それはアンタ達があんな事をするからでしょ!」

「そ、そうです! どうしてそんな事を!」

「黙れ黙れ黙れ! 言いたい放題言いやがって!」

「フム、話には聞いていたが、君達は君達がした事のツケを自ら払う事になっただけでは?」


 そう言い合っている間も、デュオは自分で如何にかするべく色々と思いだした。



   ・・・   ・・・



 訓練に出る前、シロエから召喚術について学んだ簡単な基本を思い出した。


「良いかい、召喚術は契約を結んだ相手をこちらに招き、一緒に戦って貰う魔法なんだ。

 だから、誰に来て貰いたいとか、何をして欲しいのかを良く考えるんだよ」



   ・・・   ・・・



 だから、何時でも何処でも助けてくれる人を!


タッケテ、ママー!】


 迫る刃が眼前で止まった。


「な、何者だ!」


 そこには、刃を握る手があった。握られた手からは血が滴り落ち、それでも固く握り締められている。


 そこに現れたのは、白い外套に包まれたの女の子。


 男は恐怖した。こんな子供が刃を掴んで放さない事もあるが、それが1mmたりと動かない事と、目の前の相手の眼が自分を見ている筈が、何処までも遠くを見ている様に感じた事に。 =ハイライトの消えた様な目


「ウチの子供に手を出すのは、君かな? 少し、頭冷そっか」


 杖を地に刺して手放し、相手の顔に向かって掌を向けた。 =手加減をする為


「〈キャストオンビート〉、〈パルスブリット〉」


 その掌に、無数の光の粒が集まり始める。


「な、何だ・・・」


 男は安堵した。既知のその魔法を使うという事は、相手が付与魔術師であるという事を示している。

 それは初撃を凌ぎ切れれば簡単に返り討ちに出来るという事。


「ザケンな、驚かせやがって!」


 だが、男は知らない。これからが地獄の始まりだという事を・・・



   ・・・   ・・・



 軽めの低音が辺りに木霊する。


 チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!《注・一分間・48発》


 男の顔が上下左右、斜め右上、斜め左下、斜め右下、斜め左上へと縦横無尽に弾かれていく。

 それでもHPゲージはさほどには削れない。やっと相手の5%程だろうか。

 だが、相手にとってはこれ以上ないダメージにはなったようだ。


「た、助け・・・」


 何とか武器を手放し、それで逃れようとした男。

 這い蹲り、何としてでもその場から逃れようとする。


「あれ、ドコに行くのかな? まだ、O・HA・NA・SHIは終わっていないんだけどな」


 そう言って、相手の腕を掴んで引き上げた。異様な光景である。

 年端もいかない様な女の子が片手で大の大人を掴み挙げているのだ。

 この世界で有れば有り得ない事ではないと思うのだが、それでも恐ろしいと感じている忍装束の男。


「ひ、ひい!」

「そっか、私のO・HA・NA・SHIは、まだ解って貰えないんだね・・・

 じゃあ、ジックリと、O・HA・NA・SHIの続きをしましょうか」


 そのO・HA・NA・SHIが開始されてから、終始唖然とした表情で固まってしまった面々。


「ま、待ってくれ! お、俺は判った! だから、別の奴に!」


 そう言って、ハーメルンの元メンバーを指差した!


「な! テ、テメェ! 仲間を売るつもりか!」

「俺はもう、こんな事はうんざりだ! 真っ当に生きるんだ!」

「じゃあ、次は・・・DA・RE・NI・SI・YO・U・KA・NA?」


 その視線を向けられたハーメルンの元メンバー達は、余りの異様さに我先にと逃げ出そうとした。


「何処へ行くのかな? まだ、O・HA・NA・SHIは終わってないし、逃がさないよ〈ナイトメアスフィア〉」


 いつもに比べ、遥かに速度が落ちた隙に、


「〈アストラルバインド〉」


 魔力の糸により、次々に拘束される者達。


 杖の宝玉が輝きを増し、辺りを桜色の光で覆い隠す。

 その輝きと光が収まるとその場にはの大人の女性。

 先程の女の子が十年経てばそうなるだろうと思われる姿だった。


「〈ヘイスト〉、〈フォースステップ〉、〈メイジハウリング〉、〈カルマドライブ〉、〈インフィニティフォース〉、〈キャストオンビート〉、〈パルスブリット〉」


 立て続けに呪文が唱えられ、幾つかの魔法陣と共に、その効果を示すアイコンが複数現れた。

 その後は、桜色の光が乱舞し、地形が変わり果て、焼け野原と化した・・・


 跡には呆気にとられたまま、立ち尽くすトウヤ達、ログ・ホライズンのメンバーだけが残された。

 ハ-メルンの元メンバーは千々に逃げ去って行った。

 その際は、HPゲージが九割九分、削られた状態で・・・



   ・・・   ・・・



 元ハーメルンの男達が後々に語ったのは「一発一発が母親のビンタの様だった・・・」と供述したらしい。


 後に、魔王(?)召喚と呼ばれる第一歩だったと・・・語られる、らしい!


 その様を偶々遠目に見掛けた者は、「What's this? CRAAAAAAAZYYYYYYYYY Enchanter!!」と叫び声を挙げて走り去ったらしい。



   ・・・   ・・・



 女性は片手でデュオを抱き上げて、ミノリ達の元へ。


「えっと、ウチの子がお世話になってます」


 圧倒的な戦闘を見せつけられ、唖然としていたが、声を掛けられた事により我に還ったミノリ。


「・・・あ! イエ! 私達の方こそ助けて頂いて! ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ。ウチの子供デュオがご迷惑をおかけしています」

「あ、あの! お名前をお伺いしても・・・」

「はい、キャノーラです」

「あ、申し遅れました。私はミノリです!」

「ミノリさん、ですね。すみません、ミノリさん」

「は、はい!」

「一寸時間切れになっちゃったみたいで、デュオの事、もう暫くお願いしても良いですか?」

「はい!」


 そう返すのでやっとだった。


「この子の事、もう暫くお願いしますね」


 そう言って、抱き上げていたデュオをミノリに預け、足元からポリゴンが立ち昇り、薄くなって消えて行った。


「な、なぁ、ミノリ。今の人は?」


 やっと我に還ったトウヤはミノリに尋ねた。


「えっと、キャノーラさん。デュオ君の、お母さんだって」

「ええっと。て事は、デュオ君はお母さんを召喚したって事で、良いのかな?」

「そ、そんな召喚術は聞いた事が無いんだが・・・」

「はわわわ、凄い人だったんですねぇ!」


 戸惑いながら何とか状況を呑み込もうとする五十鈴と、その事で困惑するルディ。

素直に凄い人だったと認め、感嘆しているセララ。


「あ! シロエさんから念話だ。はい、ミノリです!」

【ミノリ? そっちは今、大丈夫?】

「は、はい! ハーメルンの元メンバーに狙われましたけど、全員無事です!」

【そっか、良かった。今入った情報に、ミノリ達が居る場所で凄い事が起こったらしいって連絡が入ってね】

「はい、凄かったです! 〈付与術師〉で物凄い人に助けて貰いました!」

【そ、そうなの? 兎に角その辺の事も聞きたいから、一度戻って来て貰っても良いかな?】

「はい! 街へ戻りますね」

【じゃあ、ギルドホールで待ってるよ】


 そう言って通信が切れた。


「あ、デュオ君?」


 抱き抱えていた事を思い出し、声を掛けるが反応が無い。


「どうした、ミノリ」

「デュオ君が、動かない」

「ん? ああ、何だか気持ちよさそうに眠ってるぜ」


 そこには安心しきった寝顔で、すこやかな寝息を立てるデュオが居た。


「え?」

「ホント、気持ち良さそぉ」

「あ、判りました! MPが切れちゃったんですね」


 五十鈴がそう言うと、セララも気付いた事を口にした。


「何? それなら仕方が無い。そのまま寝かして上げようじゃないか」


 誰よりもMPが切れる意味を知るルディ。



   ・・・   ・・・



 その後、付与術師を馬鹿にする愚か者には・・・ママのO・HA・NA・SHIが開始されると、実しやかに語られる様になったそうな・・・



   ・・・   ・・・



 急ぎアキバの街へと戻ったトウヤ達だったが、途中でMPが完全回復して目を覚ましたデュオ。


「な、何とも無いのか?」

「何処か痛いところは?」

「気持ち悪いとか、吐き気がするとか!」

「えっと、えっと、のど渇いてませんか?」

「うぅーん、熱は・・・無いみたいだね」


 だが、キョトンとした様子で何を大騒ぎしているのかといった具合だった。


「と、取敢えず、シロエ兄ちゃんに指示を仰いだ方が良い!」

「そうだね、急ごう!」

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