第92話シャルロッテぇぇぇぇ!!!!!

アーモダン大王に会うことは決まった。

団長と打ち合わせをしていると、イリアンとノーデリアが連れ立って現れた。

 決然とした表情のイリアンが口を開く。

「タネツケさん、出かけてしまう前にお話したいことがあります」

「うん?」

「わたくしとノーデリアさんはアルバを離れてデポの学校に入りたいんです。イシュタルテアで魔法もかなり使えるようになりましたし、デポの管理者にもなれると思います」

 俺は団長と顔を見合わせた。向こうも初耳らしい表情をした。

 団長が言う。

「わたしとしては異存はない」

 次は俺が答える。

「そうか。イリアンとノーデリアだったら護衛の頭数にも入るな。俺たちがいないあいだにアルバの世話をしてくれる人も入ってるし、イリアンとノーデリアは最前線では戦えない。かといって後方の世話というも役不足だ。なかなかいい選択だと思うよ。出かける前に入学の手配をしとくよ」

「ありがとうございます!」

 団長が言った。

「ところでロシューはなんと言っている? ロシューもデポに行くつもりか?」

「いいえ。兄はクラウパーと一緒に戦いたいようです」

「そうか」

 イリアンの兄であるロシューは、アデーレの弟であるクラウパーと同性の恋人同士だった。

 そういえば、イリアンとノーデリアもずいぶん仲がいい。

 同性愛を好む家系なのかもしれないな。

 俺はイリアンの肩を叩いた。

「そっちも頑張ってくれ。みんなには俺から言っておくよ。これが今生の別れでもないし」

「お願いします。わたくしたちは準備を急ぎますから」

 イリアンがそう言うと、ノーデリアも澄ました顔で静かに一礼してくる。

 かと思えばイリアンの手をとってキャッキャと笑いながら走り去ってしまった。

 やはり、ありうるな、あの二人……。

 二人を見送って団長が向きなおる。

「それで、いつ発つ?」

「明日の夜明け前にでも。それで昼までには向こうに着きます」

 

 ☆☆☆


 まだ星の瞬く早朝。

 俺は白銀の鎧を装着して、みなに挨拶した。

「それじゃ、行ってくる」

 だが、俺を見送るために早起きしてくれたいつものメンツは、半ば呆れ顔をしている。

 なぜなら、俺の胴体にはペルチオーネがコアラのように抱きついていたからだった。

「えへへー」

 空気読め。顔が近い。

 俺は無表情で言ってやった。

「おまえが落ちても拾いに戻ったりしないからな。剣を抜くだけだ」

「落ちないもーん」

 俺たちを覚めた目つきで眺めながら、腕組みしたナムリッドが言う。

「緊張感のかけらもないんですけど?」

 俺も同意するしかない。

「俺たちに緊張感が走るのってホントに死ぬかどうかってときだけだな……」

 唇が触れる距離でペルチオーネが囁く。

「あたちこのごろ、よっきゅーふまーん」

「おまえがヒマなのはいいことだ。俺たちはドリフティングウェポンが活躍しないような世界を作るんだ! それじゃ行ってくる!」

 背中のジェットを噴射して一気に舞い上がる。

 水平飛行に移って、まっすぐ西を目指して飛んだ。

「わーお、スリルまんてーん!」

 ペルチオーネは首をくるくる回して喜んでいる。

 俺たちは夜明けの紫と茜色の空の下、暗い湖の上や峨々たる山脈にそって直進した。

 曙竜の帝国の気配はないかと探りながら飛んだが、エッジブルーより西は穏やかなものだった。

 点在する村々も平和そうな朝を迎えている。

 大きな山脈があるため、エッジワンから攻めるには迂回路がないからかもしれない。

 敵だって人員には限りがあるはずだ。

 世界中を一気に攻めるというわけにはいかない。

 アーモダン大王のいるフォーソロス宮殿は、戦場からかなり離れている。

 アーモダン大王は軍事力と財力から人類側の総大将ということになっているんだろうが、前線に出てくるタイプではないということだ。

 太陽が完全に顔を出し、晴れ渡った青空のなかを進む。

「ん?」

 なにか直感に訴えるものがあって、目を凝らして周囲をうかがう。

 はるか遠くに宙を飛ぶ点が見えた。

 そちらに近づくと、向こうも気づいたらしく、こっちへ向かってくる。

 一瞬敵かと思ったが、それもつかの間のことだった。

 こちらへ近づいてくる飛行物体はシャルロッテだった。

 長に面会しての帰り道らしい。

 トークタグを起動する。

「シャルロッテ、そっちはどうだった? 俺はこれからアーモダン大王に会ってくる」

「下に降りてお話しましょう。空中では忙しないですから」

 その言葉が終わらないうちにも俺たちは至近距離に入っていた。

 お互いのかたわらを通り過ぎ、旋回に入る。

 純白のドレスに身を包んだシャルロッテが大きく翼をはためかせた。

 俺たちはくるくるとまわりながら降りていった。

 ひとけのない川のほとり、二人して倒木に腰をおろして、俺たちは近況を報告しあった。

 シャルロッテがドレスをしまって制服姿になっていたので、俺も礼儀に反するかもと思って鎧を収納していた。

 ペルチオーネは川に入って石をひっくり返したりしている。

 まとめるような口調でシャルロッテが言う。

「それで、わたくしが夜の種族ではなくなってしまったことは確かなのですが、いまの力の源は夜の種族と同質で、より起源に近い純粋なものらしい、ということなんです」

「いまの力の源は俺、というよりボンゼンブードーじゃないか。なにか関わりがあるのか?」

「わたくしはもとより、長もよくわからないようです。なにか不可思議な縁が起こっているのを感じられるというのみで」

「そうか。おもしろい話だけど、いまはなにかを確かめる材料もない。帰ってからゆっくり考えよう」

「そう……、ですね……」

「じゃ、俺は行ってくる」

「待ってください」

 シャルロッテが俺の手をつかんで引き止める。

 懇願するような表情でくちびるを開く。

「わたくし、あなたの妻となったはずですが、まだその、ち、ちぎりというか……その……み、みなさんのいるところでは恥ずかしくて、その……」

 いつもは冷たいシャルロッテの瞳が熱く潤んでいた。

 青白い太ももと太もものあいだ、スカートの奥からシャルロッテの匂いが立ちのぼっている。

 俺の妻のひとりであるシャルロッテが情けを求めているのだった。

 それには応えねばなるまい。

 体の方はもろちん、硬く準備万端だ!!!

「シャルロッテ……」

 剣を引き抜いてソードリングを消したあと、俺は優しく、草むらの中にシャルロッテを押し倒していった。

 軽く一時間は身体を重ねた。

 シャルロッテは冷たそうな外見とは裏腹に、熱くて湿り気の多い女だった。

 あのシャルロッテがこんなに情熱的だとは思わなかった。

 熟れた匂いも強く、いままでの女でいちばん香り高い。

 俺はその匂いにことさら興奮した。

 一回戦を終え。

 二回戦に突入し。

 三回戦目でまだ飽きず。

 四回戦目でちょっと時間のことを考えて。

 なんとかそこで踏みとどまった。

 シャルロッテは背中を向けて自らの滴らせたものを拭っていた。

「ああ、こんなになるなんてしらなかったものですから……恥ずかしいです……」

 太もものみならず、膝の裏、さらにふくらはぎまでていねいに拭いている。

 すべてを知ってしまったあとだと、そういう姿もいやらしい。

 俺がベルトを締めているとシャルロッテが不意に向き直る。

「わたくし、あなたの妻になれたこと、自分で思っていたより幸せでした……」

 その蕩けたような笑顔が!

 俺の!!

 本能を焚きつけるッ!!!

「シャルロッテぇぇぇぇぇぇ!!!」

 俺は再びズボンを脱いだ。

 もう今日の昼には間に合わない。わかってる。

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