第3話「煽り、仰ぎ」

午史うましは、次の授業を担当する准教授についての悪い噂を聞いてしまい、緊張と不安で頭がイッパイイッぱぃ☆になってしまった!

はたして、午史はこの大学生活をどう乗り切っていくのか……!?




いよいよ教室前方の扉が開き、1人の女性が教壇へと向かった。



その女性が、まさに、午史たちが噂していた助教授:"斉藤さいとう華香けこ"であった。


ついに教室に斉藤 華香"がやってきたぜHEY,HEY,HEY.



午史は当初、大学の教授といえばジジイかババアしかいねエんだろうなという半ば失礼な偏見を抱いていたのだが、午史の予想に反し、パっと見若そうな女性だった。



「ふぅーん、意外と若い人が講義やるんだね。」



午史がボヤいたのも束の間、前回のエピソードで独特な目本めっぽん語を披露した逆立ち君の隣で変な形をした緑色のGBA(ゲームボーイアドバンス)をずっと弄っていたボサボサ頭の金髪チャラ男(たぶん。金髪なんだから、たぶんチャラい。たぶん。)が口を挟んできたのだ。(以降、彼のことを"ボサ男"と表記する。)




「ぃーゃ、よぉく見てみ。実はそうでもねえぜ。」




ボサ男が言ってきたので、午史も目を凝らしてみたものの、午史は絶望的に視力が無い。それでいて裸眼で生活をしているのだから、他人からはよく「視力悪いのによく普段裸眼で生活できるのね」と言われる。聞かれたときはいつも「大丈夫大丈夫。生活には支障をきたしてないレベルだから。」と答えていた午史だったが、最近はいよいよ日常生活に支障きたすレベルにまで目が悪くなってしまったのだ。





「す、すまん。目が悪くてよく見えねえ……」




ボサ男は、「やれやれ」とでも言いたげな表情をしている。




生姜しょうがッねェーなあ。ほれ、オレが12才の頃の誕生日に妹から貰った望遠鏡貸してやっから、その腐っㄘょる目でかっぽじってょ~く見ゃがりなぁ!」




ボサ男から唐突に望遠鏡を渡されたので、仕方なく午史はそれを使い、華香(けこ)ㄘんの顔を覗いてみた。どうでもいいが望遠鏡の端っこにかわいらしいカモメの絵が描かれている。かわいい。



望遠鏡で華香ㄘんの顔を凝視し、25秒後、午史は、気づいしてしまった。





「……けっこう皺あるやんけ。」







華香ㄘん、結構シワあるヨ~☆




そのパっと見若そうな外見というのは結局お化粧パヮーでしかなく、皺は防ぎきれていないのである。……まぁ、仕方ねえもんな。ボサ男の情報だと、40代いってるって噂だけど、まぁ40代だったらしゃあねえかな……と、午史はなんとなく許容することにした。





あ、あくまでも40代だから多少の肌の老化は仕方ねえという意味で許容してるのであって、別に女性として許容してるって意味じゃねえから。そこ勘違いしないでもらいたい。……と午史から書き足すようにキツく言われたので、とりま付け加えておく。




教壇に着き、たぶン講義する時に見るンであろう資料を教壇の上に置き、第一声。



「それじゃぁ、授業はじめますヨ~。」





40代にして、この口調。








……いやいいんだよ別に。どんな口調でも。40代の女性と言っても、世の中の40代女性にはもう完全オバはんなのもいればまだまだ20代女性とタメはれそうな方だっている訳ですし?そこはもう、個性ですよ。個性。……個性と言うものなのか?いやもういいんだよ個性なんだよ個性!!個性個性!!!!こせぃこせぃ!!!!





さて、勝手に脳味噌の中で「こせぃこせぃ戦争」を繰り広げていた午史だったが、ようやく我に返ったので授業に集中しようと思ったのだが……




まだ始まっていない。あれおかしいな、と。すると華香ㄘん、突然






「あれ?君落としたの~~~???」




華香ㄘん、ちょっと驚いた様子で、最前席に居た1人の女子に話しかけた。





「ぁ、はい……」





彼女は、やや恐縮し、声をやや震わせながら、やややと返答した。




"落とした"ということは……つまり落としたのだろう。単位を。ややや。





畏まっている彼女のことなど気にせず、華香ㄘんはさらに言葉を付け加えた。




「え~?去年キミ前の方居たよね~~???」





華香ㄘんの言葉攻めに、最前席の彼女は為す術はなく、ただ「はい……」と答えるしかなかった。ねえ、やめて。皆、見てるんだよ。晒し者にするのやめようよ。そういうのよくない。





「じゃあ頑張って今年とってね~?ふふ☆」





華香ㄘんは満足げに、授業の準備作業に戻った。最前席の彼女は、まるで何か生気か何かでも吸い取られたかのような状態になっていた。






午史は、ゾッとした。ちょっと運悪く授業の単位を落としただけで、この100人近くもいる教室で晒し者にされるのか、と。





そして何より午史が気になったのは最前席の彼女とやり取りをしている華香ㄘんの様子である。華香ㄘん、あの時はずっと笑顔のままだった。そう、あのやり取りを、華香ㄘんは楽しんでいたのである。




それは、煽っている自覚が無いだけなのか




或いは、煽っているうえで、笑っているのか。






「さて、気を取り直して授業はじめますヨ~。この授業は線形代数ですね~。この授業は必修科目ですけど、まぁ落としちゃった人は今年がんばって取ってくださいね~。」




華香ㄘんはようやく授業を始めた。トドメの毒を、放出すると同時に。





そしてようやく『線形代数学』の授業が始まった訳だが、これがかなりの苦痛だった。板書をヴワ~~っと書いてその板書についての解説を行うというスタイルだったが、その板書の量がとても多いのである。且つ、線形代数学には必要不可欠な行列の概念を、午史の代は高校で扱わなかったため、その点で午史は苦労することとなった。しかも、アルファベットに変な縦線書いてるし。何アレ。(途中でボサ男に聞いてみたところ、「あれはベクトルなんやで。」と言われた。ベクトルってアルファベットの上に矢印じゃなかったんすか……縦線入れて書くなんて情報知らねッスよ……)





1時間30分、それは実に、精神の負担が重いモノだった。






授業も終り、午史たち一行はちょっと疲れた感じを出している中、逆立ち君がボソっと一言。




「……大学の授業って、ヤベェのなw」




午史は、同意する以外の回答が浮かばなかった。





時刻はまだまだ午後2時40分。まだまだ授業はある。




これから先の事が不安で不安でたまらない午史なのであった。

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