第18話 かわいくてしょうがなくて
「シズル、あの自転車で学校通うことにしたんだ」
「うん、かわいくてしょうがなくて」
9月。新学期初日。学校のみんなはわたしのメタリックブルーのクロスバイクを見て、口々に、スゲーな、と褒めてくれた。さすがにスカートで乗る訳にもいかないので、体育用のジャージを着て登校し、学校で制服に着替えた。その徹底ぶりも、スゲーな、とみんな言った。ちょっと不本意なのは荷物が多いのでキャリーバッグを付けざるを得なかったこと。走りがやや重たくなる。コタローはリュック一つだけだって言ってたな。勉強道具、全部学校に置きっ放しじゃなかろうな。
ゆうきにはコタローに会った次の日に早速詳細を報告したので、事情はすべて知っている。ゆうき以外の友達や学校の人たちには「まあ、自転車に目覚めたってことで」で、強引に説明を済ませている。
コタローとはあの日以来会ってはいないけれど、メールの遣り取りはしている。こっちはケータイで、向こうはPCのメール。なので、わたしからメールを送ってもコタローが見るのは家に帰ってPCを起動した時。2~3日見ずじまいでいることもあるようだ。もっともわたしたちのメールの遣り取りの内容は、自転車に関するものばかり。最初はコタローへの興味から買ってしまった自転車だけれども、今は自転車そのものにはまっている。考えてみたら、自分の力で動かす乗り物では最速の乗り物だと思う。わたし自身がエンジンだと考えるとなんだかちょっとだけゾクゾクする。わたしさえスーパーウーマンのように鍛えればスピードに限界はないはずだ。
そんな訳でコタローとはなんとなく疎遠にならない程度に夏休みの最後の2週間くらいメールし続けてみた。コタローはわたしの自転車に関する質問には丁寧に答えてくれた。メンテのやり方では随分助けられた。ただ、好きな食べ物は?、と自転車とは関係ない質問をしても、「おでん」と、3文字の返事が返ってきただけだったけど。
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