第19話 凄く綺麗でかっこよくて

「失礼します」

 先週筆記試験を終え、今日は役員の最終面接。わたしが元気よく挨拶して顔を上げると、怜悧と柔和が程よくミックスされた顔がずらっと並んでいる。端に座っている痩せたおじいちゃんの顔がひときわ目立つ。この方は会長、つまり今の社長のお父さんのはずだ。真ん中に座っているのが社長。精悍な顔つきの中年男性。どことなく、田辺(夫)が10年ほど年取ったらこんな感じだろうな、という雰囲気だ。

「まず、自己紹介してください」

 就活の時から何かとお世話になった、総務・経理・購買兼任部長の日下さんが司会進行のようだ。

「はい。森野シズルです。二神商業高等学校三年生です」

「何か、打ち込んでいることはありますか?」

「はい。実務というものにとても興味があり、PC検定や簿記の資格取得などに取り組んできました。それと、3年間司法書士事務所でアルバイトしてきました。」

「非常に頼もしいですね。趣味は何かありますか?」

「まだ始めたばかりですけれども、自転車が趣味です」

「ほ、自転車ですか。どんな自転車ですか?」

 真ん中の社長が興味を示した。

「クロスバイクです。ロードレース用の自転車とマウンテンバイクの長所を取り入れた自転車です。夏休みには往復60kmほどの所へ遠出しました」

「凄いですね。自転車を始めたきっかけは?」

「はい・・・・えーっと、たまたま街中で見かけた自転車が凄く綺麗でかっこよくて。同じ色の自転車を買いました」

「色は?」

「メタリックブルーです」


 果たして、自転車の遣り取りが効果あったのかどうか分からないけれど、3日後、佐原事務から内定の電話があった。

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