第16話 少し抑えて走るから

「おお、すげーな」

 コタローは舐めまわすように膝をついて、わたしの愛車のパーツの細部まで見ている。

「チェーンのメンテナンスもちゃんとしてるじゃん」

「うん。だって、手入れしないとあの滑らかな走りの感覚を保てないんだもん」

「おー、そうか。やっぱりシズルもそうか。そうだよな。一度このスーっていう走りを知ったら、もうちょっと砂噛んでるだけでも気になってしょうがないよな」

「コタローの自転車、見ていい?」

 わたしはコタローの自転車をじっと見る。いや、コタローの自転車こそ、ほんとに凄い。走り込んでるはずだけど、チェーンの余分な油もウエスできちんと拭い取られ、黒ずんだ部分もまったくない、新品みたい。パーツのすべてが入念に手入れしてあり、だからこそメタリックブルーの美しいフレームがより一層輝いている。

「シズル、ここまで来るのにどれくらいかかった」

「3時間ちょっと・・・」

「そっか。大したもんだ。ところで、せっかくだから、帰りは一緒に帰るか」

「え・・一緒に?」

「少し抑えて走るから俺の後ろについて来いよ」

 本音を言うと、ちょっとありがたい。来るだけで疲れ果てて、一人で帰る途中で暗くなってきたら心細いなって思ってた。

「2時間で帰るぞ」

 え、マジ?

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