第45話

「だから、私は言ってやったんだよ。『おまえのオオサンショウウオにはいったい何本足があるんだ』ってね」

「………………」

「幸助くん、聞いてるの?」

「……いや、その話、昨日僕がした話じゃん……」

 なんとかツッコミを捻り出したが、覇気はない。というか、そんな余裕はない。

「校長先生……」

「校長? ああ、お父さんのこと?」

「怖すぎだろ……」

 そよぎが僕の手を握っているのを見ただけで、片手でドアノブを破壊してしまった。

 僕はその様子を見て、慌てて、そよぎの部屋に逃げ込んだのだった。

「そんなに怖いかな?」

「めちゃくちゃ怖いじゃねえか……」

「そんなもんかな?」

 確かに、厳格そうに見えて娘には甘いのかもしれない。すっかり忘れていたが、そよぎの話を信じれば、あの人は自分の娘を裏口入学させるような人間だ。それに何より――

(雪哉の父親がまともなはずがなかった……)

 あの親にして雪哉あり。父親がそよぎを溺愛していることは、予想して然るべきだった。

(ていうか、あの力はなんなんだ……)

 片手でドアノブをあっさりと折ってしまうほどの力。いったいあの人は何者だというのか。

「そういや、なんかの『こぶじゅつ』? を昔習ってたらしいよ」

「古武術……」

 古武術と一口に言ってもさまざまな種類がある。柔術などの格闘技から、剣術や砲術などまで、ジャンルは様々だ。ただ共通して言えるのは、『実践派』の武術だということ。

(そういえば、雪哉も古流剣術の歩法に近い動きをしていたな……)

 雪哉も父親に古武術を教わったのだろうか。

(いや、古武術の使い手だとしても片手でドアノブを捻り潰せる理由にはならないんだけど……)

 異世界に飛ばされた現代人が、剣と魔法の世界で無双できる理由が「剣道の有段者だから」と説明されたラノベを読んでいるような気分である。

「ちなみに、そよぎは武術は?」

「幸助くん、私に見た目以外にとりえがあるとでも?」

「だから、なんでそんな威張って言うんだ」

 それはそれとして――

『まあ、よくに励むことだな』

 さきほど、校長先生はこうおっしゃっていた。

(ヤバイ……)

 呆けている場合ではない。

 一刻も早くそよぎに宿題をやらせなくては……。

「そよぎ!」

「は、はい! なんでしょう!」

 僕の剣幕に気押されたのか、そよぎは何故か僕に敬礼して直立不動の姿勢になっている。

「宿題をやるぞ!」

「え、うん……最初からそのつもり――」

「死んでも宿題を完成させるぞ!」

「うええ? なんで急にそんな必死に――」

「僕の生死がかかってるんだよ!」

「私の宿題に?!」

 こうして、僕はそよぎに宿題を本気でやらせることにした。

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