第29話

○そよぎの猫知識

「あっ、ねこだ!」

 下校中のことだ。

 そよぎは民家の塀の上にいる一匹のねこを見つけた。

「おー、降りておいでー、にゃあー」

 そよぎは文字通りの猫なで声で塀の上の猫を呼ぼうと試みる。

(あ、だめだ。かわいい)

 美少女のそよぎが「にゃあー」などと可愛らしい声を出しているのを、どうして無視できようか、いやできない。

「ちっちっちっ」

 そよぎは舌を鳴らす。

「ちっちっちっ」

 何度か繰り返していると、ねこの方がそわそわと落ち着きをなくしだし、そよぎの方をちらちらと見るようになる。そして、ねこは塀から飛び降りてこちらまでやってきた。

「いい子だねー、にゃあー」

「すごいな」

 僕は素直に驚く。

「ねこは舌を鳴らすみたいな弱い高音が好きなんだよ。だから、警戒心を解くためにあんまりじっと見ずに、舌を鳴らし続けると近づいてきたりするんだ」

「へえ」

 僕は素直に感心する。

「本当にねこには詳しいんだな」

「そうだよ! ねこなら任せなさい」

「ちなみにいぬは?」

「いぬはよく知らないな」

「ふむ……」

 僕はふと思い立ってカバンからノートとペンを出し、そよぎに差し出す。

「『いぬ』って漢字書いてみ」

 そよぎは黙ってノートとペンを受け取り、一文字の漢字を書いた。


  太


「これはあえてボケたんでいいんだよね?」

 『犬』は小学一年生で習う漢字です。

 

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