第30話
○僕のメールアドレス
「またイタズラメールが溜まっている……」
僕は自身が持つスマートフォンをメール受信画面にうんざりする。
そこにあるメールのほとんどがイタズラメールだった。
よくある「あなたに遺産を相続させます」とか「芸能人の○○があなたとメールしたがってます」のような詐欺めいたものから、「体が火照って仕方がない女です」のようなアダルトサイトに誘導しようとするもの、「――力が欲しいか」といった中二病じみたものまで、多種多様だった。
「最後のはちょっと返信したいし……」
ぎりぎりで堪えましたがね。
そもそも、なぜこんなに迷惑メールが来るのかと言えば、おそらくはそよぎのせいだ。
「そよぎファンクラブからの嫌がらせ陰湿すぎるだろ……」
そよぎはファンクラブの奴らの僕のメールアドレスを聞かれ、何も考えずに教えてしまったようなのだ。おかげで山ほど嫌がらせメールがやってくるはめになった。アドレスを変えれば済む話なのだが、僕にはそれをしたくない理由があった。
(アドレスを変えれば、「アドレスを変えました」というメールを送らなくちゃいけないじゃないか!)
送ればいいじゃないか、と簡単に言う人間には僕の気持ちは解らない。
(もし、久しぶりにアドレス変更メールを送ってみて、届かなかったらどうするんだ!)
もしかしたら、向こうは僕のことをアドレスは一応交換しただけで、友達とも何とも思っていないかもしれないんだぞ。もし、メールを送ってそんな出来事が一件でも発生したら僕のガラスハートはバッキバッキになること請け合いである。
というわけで、僕は中学時代からのメールアドレスを変更しないわけなのだが、この迷惑メールを放っておくわけにはいかない。僕は次々に迷惑メール設定を施していく。
「くっそ、いったいやつら何人いるんだ?」
送ってくるメールアドレスは毎回違う。だから、その特定のアドレスを受信拒否しても、別のアドレスからやってくるのだ。ファンクラブのメンバーが人数に任せて爆撃をしかけているのか、暇な一人が複数のアドレスを使って、攻めているのかは解らなかった。
「だあ、イライラする!」
それでも、僕は時間をかけて、ひとつひとつのメールの拒否設定を施していったのだった。
ある日のことだった。
凪がふらっと僕の前に現れて言った。
「スケッチはなんであたしのメールを無視するんだ……」
珍しく悲しそうな表情をしていたので、僕は焦る。
「メール? いつ送ったんだ?」
「三日前から毎日送ってるんだが……」
「三日前……?」
そこで僕は気がつく。
「あっ、すまん! 三日前に迷惑メールを整理したからそのときに間違えて拒否設定にしてしまったのかもしれん」
メールは本当に大量にあったので、ミスをしていてもおかしくは無い。
そう言うと、凪は安心した顔になって言った。
「なんだ。スケッチに嫌われちまったのかと思ったぜ……」
「そんなわけないだろ」
僕は言ってやる。
「僕たちは友達だろ」
「……ああ」
凪は嬉しそうに微笑む。
流れとはいえ、少し臭い台詞を吐いてしまった。照れ隠しも含めて話題を変える。
「三日前って何のメールを送ったんだ?」
「ん? 『体が火照って仕方がない女です』ってタイトルのメールだけど」
「あれ、おまえだったのかよ」
凪のメールはいつもこんなメールばかりでした。
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