第22話

 僕は雪哉を探るように見つめる。

 雪哉は僕の眼差しをまっすぐ受け止める。

「幸助さんの慧眼には驚かされるばかりです。確かに、そよぎ姉さんの『独創魔法オリジン』は『機械仕掛けの女神デウスエクスマーキナー』です」

「ち、最悪の想像があたったか……」

 デウスエクスマーキナーとは、ギリシャ演劇における一つの手法だ。舞台が混迷を極め、通常の方法での事態の収束が困難になったときに現れる超越的存在。バラバラの場所にいる登場人物を問題解決のために強制的に一堂に会させたり、戦争に破れかけた国のもとに突如援軍を呼び込んだり。時には死に絶えた登場人物たちを生き返らせることさえもある。

 そうした作者によって超越的な力を与えられた存在が、快刀乱麻にすべての問題を解決する。それはさながら、人の手によって作られた『機械仕掛けの神』。

「簡単に噛み砕けば『ご都合主義』。この世界のすべてがそよぎ姉さんの都合の良いように回っていく」

 雪哉は鉛のような重苦しい言葉を吐く。

「まるで、彼女がこの世界の『主人公』であるかのように……」

 そよぎの能力が『運命操作』であるならば、今までのことはすべて説明がつく。

 そよぎが敗北したことがないのは、仮想の世界であっても死にたくなかったから。

 彼女がすべての人間に好かれているのは、誰にも嫌われたくないと願ったから。

 そして――

「僕がそよぎの側にいたいと思うのも、あいつの力で運命をねじ曲げられているからなのか」

 雪哉はちらりと沈痛な面持ちを見せる。

 僕はそよぎのすべてが好きだった。

 そよぎが微笑んでいてくれさえすれば、もう何もいらない。彼女が幸せになるためならば、きっと何でもしてやりたい。そう思っていたはずなんだ。

 それらの感情がすべて彼女の能力によって作られたものだとしたら?

 僕は今までと同じ様にそよぎを愛せるだろうか。

「まあ、でも関係ないな」

「幸助さん?」

 雪哉はいぶかしげな顔になる。

「予想はしていたことだ。気にしないって言ったら嘘になるけどな。でも、はっきりいって、そよぎの能力が僕の気持ちに関係しているかなんて、どっちでもいいんだ」

 悩んだ。悩んださ。

 自分の心さえも作られたものかもしれない。そう言われて、「それがどうした」とあっさり言えるほど、僕の心は強くも、鈍くもない。けれども、そんなもんははっきり言って関係ないんだ。眠れない夜を過ごして、昼間に寝て、結局、ひとつの結論は出た。

 僕は、はっきりと宣言してやる。

「あいつ、めちゃくちゃかわいいからな。もうそれだけで、ぞっこんだぜ」

 雪哉は僕の言葉をどう捉えたのだろう。一瞬目を丸くして、すぐに、くしゃりと笑う。

「ですよね! そよぎ姉さんに惚れない男は男じゃないですよ! たとえ、ホモだってそよぎ姉さんには惚れますね!」

「おまえが言うならそうなんだろうな……」

 無駄に説得力のあることを言う。

「まあ、だから能力で僕の心が操られているか、なんてのは些末事だ」

 今ここにいる僕が彼女を愛している。ただ、それだけが大切だ。

 僕は自分に、そう言い聞かせた。

 

 

 

 

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