第21話

「とはいえ、幸助さんならそよぎ姉さんの『独創魔法オリジン』がなんなのか、大方の予想はついてるんじゃないですか」

 雪哉は言う。

 その問いにいかに答えるか。僕は逡巡する。

「あくまで予想でしかないぞ」

 僕はそう前置きして話し始める。

「そもそも、僕が監察官としてこの地にやってきたのにも理由がある」

「……理由?」

「それが、そよぎだ」

 雪哉は冷静に僕の話を受け止める。

「やはり、幸助さんは……」

「ああ、おまえの『虚偽報告』に気づいたのがきっかけだ」

「………………」

 雪哉は押し黙っている。

 僕が――いや私、ワルドがこの世界に顕現することを決めた理由がリューギニアから送られる報告書に違和感を持ったからでした。リューギニアの報告書に記載されているそよぎの『独創魔法オリジン』は『肉体強化』でした。それ自体は何も不自然ではありません。『肉体強化』はよくある魔法の一つだからです。

 問題はマジカルバトルにおけるそよぎの勝率でした。

「勝率六割八分。これは優秀な成績の部類だ。とはいえ、これも別に不自然ではない。上には上がいるからな。だが、この成績を平凡な『肉体強化』能力者が修めているというなら話は別だ」

 魔法少女の『独創魔法オリジン』はかなり個性的であり、中にはその魔法一つで軍隊を相手取って戦うことができるレベルの戦闘力を持つものもいます。そよぎはそんな特異な能力者たちの勝率の一歩手前の成績を修めていたのです。

「だがまあ、勝率は能力だけで決まるものではない。戦いにおける柔軟な発想や強い意志の力。そういったもので下馬評を覆すなんていうのは日常茶飯事だ。だから、皆そよぎの成績もそういった要因によるものだろうと安易にとらえた。――この僕以外は」

 私はこの違和感の正体を確かめるために、リューギニアの報告書を精査しました。そこで、私は決定的に不自然な点に気がつきました。

「そよぎは一度も負けたことがなかった。敗北とカウントされていたのは全て『撤退』だったんだ」

 戦闘中に現在の自分では勝てないと判断したとき、『仮想領域』の外に脱出した場合は『撤退』という扱いになり、数値の上では敗北扱いになるのです。

「これはすごいことだ。マジカルバトルはあくまで仮想戦闘だ。たとえ決定的な敗北、つまり死んだとしても生き返ることができる。それはゲームのコンテニューとなんら変わらない。だからこそ、勝率の高い魔法少女はたとえ不利な相手でも刺し違えてでも勝利しようとすることが多い」

 だが、そよぎはただの一度も『仮想領域』の中で敗北したことがなかったのです。

「いくら生き返るといっても死なない方がいいに決まってるからな。魔法少女が『勇者』として戦うのは現実だ。現実では死んだら終わりだ。だから、死なない方が魔法少女として適格なのは間違いない。そんな優秀な成績をただの『肉体強化』でとるなんて魔法少女がいったいどんな人物なのか。それを確かめるために僕はこちらの世界にやってきた」

 ですから『愛原そよぎ』という少女はよほどクレバーな人物なのではないかと予想していました。

「だが、こちらでそよぎを観察するにつれわかるのは、あいつが『肉体強化』だけで、こんな成績をとれる人物でないということだった。なら、あと考えられるのは彼女の真の『独創魔法オリジン』は『肉体強化』なんかじゃない、ということ。つまり、雪哉、おまえの報告書に虚偽があるということだ」

 実際にそよぎは自らの力を『運が良い』と評していました。これは少なくとも『肉体強化』に対して使う説明ではありません。

「そよぎの力は、『運が良』くて、戦闘中に一度も敗北を喫しないものだ。『都合が良い』能力だよな。そして、その『都合の良さ』はそよぎの人生全般に見られる」

 私は――僕は言う。

「そよぎの能力は『運命操作』だ」

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