第20話
「幸助さん!」
渋々買い出しに行こうとする僕に声をかけたのは雪哉だった。
彼はまるでボールを追いかける子犬のように僕を追ってくる。
「ぼくも一緒にいきますよ」
「おお、そうか」
確かに五人分の買い出しとなれば、そこそこの量になる。別に一人で運べないことはないが人手はあるにこしたことはない。それに、僕一人だと買い出しのラインナップにケチをつけられるオチが見える。
「じゃあ、一緒にいくか」
「『一緒にイク』。いい響きですね……」
「何を言ってるのかわからないな」
僕は雪哉を適当にあしらいながら、二人並んでコンビニを目指す。風音に指定されたファミマまではこの川沿いの道をまっすぐいけば辿り着く。
夕焼けが世界を赤く染めている。
今は逢魔が時。何か物語が始まるのはいつだってこんな時間だ。
「そういえばさ」
僕は何気なく言う。
「雪哉、おまえ、そよぎに関することで、まだ言ってないことがあるよな」
「え?」
雪哉はきょとんとした顔で僕を見る。
そして、笑みを作って、言う。
「ああ、姉のスリーサイズですか? それは幸助さんでも――」
「雪哉」
僕は雪哉の目を真っ直ぐ見る。
雪哉は観念したように、真剣なまなざしを見せる。
「いいんですか?」
「大統領を警戒しているのか?」
「……ええ」
「雪哉。あれを『警戒する』なんていう行動は不可能なんだ。やつにとっては僕らの心の中なんて無料のウェブ小説よりも簡単に読める。だったら、やつの監視を警戒して、くだらない話しかしてない振りをしても無駄なんだ」
「まあ、一理ありますが……」
あの大統領が僕たちの味方? ファン? 到底信じられない。
あれは女狐だ。
『歴代最弱の大統領』。
リリシア・ドランバティはそう呼ばれていた。
『最弱』という言葉は、一見、情けないように見えるが、裏を返せば、歴代で最低の力しかもたないにも関わらず、国のトップに立ったということになる。それはもちろん、偶然なんかじゃない。それを為すだけの確かな何かがあるのだ。
それは彼女の脅威的な『情報収集能力』と『権謀術数』。その気になれば、どこの世界にいる人間の心だって読める。そんな力を前提にした策謀を、大したことないななんて侮ることなど誰ができるだろうか。
「くだらない話だけをしていれば奴の監視をかいくぐれるという発想が甘い。どうせ全部ばれてるんだ。それなら、僕たちの間で、できるだけ情報共有をした方がいい」
雪哉はしばらく考え込んでいたが、観念したように溜め息をついた。
「わかりましたよ。乗りかかった船です。こうなったらとことん幸助さんに従いましょう」
雪哉の了解を取り、僕は言う。
「もしも、僕たちの世界がマンガだったら、明らかに回収してない伏線が一個ある」
僕は告げる。
「そよぎの魔法だよ」
僕は以前、そよぎに言われた事を思い出す。
『逆に愛原さんは何の魔法が使える……という設定なの?』
『私? えっと……『運が良い』……らしい』
『『運が良い』?』
『なんかよくわからないけど『運が良い』って言われた』
「『運が良い』という、そよぎの『魔法』がなんなのか。監督者のおまえなら知っているんだろ?」
「………………」
雪哉は何も答えない。
「『監督者は契約前でも、魔法少女になったとき、どのような力が得られるかをある程度なら把握できます。』。おまえは確かにそう言っていたな。だったら、そよぎと契約したおまえはそよぎの魔法を把握していることになる」
僕は続けて言う。
「教えてくれ、頼む」
雪哉は小さな溜め息をひとつ吐いてから、真剣な面差しで僕を見て言った。
「いいでしょう」
そして、雪哉はそよぎの最後の『秘密』を語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます