第14話
「ゆきっち……おまえ、いいのかよ?」
凪は真剣な表情で雪哉を睨む。
「幸助さんのおっしゃってることが本当なのであれば今更言い訳もできません。確かに、ぼくが愛原そよぎ、高岡凪、内田風音を魔法少女にした監督者です。合衆国での名はリューギニア・リューフリクスと申します」
「あっさり認めるんだな」
「ぼくがみっともなく足掻くのが嫌いなのはご存じでしょう?」
「そうだったな」
彼はあくまで愛原雪哉なのだ。僕はそんな思いを強くする。
「なぜ、凪たちに魂的共鳴の情報を伝えなかった?」
雪哉が合衆国に選ばれた正式な監督者である以上、当然、魂的共鳴を利用してこちらの世界に顕現していることになる。だが、凪たちはその情報を知らなかった。それが演技でないならば、雪哉がなんらかの理由で隠していたことになる。
「いや、それには深い理由はありませんよ。どうやら、幸助さんはなにかぼくに何らかの考えがあって、意図的に情報を隠匿していたとお考えのようですが、それに関してはすこし邪推のしすぎというものです。単純にぼくは幸助さんのような魂的共鳴の実感が限りなく薄かったためにそれを積極的に吹聴する気になれなかっただけです」
「どういう意味だ?」
「魂的共鳴とは通常、幸助さんのようにある程度のパーソナリティを確立した人格に対して行われます。つまり、ある程度の年齢の人間に憑依することになります。しかし、愛原雪哉としてのぼくは、リューギニアとしてのぼくが乗り移った段階で自我の確立が曖昧な乳幼児の段階だったのです」
雪哉の言葉を受けて、内田は言う。
「たしかに、雪哉は0歳のときからたどたどしくはあったけれど、しゃべっていたわ。それが異世界の人間が乗り移っていたっていうなら筋は通る」
内田が雪哉の言葉を肯定する証言をする。
「ええ。ですから、僕自身の、つまり、『愛原雪哉』としての人格形成のまえに『リューギニア・リューフリクス』としての自分が乗り移ったが為に、僕にとっては『リューギニア・リューフリクス』としての自分と『愛原雪哉』としての自分に一切の差異を持てなくなりました。ですから、頭では魂的共鳴というシステムに乗っ取ってこの世界に顕現していることは解っていたのですが、それに自分自身でもあまり得心が言っていなかった為に、わざわざ吹聴することをしなかったというだけのことなのです」
僕は雪哉の言葉に応じて言う。
「つまり、僕とワルドのように自分の中に別の人格があるような感覚すら持っていないということか」
「はい。そういう意味では僕は今まで幸助さんと接していたときの自分と魔法少女の監督者としての自分との間には一切の差異はないと言ってもいいでしょう」
「なるほどな。それについては納得した。では、そろそろ本題に切りこませてもらうぞ」
大事なのはここからだ。
僕は居住まいを正し、改めて雪哉に正面から向き合う。
「そよぎの過去に何があった?」
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