第8話 優翔View

「……いいんじゃね?クラスメイトに変わりないんだし。一々文句つけてもつまんないじゃん。」


戸惑う優翔を掴んで離さない。感の鋭い金彌のことだ。察しはついているのだろう。


「美人見て照れてんなよ、優翔!」


金彌の言葉に皆が不満顔をしながら、散っていく。


「べ、別に照れてなんか……。金彌苦しい!」


絶対わざとだと確信する。優翔を逃がさないつもりだ。彼女はそんな姿を、ふざけあっているだけだと思うだろう。だって、変わらず、微笑んでいるんだから。


「こいつ、阪本優翔。俺は、眞鍋金彌な。宜しく!『心結ちゃん』!」


苗字しか伝わっていなかった。あの空気に根負けしたため、自己紹介もままならなかったから。……更に柔らかく微笑んだような気がした。胸が締め付けられる。やっぱり俺は、この天使のような微笑みが堪らなく好きだと思った。


「お?やっぱ可愛いなー♪」


無邪気に笑う金彌。言いたいことを、さらりと言ってしまうこいつが羨ましくて、優翔は嫉妬した。


「……宜しくね。それと、ありがとう。」


笑って言っていると思った。けど、声が震えている。……金彌が離れた。


「……心結ちゃん?いきなりどうした?俺がネチネチしてるのが嫌いなだけだよ!しんみりすんな。」


優翔を離してまで彼女の側に行き、くしゃっと頭を撫でた。


……ズキン……ズキンズキン、と胸が痛くなる。訳がわからない。金彌が彼女に触れただけで苦しい。無意識に思う……。


━━俺の天使に触れてくれるな━━


愕然とした。騙されたんだと思う反面、騙されていても構わないと思っていた。……彼女の柔らかさを、甘い香りを、その笑顔を独り占めしたかったから。


「ちょ!心結ちゃん?!」


金彌の声にビクッと我に返る。


「ご、ごめんなさい!何でもないの!」


……泣いていた。泣きながら、教室を出ていってしまった。何も知らなかった。彼女について、何一つとして知らない。優翔を庇った心結を救ったのは金彌。……悔しかった、情けなかった。情けなくて、彼女を負う勇気もなかった。


「……優翔。心結ちゃんさ、何か抱えてるっぽいな。」


『心結ちゃん』と気軽に呼べる金彌が、妬ましかった。……最低だ。


「……おい!優翔!」


叫ばれてハッとする。


「心結ちゃんが泣きながら行っちまったのは、しかたねぇよ……。追える空気でもなかったし。」


そう、俺たちが追って行っても何も出来ないから。


「んで?何があったんだよ?と、ここじゃ人目があるか。帰りがてら洗いざらい吐け。」


金彌なら、誰にも話さないでくれるだろう。歩きながらぽつりぽつりと、短くて長い、図書塔での出来事を話した。 …女子に聞かれない場所で。


「…ふぅん。ヤることヤったくせに?おまえは心結ちゃんを守らなかったと。………バカだな。どうしようもねぇな。大方、年齢気にしたんだろ?可愛いを年齢で決めつけんな。心結ちゃん、嘘ついてまでおまえを庇ったのに何も言えないとか、チキンにも程があるぜ。」


矢継ぎ早に叩き伏せられる。

全部当たっていて、反論しようがない。


「…俺は金彌みたいに強くない。」


絞り出すように答えた。

どうしようもない返事を。


「はぁ?何いってんの?好きでもない女、抱けるほどおまえに余裕があるようには見えないけど?何か?据え膳的なあれ?そうじゃないだろ?心結ちゃん、言ってたって言ったじゃねぇか。『あなたなら構わない』って。それって、おまえが好きだからじゃねぇの?」


俺は、彼女の何を見ていたんだろうか。

あの言葉を言われて、すごく嬉しかったはずなのに。


「…見てらんねぇ。おまえが何もしないなら、俺が心結ちゃんもらうから。」


そういうと、俺に背を向けて、俺を置いていった。

今、なんて………。

俺は酷く動揺してしまった。

だから、金彌がそう言った意味を理解することがまだ出来ないでいたんだ。

俺は怖くなった。



━━親友に奪われる━━



嫌だって思うのに、ポンコツな俺は、動くことも出来なかった…。

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