第7話 優翔View
本鈴と共に教室に駆け込んだ。担任はまだ来ていないらしい。呼吸を整えていると、親友の金彌が目の前にやってきた。
「おまえ、どこにいたんだよ。まぁた、図書塔でサボってたとか?」
図書塔と聞いて、また赤くなる。
「……なんで赤くなってんの?可愛い女の子でもいたか?」
ニヤニヤとからわれていた時……。
廊下が騒がしい。その騒がしさはどんどん近くなる。そして、このクラスの皆がざわざわした。……振り向くと、そこにはさっきの天使が笑顔でいた。
「これ……、落としていったから。」
優翔の目の前に、生徒手帳を差し出す。また一気に紅潮したまま、受け取った。
「……ご、ごめんなさい。……ありがとう。」
顔が熱いのを隠すように俯いてしまう。優しい笑みで優翔だけを見ていたが、いきなり彼女の腕を誰かが乱暴に掴んで引いた。
「……神凪心結さん、ですね?探しましたよ。」
強い力で彼女を廊下に引き摺り出したのは、英語教師の鬼瓦。容赦なく、怖い教師に睨まれながら、彼女は教室から離されていった。慌てて扉まで走る。金彌を含め、クラスメイトたちが不安げに成り行きを見ていた。
「……あなたは、"1年"に入るはずですよ。何で"2年"の教室にいるんですか?」
「え?私は、"2年"への編入のはずです……。」
「知りませんよ。飛び入り編入なんですからいくら成績がよくても、"1年"しか融通が利かせられるはずがありません。」
彼女は編入生らしいが、鬼瓦の言い分は何だか違和感を感じた。けれど、優翔がなにかできるわけもなく、教室から動けないでいた。
「きょ……、校長先生に確認してください!したくないのであれば、自分で確認します!」
彼女が叫び、女教師の腕を振り払って走り去ってしまう。
「待ちなさい!貴女を好きにさせたら、『あの方』に顔向け出来ないのよ!」
多分、意味深な今の発言は彼女の耳には入っていない。
「……鬼瓦、キナ臭ぇなー。な?優翔?」
俺は頷くしか出来なかった。
(かんなぎみゆう……。それが、あの人の名前か。ちゃんと人間だったんだ。)
漢字はわからなかったが、名前を知れただけでちょっと嬉しかった。いや、かなり嬉しかった。
惚けていたら、ガシッと首を二の腕に挟まれた。誰かはわかっている。
「か、金彌、苦しい!」
「……んなこたわかってんだよ。てめぇはこの俺を差し置いて、カワイコちゃんと仲良くなった敬意を教えろ。」
答えにあぐねいていると、金彌が頭上を叩かれた。
「だっ!!」
「朝からじゃれてるなよ。HRするぞー。」
……そう遅れてきた担任が言うや否や。
『芹沢先生、
先生を呼ぶ校長の声がスピーカーから流れた。
「先生、なんかしたの?」
「んあ?わからねぇ。取り敢えず行ってくるから、皆席についとけよ。」
出席簿を教壇に置き、教室を出ていった。校長室、それは、彼女が向かったはずの場所だった。
◆◇◆◇◆◇◆
十分もしないで、担任が戻ってきた。……彼女を連れて。俺はわが目を疑った。
「あれ?あの子、さっきの……。」
「やっぱ美人~♪」
皆が騒ぐのもわかる。それほどまでに、彼女は綺麗だった。
「静かにしろよー?うちに編入生が入ることになった。仲良くな?苛めてくれるなよ?」
芹沢先生がおどけていう。先生にチョークを渡された彼女は皆に背を向け、背伸びしながら名前を書いた。
『神凪心結』
(綺麗な名前だな……。)
皆に振り返り、柔らかい笑顔で告げた。
「神凪心結と言います。"二回目"の高校生活ですが、一緒に思い出を作っていけたらと思います。宜しくお願いします。」
"二回目"?皆の空気が変わって、違ったざわめきが起きる。
「お?阪本の隣が空いてるな。あそこだ。ほら、皆静かにしろ。」
……同級生かと期待していた。いや、同級生ではあるんだけど。でも、確実に年上だった。二回目ってなんだ?もう大人?俺騙された?よくわからない憤りが俺を包む。しかも隣とか、どうしたらいいんだろう。……彼女は俺を見て、あの綺麗な笑顔で笑っていた。どう見ても、同年代にしかみえない。感情のやり場に困り、視線を外してしまった。
「阪本くん、て言うのね。宜しく。」
俺には挨拶する余裕がなかった。無視してしまったのに、彼女は追い縋って来ない。
◆◇◆◇◆◇◆
HR中、皆がクスクス笑いながら彼女を見ている。何で気にせず笑っていられるかわからない。それに芹沢先生の彼女を見る目が、生徒を見るそれとは何となく違う?
「……じゃぁ、今日は終わり。明日はオリエンテーリングだ。遅れんなよ?俺は校長に呼ばれてるから、明日に備えて早めに帰れ。お疲れさん。」
皆がバラバラに挨拶の言葉を口にする。芹沢が教室を出ると、女子生徒が彼女を囲んだ。
「ねぇ、神凪さん?始業式いなかったよね?阪本くんもー。何してたのー?」
ニヤニヤと意地悪く笑う。また思い出して、火照るが振り向けない。
「"図書塔の奥で、窓から景色を見ていたら……。"」
話す、のか?身構えてしまう。
「『チャイムが鳴って、物音がしたから顔を覗かせたの。そしたら、彼が慌てて出ていくのが見えたのよね。だから、同じ場所にたまたまいたみたいね。』」
………優翔は愕然とした。情けなさに唇を噛み締める。彼女に庇われた。無視したのに、何でバラさない?
チラリと見た彼女は、変わらず優しく微笑んでいた。彼女は何も悪くないのに、俺は…… 。
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