第4話
クラスは40人近い生徒がいた。心結の登場に、クラス中がざわめく。
「あれ?あの子、さっきの……。」
「やっぱ美人~♪」
「静かにしろよー?うちに編入生が入ることになった。仲良くな?苛めてくれるなよ?」
芹沢がおどけていう。背中を押され、チョークを渡される。皆に背を向け、背伸びしながら名前を書いた。
『神凪心結』
皆に振り返り、柔らかい笑顔で告げた。
「神凪心結と言います。"二回目"の高校生活ですが、一緒に思い出を作っていけたらと思います。宜しくお願いします。」
"二回目"という言葉に空気が一変。違ったざわめきが起きる。
「お?
芹沢の気遣いに気がついているはずの心結。しかし、裏腹に優しく微笑んでいた。……あの頃と変わらない、『天使の微笑み』。誰が言い出したかはわからない。彼女の微笑みは純粋そのものだ。だが、彼女への不安が募る。
(……変わらないな。あのときも、全部抱えていっちまった。また、全部抱えてどこかにいっちまうのか?神凪……。)
阪本に向き直り、目を見開くと嬉しそうに、見たこともない笑みを向けていた。そう、阪本は、あの少年だった。けれど視線があった瞬間、反らされてしまう。……一瞬、哀しそうな顔をするが、すぐに笑顔に戻る。見たことのない心結の表情の変化に芹沢は胸が傷んだ。
(な、んだ?これ……。)
「阪本くん、て言うのね。宜しく。」
阪本は顔を背けたまま。わかっているかのように、心結はそのまま着席した。
◆◇◆◇◆◇◆
HR中、皆がクスクス笑いながら心結を見ている。わかっていても、行動に起こしていないし、心結はずっと変わらない笑顔のために何も言えない。守ると言ったのに……。きっと心結はこれを見越していたのだろうか。
「……じゃぁ、今日は終わり。明日はオリエンテーリングだ。遅れんなよ?俺は校長に呼ばれてるから、明日に備えて早めに帰れ。お疲れさん。」
皆がバラバラに挨拶の言葉を口にする。芹沢が教室を出ると、女子生徒が心結を囲む。
「ねぇ、神凪さん?始業式いなかったよね?阪本くんもー。何してたのー?」
ニヤニヤと意地悪く笑う。更に向こうを向いた阪本の耳が赤いのが見えた。しかし、心結は笑顔を崩さず、女子生徒たちを見る。
「"図書塔の奥で、窓から景色を見ていたら……。"」
阪本の方がピクリとした。
「『チャイムが鳴って、物音がしたから顔を覗かせたの。そしたら、彼が慌てて出ていくのが見えたのよね。だから、同じ場所にたまたまいたみたいね。』」
綺麗な笑顔のまま答える心結に、残念そうな顔をする女子生徒。びっくりした阪本の顔が女子生徒たちの間から見えたが、見てないふりをした。
「なぁんだ、つまんない。で?神凪さんて、実際いくつなの?」
欲しい結果でなかったからか、阪本には興味を無くしたらしく、心結に詰め寄る。
「……わからないの。空白の時間がどれだけだったのか。お母様は変わってなかったから、そんなに長くはないはずなんだけど。」
心結にもわからない。変わらない日常だと思った景色が、変わっていた。生徒に見知った人はいないようだった。だからと言って、どれだけの空白の年月があるのかまではわからない。流石に顔を曇らせる。
「もしかしたら、すっごいおばさんだったりしてー?見た目じゃわかんないもんねふぇ?」
憶測だけで口にする。だが新参ものより、旧知を信じたがるものだ。
「えー?だったら、残念だなー。可愛いのはただの童顔かよ?」
クラス中が笑いだす。心結は何も言わなかった。
「ごめんなさいね?ちゃんと答えてあげられなくて。」
気にも止めないかのように優しく微笑む。
「……あんたさぁ?何で高校生やりなおしてるの?大学にでも行ったらよかったじゃない。」
同い年以外は受け入れたくない、そう目で語っていた。
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