第3話
━━校長室の扉がノックされる━━
「どうぞ。」
校長先生が応えると、ゆっくりと扉が開いた。
「失礼します。」
若い男の先生だった。彼は心結を目に止めると、少し頬を赤らめた。しかし、すぐに視線を反らし、校長先生に向き直る。
「わざわざすみません。お呼びしたのは、彼女。神凪心結さんをあなたのクラスに入れるためです。こちらの不手際で、2年に編入するはずが、1年に加えられていたようです。私が全責任を持ちますので、
深々と頭を下げる校長先生。心結も慌てて頭を下げた。
「よ、宜しくお願いします!」
「……頭をあげてください。校長がお決めになったことです。反対する理由なんてありませんよ。それに、その役目を私のような新米教師にと考えて下さってありがとうございます。」
優しそうな先生だった。心結は知らない。彼が、彼女の同級生だったことを。
「……まぁ、理由は俺の姉が教え子だから、配慮出来るだろうってとこでしょう?」
屈託ない笑顔で校長先生に笑いかける。
「芹沢君には敵わないわね。クスクス。……他にも一人、適任者はいるのだけどね。」
笑い返すも、すぐに顔を曇らせる。
「そういえば、"佐藤"もいますね。選出基準も追々聞かせてください。」
心結に向き直る。
「……神凪さん、だったかな?俺は
ちょっと辛そうな顔になる。"芹沢晃"、その名前にうっすらと聞き覚えがあった。
「………守ってあげられなかった分、君みたいな子に何かあったら、どんな理由があっても守るって決めて教師になったんだ。」
照れ臭そうに笑う。……その笑顔を知っている気がした。
「ありがとうございます……。私、体強くないですが、頑張っていっぱい登校しますね。」
芹沢先生の顔が一瞬、固まった。
「……神凪さんは、ちょっと重い病気を患っているの。でも、激しい運動をしなければ大丈夫だと親御さんに伺っていますから、休みがちになることはないはずですよ。ね?神凪さん。」
校長先生がすかさず、説明してくれる。新米教師にとって不登校が出るのはリスクが高い。それが、どんな理由であろうとも。
「は、はい!主治医の先生が大丈夫って言ってくれました!」
笑顔で答えた。
「あ、すみません。病欠は仕方ないですよ。ただ……、"あの子"と被ってしまって……。ごめんな?」
言葉と裏腹に、真顔で校長先生を見つめる。
「……芹沢先生、HRが終わったらまた来てください。」
何かを悟り、再度訪問するように告げた。
「わかりました。神凪さん、いこうか?」
「……芹沢先生にまでご迷惑をお掛けしてすみません。それでも私……、学校に来たくて……"卒業式まで"は頑張りたくて……。」
校長室から出ると心結は通学理由を一心に伝える。
「……そっか。そうだよな。"卒業"したいもんな……、"ちゃんと"。」
優しく頭を撫でてくれた。何かを知っているかのように……。心結は知らない。彼もまた、彼女を忘れられない一人だと言うことを。
◆◇◆◇◆◇◆
クラスの前まで来ると立ち止まる。"2年2組"。彼のいるクラス……。心結は嬉しさと共に、ある思いを冷静に心の中で復唱した。
「さぁ、ここが今日から君のクラスだ。」
ガラリと芹沢先生が、教室の扉を引いた。
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