第2話

そう言えば、自分のクラス配置を聞いていない。あのとき教頭先生だった先生が校長となり、心結の編入許可をくれたのだ。当日に教えてもらう手筈だった。

取り敢えず、彼に生徒手帳を渡すべく、"2年2組"へと向かう。2年生なら、約束していた学年が同じ。ほんのりと胸が熱くなった。……抱いてはいけない感情。でも、許された期間で色々したい。


◆◇◆◇◆◇◆


歩く先々で、皆が心結に振り返る。


「……あの子誰かな?綺麗な子だね。」


「あんな美少女、うちにいたんだ。」


羨望の眼差しは、あの頃と変わらない。でも、それも最初だけ。休みがちになったら、忘れ去られる。


◆◇◆◇◆◇◆


"2年2組"と書かれた教室に自然に入り、彼を探す。……すぐに見つかった。


「これ……、落としていったから。」


彼の目の前に、生徒手帳を差し出す。少年はまた一気に真っ赤になりながら、受けとる。


「……ご、ごめんなさい。…ありがとう。」


照れながら笑う彼を心底可愛いと思った。そんな彼に優しく微笑み返した瞬間。


「……神凪心結さん、ですね?探しましたよ。」


乱暴に腕を捕まれ、廊下に引き摺り出される。……見たことのない、怖い顔をした女教師に恐怖を覚えた。そのまま、教室から引き離される。教室からは彼を含め、彼のクラスメイトたちが心配そうに見ていた。


「……あなたは、"1年"に入るはずですよ。何で"2年"の教室にいるんですか?」


責めるように問われる。


「え?私は、"2年"への編入のはずです……。」


そんな話は聞いていない。


「知りませんよ。飛び入り編入なんですからいくら成績がよくても、"1年"しか融通が利かせられるはずがありません。」


頑として聞き入れてはくれない。


「きょ……、校長先生に確認してください!したくないのであれば、自分で確認します!」


女教師の腕を振り払い、通い馴れた廊下を小走りしながら校長室へと向かった。後ろで、女教師が何事か叫んでいたが、気にしてはいられない。


◆◇◆◇◆◇◆


……校長室に辿り着くと、深呼吸する。体は大丈夫だと確認し、ノックした。ややあって返事が返ってくる。


「……どうぞ。」


ゆっくりと扉を開ける。そこには変わらない、大好きな教頭先生の姿があった。しかし、今は校長先生だ。


「……お久しぶりです。」


入ってきた心結に目を見開く。そして、優しく微笑んだ。


「久しぶりね、神凪さん。校長室にどうしたの?」


変わらない優しい声で迎えてくれる。


「あ、あの。……クラス配置についてです。確か2年に編入予定だったはずですよね?さがしに来て下さった先生は、"1年"だと言っていたのですが、どうなっているのでしょうか?」


驚いていた。多分、手違いがあったのかもしれない。


「……待ってちょうだいね?」


引き出しからファイルを取り出してめくり始めた。そこには、"生徒名簿"と書かれている。


「……あら、嫌だ。ごめんなさいね?編入試験を受けてもらったのに、1年はおかしいわよね。」


そのままどこかへ電話をかけ始めた。


「……私よ。2年に編入した神凪心結さんなんだけど、1年の名簿にあるの。どうにかならないかしら?……そう?待ってね。」


受話器を手で押さえ、心結に振り返る。


「こちらの不手際だから、好きなクラスを選んでちょうだい。調整は私が責任を持つから。」


心結の頭に浮かんだのは、やはりさっきの少年。


「"2組"……。"2年2組"がいいです。」


少しでも長く、彼の近くにいたい。……それだけ。


「わかりました。……"2年2組"にお願い出来る?名簿編集は私がします。……ええ、お願いします。」


電話を切るとスピーカーに切り替える。


『芹沢先生、芹沢先生。校長室にいらしてください。』


スピーカーを切り、心結に微笑む。


「今担任の芹沢先生を呼びましたから、待っていてね。」


「はい!」


……校長は心結への後ろめたさから、細心の心配りをしようとしていた。心結は知らない。……ショックで忘れてしまったことだから。忘れていると知っていても、罪悪感は拭えないものだ。


しかし心結は自ら、彼女を裏切る。

『友達を作らない』為に……。

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