第4章(5)
トキさんの話を聞いた限りではだいぶ田舎である印象を受けたが、実際に訪れてみると家やマンションがいくつも建っているような普通の住宅街だった。
まあ、考えてみればそれも当然である。彼女がここに住んでいたのはもう七十年以上も前のことなのだから。
周りの様子を注意深く確認しながら歩いていると、柵に囲まれた公園があるのを発見した。トキさんの話に出てきた公園とはまるで違う、いかにも住宅街の中に後から作りましたというような小さな公園である。遊具も滑り台と何か動物(多分、馬)を象ったようなばねの乗り物があるくらいだった。
「地図によるとトキさんの生家はこの辺りなんだけどさ、やっぱり昔とは相当様子が変わってんな。これ見ろよ。昔はここ一帯に広い林があったみたいだぜ。今は木なんて、さっき大通りで見た街路樹くらいしかないもんな」
携帯に送られた地図を見ながら世良が嘆く。
世良の言う通り、当時の面影はまったく残っていないようだった。木々が生い茂っていたはずのこの場所も、今は鉄筋コンクリートのマンションが高くそびえ立っている。
「とりあえず聞き込みをしてみるか?」
「でもよ、ここの住人に訊いていってもあんまり意味なさそうだぜ。昔からここに住んでる人なんてほとんどいないだろ」
世良は手で直射日光を防ぎながら高いマンションを見上げた。
その意見はごもっともで、この住宅街はここ数年の間に新しい人がたくさん入ってきたらしく、中にはもとからこの辺りに住んでいた住人もいるかもしれないが、闇雲にそういった人を探すのは困難を極めそうだった。
「かといって、良い策があるわけでもないんだけどな」
世良が悔しそうに唇を噛み締めた。ここでもし画期的なアイデアがあれば俺も披露するのだが、あいにく何も思いつかなかった。
やはりしらみつぶしにあたってみるしかないか、と諦めかけたちょうどそのとき、俺の携帯に着信が入った。鳥飼からだった。
「到着したみたいだけど、調子はどう?」
「ダメだ。昔とは全然街並みも変わってるし、証言を得るのも難しそうだ」
「それなんだけど」
鳥飼は少し間をおいて言った。
「おそらくその辺りに
「田中商店?」
「そう。さっきその店の創業年数を調べたら、どうやらターゲットが子供の頃からやってたみたいなんだ。さすがに店の主は変わっちゃっただろうけど、今も誰かが受け継いでいるのだとしたら昔のこともよく知ってるんじゃないかな?」
「おお、さすがだな!」
なぜその案を思いつかなかったのか。俺は思わず感嘆の声を上げていた。
どの街にも一つくらいはそういう店があるものだ。だとしたらそれを先に調べて、あてをつけてから話を聞いて回ったほうが効率がいい。
鳥飼は先を見通す力も困ったときの発想力も超一流だ。
「あったぜ、田中商店」
世良が携帯で検索して表示した地図を俺に見せる。
「場所はわかった。とりあえず行ってみる」
「了解。一つ言っておかなくちゃいけないんだけど、アポは一切取ってないから説明は君たちにしてもらうことになる。そこまでの余裕はなくてね。あとで帳尻を合わせるから適当に名乗っておいて」
「大丈夫だ。それくらいは任せとけ」
「ありがとう。じゃあ、何かわかったらまた連絡して欲しい」
電話が切れる。俺たちはただちに移動を開始した。
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